ように考えているのでしょうか。
2018年2月6日の衆院予算委員会において、安倍首相は、
「通信と放送の融合」について、次のように答弁しています。
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ネットは自由な世界であり、その自由な世界に規制を持ち込む
という考え方は全くない。であるならば、放送法をどうするかと
いう問題意識を持っている。 ──安倍首相
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確かにこの考え方からは、放送法の規制を緩和しようとする意
思を読み取ることができます。しかし、この安倍首相の発言で、
この話は大きくなったわけではないのです。その象徴的な日は3
月2日です。そうです。朝日新聞が森友決裁文書の改ざんを報道
した日の夜のことです。
その日は、首相もよく出演する「BSフジプライムニュース」
放送10周年を祝う会が開かれ、その席で安倍首相の祝辞のなか
で放送法改正の話が飛び出したのです。
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電波、通信の大改革を行いたい。大競争時代に入り、ネット
や地上波が競合していく。 ──安倍首相
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当然のことですが、この席には民放関係者が大勢集まっていた
ので、これは衝撃とともに受け止められたのです。これに素早く
反応したのは、安倍政権寄りとされる読売新聞グループ本社代表
取締役主筆の渡邊恒雄氏です。この人は、新聞や放送業界の既得
権益の守護神を自任している人物です。そして、3月9日になっ
て、渡邊主筆の怒りは頂点に達したといいます。この理由につい
て、ある大手紙政治部記者は次のように述べています。
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ナベツネさんの怒りが決定的になったのは3月9日。この日、
安倍首相と日本テレビの大久保好男社長、粕谷賢之報道解説委員
長と会食したのですが、2人はナベツネさんの意を受けて、放送
改革の問題を首相に質したらしい。すると、安倍首相ははっきり
放送法4条の撤廃に言及したらしいのです。 ──リテラ
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この問題についての読売新聞の反応を時系列にピックアップす
ることにします。
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◎読売新聞
・政治的中立性の縛りを外せば、特定の党派色をむき出しにし
た番組が放送されかねない。 ──3月17日
・番組の劣化と信頼失墜を招く。 ──3月25日
◎渡邊恒雄読売新聞主筆
・首相がその気なら全面対決だ。 ──4月3日
・日テレがテレ朝みたいになってもいいのか。
──「週刊文春」/4月12日号
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気になることは、3月30日に安倍首相は渡邊主筆の招待で、
東京ドームで、読売ジャイアンツVS阪神タイガーズ戦を観戦し
ているのです。そのとき、渡邊主筆が安倍首相に直談判している
はずです。
さらにその3日後の4月2日、安倍首相と渡邊主筆は、福山正
喜共同通信社社長や熊坂隆光産経新聞社会長、芹沢洋一日本経済
新聞社論説フェロー、北村正任毎日新聞社名誉顧問らと、会食を
行っていますが、そのときは非常に和やかで、放送法の話は一切
出なかったといいます。
不可解なのは、その次の日の4月3日、渡邊主筆が次の発言を
していることです。
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首相がその気なら全面対決だ。──渡邊恒雄読売新聞主筆
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一般人は、安倍首相が3月30日に巨人・阪神戦を観戦したこ
とはニュースで知っていても、そこに渡邊主筆がいて、何らかの
話をしたかは知る由もないし、まして、3月9日の会合と4月2
日の会合のことは誰も知らないのです。したがって、一般人は、
読売新聞の渡邊主筆が、安倍首相の進めようとしている放送法改
正について「激高している」ことだけがわかるのです。
しかし、この一連の流れを見てわかることは、安倍首相はテレ
ビ業界にブラフをかけ、渡邊主筆が抗議すると、何らかの手打ち
をしたのではないかということです。
安倍首相が放送関係者が集まる席で、自ら放送改正について発
言した日が、朝日新聞が森友決裁文書改ざんをスクープした日の
夜であることは重要です。安倍首相としては、ここで一発ブラフ
をかける必要があると感じ、話したものと思われます。実際に安
倍首相は、放送法改正プランを作成しつつあるからです。放送法
改正について、リテラは次のように書いています。
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放送法は太平洋戦争時、戦意高揚の政府宣伝にラジオが使われ
た反省から、1950年に制定されたもの。放送法改正が実現す
れば、たとえば安倍政権を擁護し続けるDHCテレビのネット番
組『真相深入り!虎ノ門ニュース』が地上波で流れるようになる
だろう。また、放送倫理・番組向上機構(BPO)もネット番組
には権限が及ばないので、裏付け取材をしないまま沖縄の反基地
運動を侮蔑的に取り上げてBPOに放送倫理違反や人権侵害を指
摘された『ニュース女子』(制作はDHCテレビとボーイズ)の
ような番組も野放しになる。はたして安倍政権による「テレビ制
圧計画」は成功するのか否か。その成り行きを注視したい。
https://bit.ly/2qoSO3A
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──[メディア規制の実態/067]
≪画像および関連情報≫
●放送法改正、なぜ安倍首相は積極的なのか
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この問題を国会でも取り上げた奥野総一郎衆院議員(希望
の党)は、放送法の規制レベルをネットに合わせたときの問
題点について「ネットに合わせて規制を比較的自由にしたと
きに、権力が放送内容に対して口出ししてくることも考えら
れる」と指摘した。
現在は放送法3条で放送内容に対する外部の介入を禁じて
いる。一足先に政治的公平規制「フェアネス・ドクトリン」
が撤廃された米国では、トランプ大統領が、一部の放送局を
「フェイクだ」と攻撃。メディアの政治色の偏りなどを背景
に、社会の分断が強まっている。
ペンシルベニア大学アネンバーグ・コミュニケーション・
スクールのビクター・ピッカード准教授は、米国の状況につ
いて「政治的なバランスや公益を守ることを約束させるセー
フガードがなくなって、メディアはより市場原理に影響され
やすくなり、結果として極端な議論、センセーショナリズム
に支配されてしまった」と指摘。「米国の経験を教訓として
日本は警戒感を持つべきだ」と忠告した。元NHKプロデュ
ーサーで武蔵大学の永田浩三教授も「戦争中、放送が旗振り
役を担ったという歴史がある。放送法は国民の表現の自由を
最大限生かしながら健全な民主主義の発達を支えるもので、
その歴史の流れを無視して4条だけをいじるのは全体を見な
い議論だ」と批判した。 https://bit.ly/2EBp0Gi
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読売新聞渡邊恒雄主筆
公務員が草刈を指導する時に「葉だけ刈って根は残せ」と指導するのは有名な話です