2018年05月18日

●「インターネットのあやまれる俗説」(EJ第4766号)

 昨日のEJで、「IA」の旗手として、ダグラス・エンゲルバ
ート博士のことを取り上げましたが、彼が後にインターネットの
原型といわれる「アーパネット/ARPANET」の研究員の一
人であったことを知る人は少ないと思います。
 私は、AI(人工知能)がここにきて一挙に実用化したウラに
は、世界レベルのインターネットの普及があると考えています。
具体的にいえば、25年間に10億サイトを超える膨大なウェブ
サイトが創出され、それがAIの知識ベースとして、その進化に
大いに寄与しているからです。
 ところで「インターネットは軍事目的のネットワークである」
ということがよくいわれます。かなりの有識者でも、テレビなど
で、当たり前のように、そのように発言することを聞いたことが
あります。EJでも「インターネットの歴史」を156回連載し
たことがありますが、私の調べた限りでは、インターネットは軍
事目的で開発されたネットワークではないことは確かです。
 この軍事目的論は『TIME』誌/1994年7月25日号に
起因します。そこにはこう記述されています。
─────────────────────────────
 インターネットは国防総省の分散型コンピュータネツトワーク
ARPAネットから育ったものであり、もともと核攻撃による中
央情報施設壊滅を避けるために構想されたものである。
        ――1994年7月25日付の『TIME』誌
─────────────────────────────
 これに対する反論の最新のものとしては、村井純慶応義塾大学
環境情報学部教授が、2014年10月に上梓された次の著書に
その記述があります。
─────────────────────────────
 インターネットの誤った俗説のひとつは、ARPANETは軍
事用に開発され、それが民間に転用されたというものだ。これは
ARPANETが研究資金を出していたことから憶測された誤解
である。パケット交換方式でデジタル情報を伝播する技術は、障
害に強いネットワークの基礎になるので、そういう意味では軍の
目的にもかなっているのだが、ARPAのファンドの基本方針は
軍事目的に直結している研究をやれと言わないことだ。
    ──村井純著『インターネットの基礎』/角川学芸出版
─────────────────────────────
 村井純教授は、婉曲な表現ながら、インターネットが軍事目的
であるというのは誤った俗説であると否定しています。そもそも
ARPANETは、カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCL
A)、カルフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)、ユタ
州立大学、スタンフォード研究所の4つのコンピュータを相互接
続したネットワークであり、それが改良されつつ全米に拡大し、
インターネットになったのです。ちなみに、ARPANETは、
次の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
    ARPANET
    Advanced Research Projects Agency NETwork
─────────────────────────────
 ARPANETが軍事目的でないとすると、何を目的としたも
のかというと、そのヒントがエンゲルバート博士の次の発言にあ
ります。これは『月刊アスキー』が実施したエンゲルバート博士
とのロングインタビュー記事の一部で、非常に貴重なものです。
博士の追悼特集としてネット上に公開されています。
 この記事を読むと、ARPANETが「ネットワークの上に全
ユーザーの知識が集結したコミュニティ作り」を目的としたもの
であることがよくわかります。少し長いですが、貴重な発言なの
で、ご紹介することにします。
─────────────────────────────
 「相互接続すれば、君のコンピュータにぼくの得になりそうな
リソースはあるのかい?」当時、こんな会話がよく聞かれた。す
るともう1人が「なんだ、俺の報告書を読んでいないのか?」と
返すのだ。
 彼らは皆、立派な研究員だが、人の報告書なんて読んではいな
い。だがそう言われて探っていくうちに、相手も優秀だと気付き
「報告書のコピーを送ってくれ」という話になる。
 そのうち何人かの研究員が先の2人にこう言い出した。「ネッ
トワーク化すればコンピュータ上にどういったリソース(情報)
があるか分かるのか?」
 そもそも、コンピュータの相互接続は、プログラムなどのコン
ピュータリソースを共有するためのものだと考えられていたから
2人はそんな需要があるとは予想しておらず困惑していた。だが
それこそ、私にとってはチャンスだった。当時、私は、コンピュ
ータを使った知識のマネージメントを研究している唯一の研究員
だったからね。
 私はネットワークの上に全ユーザーの知識が集結したコミュニ
ティを作り出そうと提案した。「どんなリソースがあって、それ
をどう使ったらいいかといった情報を交換できる場をネットワー
ク上に作ろうじゃないか」という誘いに、皆、一同に賛成した。
 まあ、もっとも後になって、研究員であるはずの彼らが日頃の
研究に加えて、この情報センターというコミュニティの運営まで
しなければならなくなったことに気付き、憤慨するんだが・・。
とにかくこうして私は、ネットワークを使った知の共有という考
えの実践を始めた。
 今では、何百万というコンピュータがつながっているインター
ネットだが、この提案のおかげで、私のコンピュータはインター
ネットにつながった2つ目のノードとなった。言い換えれば私の
コンピュータの接続で、初めてインターネットワークが登場した
ともいえるわけなんだ。       https://bit.ly/2jWPtpD
─────────────────────────────
          ──[次世代テクノロジー論U/010]

≪画像および関連情報≫
 ●ARPANETの設計目的についての誤解/ウィキペディア
  ───────────────────────────
   ARPANETは核攻撃にも耐えるよう設計されたネット
  ワークだ、という言い伝えが広まっている。その方式が19
  60年代前半にアメリカ空軍のシンクタンクであるランド研
  究所のポール・バランによって提唱された核攻撃下でも生き
  残れるコミュニケーション方式であるという点を持ち上げて
  冷戦構造全体の中で技術としての「インターネット」を議論
  するべきなのか、それともロバーツの言うとおりパケット通
  信はバランの研究とは全く関係の無いイギリス国立物理学研
  究所のドナルド・デービスの研究成果を反映したもので「イ
  ンターネット」の誕生は新しいコミュニケーションツールと
  しての側面から評価してよいという議論までかなりの幅が見
  られる。インターネット協会は、ARPANETを生み出し
  た技術的アイデアの融合について次のように記している。
   ARPANETが核戦争に耐えられるネットワーク構築と
  何らかの関係があると主張する間違った噂が始まったのは、
  ランド研究所の研究からである。ランド研究所では核戦争を
  考慮した秘密音声通信を研究していたが、ARPANETは
  それとは全く無関係である。しかし後のインターネットワー
  キング作業の展開においては、ネットワークの大きな部分が
  失われてもインターネットワークが機能し続けるなど、その
  頑健性と生存可能性を強調したことがあるのも事実である。
                  https://bit.ly/2rIgt0A
  ───────────────────────────

エンゲルバート博士とのロングインタビュー.jpg
エンゲルバート博士とのロングインタビュー
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロージ論U | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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