田」についても述べておくことにします。
─────────────────────────────
→ 1.吉田証言の取り消し ・・・ 慰安婦問題報道
2.吉田調書の取り消し ・・・ 福 島原発報道
─────────────────────────────
「2」の福島原発報道が2014年5月20日であるのに対し
て、「1」の慰安婦問題報道は2014年8月5〜6日であり、
具体的には、次の特集記事です。
─────────────────────────────
「慰安婦報道を考える」
2014年8月5〜6日付/朝日新聞
─────────────────────────────
「1」の「吉田」は、吉田清治氏(故人)という人物です。吉
田清治氏は、福岡県出身とされる文筆家であり、朝日新聞紙上で
従軍慰安婦問題に関する「吉田証言」を発表します。報道記事は
13回、論評は3本です。しかし、十数年にわたって報道してき
た吉田清治氏の記事の大半の証言が、虚偽・創作であったと朝日
新聞自身が認めたのです。それが上記の特集です。
吉田清治氏は、1982年以降、戦時中に韓国の済州島などで
アフリカの奴隷狩りのように、若い朝鮮人女性を軍令で捕獲・拉
致し、強制連行したと著書や新聞や講演などで語り、日本、韓国
アメリカなどで、何度もそのことを証言して来たのです。
しかし、この吉田証言については、現代史家の秦郁彦氏が、吉
田氏が慰安婦狩りの舞台になったと証言した韓国の済州(チェジ
ュ)島で徹底的な現地調査を行い、1992年に産経新聞におい
て、その「虚偽性」を指摘したのです。その吉田氏も、96年に
週刊新潮の取材に「創作話」であったことを認めており、虚偽で
あったことは確かなことです。
安倍晋三首相も、自民党青年局長時代の97年5月27日、衆
院決算委員会第二分科会で「そもそもこの『従軍慰安婦』につき
ましては、吉田清治なる詐欺師に近い人物が〜」と指摘し、首相
就任後の2007年3月5日、参院予算委員会でも「吉田証言は
まったく、後にでっち上げだったことが分かったわけでございま
す」と答弁しています。
日本人の作家が慰安婦問題について虚偽の証言をする──日本
にとっては迷惑な話であり、外交的にもマイナスな話です。韓国
との関係も依然としてギクシャクしたままです。
朝日新聞は、1982年からの10年後に秦郁彦氏がその虚偽
性を指摘したにもかかわらず放置し、さらに12年後の2014
年になって、やっと吉田証言がウソであったことを謝罪したので
す。これでは朝日新聞が批判されるのは当然です。
しかし、元ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・
ファクラー氏は、朝日新聞が吉田証言を取り消したのは間違いで
あると主張しています。吉田証言に疑問がもたれるようになった
のは90年代に入ってからです。それまで朝日新聞の記者は、吉
田氏がウソをついているとは知るよしもなかったのです。ウソと
知りながら、記者が意図的に記事を載せたのではないのです。
それに吉田証言のことは、他の新聞社でも掲載しています。朝
日新聞以外の全国紙や通信社、地方紙、テレビ局も吉田証言を報
道しているのです。読売新聞、毎日新聞、産経新聞ですら吉田証
言を取り上げているのです。これらのメディアは記事を取り消し
ていません。それなのに、なぜ、朝日新聞だけが記事を取り消す
のでしょうか。
ファクラー氏は、謝罪をしても、記事を取り消すべきではない
理由を次のように述べています。少し長いですが、なるほどと思
うことが多いので、引用します。
─────────────────────────────
こんな例を挙げてみたい。19世紀まではニュートンの物理学
が完全に正しいと思われていた。20世紀に入ってから、アイン
シュタイン博士の相対性理論が発表されると、ニュートンの物理
学の一部は間違いだということがわかった。
だからといって、ニューヨーク・タイムズが19世紀に書いた
ニュートンに関する記事を、すべて取り消す必要があるわけがな
い。人類がもつ知識は、時代の変遷にともなって少しずつ上書き
されていく。情報がアップデートされたときに、アップデート前
の古い情報をいちいち取り消す必要などないのだ。
太陽系の一番外側にある冥王星は、つい最近までずっと惑星だ
と考えられてきた。06年8月、世界中の天文学者が参画する国
際天文学連合は、惑星の定義をあらためている。これにより、冥
王星は惑星ではなく、「準惑星」ということになった。だからと
いって、ニユーヨーク・タイムズが06年8月以前に「冥王星は
惑星」と書いている記事をすべて取り消すはずもない。
朝日新聞が「吉田証言」を取り消したのは、「冥王星は惑星」
という過去の記事を取り消しにするかのような対応だ。日本を覆
う右傾化の空気が、想像以上に大きなプレッシャーになっていた
ことは理解できる。だが、必要のない記事取り消しを発表してし
まったがために、安倍政権や右派論客、ネット右翼たちに「それ
見ろ。朝日新聞は間違った情報を垂れ流す報道機関ではないか」
という格好の攻撃材料を与えてしまった。
──マーティン・ファクラー著
『安倍政権にひれ伏す日本のメディア』/双葉社刊
─────────────────────────────
安倍政権になって朝日新聞は徹底的に攻撃されています。同じ
ように吉田証言を掲載していた他のメディアは口を拭って、朝日
新聞を批判しています。ある新聞社などは、この機会に朝日新聞
を叩き、朝日の読者を自社に乗り換えさせようとする卑劣な手段
までとっています。何しろ、総理大臣まで、いまだに朝日新聞を
攻撃しているのですから、トランプ米大統領のフェイクニュース
を笑えないのです。 ──[メディア規制の実態/048]
≪画像および関連情報≫
●「何年かかっても吉田証言の嘘訴える」/奥茂治氏
───────────────────────────
朝鮮半島で女性らを強制連行したと偽証した故吉田清治氏
の謝罪碑を無断で書き換えたとして、韓国で公用物損傷罪な
どで在宅起訴された元自衛官、奥茂治被告(69)が出国禁
止となってから24日で半年となる。公判で、検察は「慰安
婦問題を歪曲しようとした」と指弾した。慰安婦問題の根源
となった嘘をただそうと書き換えに及んだ奥被告の前には慰
安婦問題で異論を許さない韓国社会の「壁」が立ちはだかっ
た。(ソウル 桜井紀雄)
「非常に長かったが、日韓で応援してくれる人も大勢おり
苦にはならなかった」。21日に結審を終えた奥被告は、韓
国警察の出頭要請で訪韓し、出国禁止措置が取られてからの
約180日間をこう振り返った。特に長く感じたのが9月に
在宅起訴を通知されてからの3カ月間だ。高血圧の受診など
を理由に一時帰国を申し立てたが、認められず、いつ公判が
始まるか見通しもつかない。裁判所に問い合わせたところ、
「共犯者がつかまらないから」との説明だった。
検察は碑の撤去を委任した吉田氏の長男の立件にこだわり
日本に滞在したまま教唆罪で在宅起訴するという苦肉の策に
出た。奥被告には公判直前の今月10日に正式な起訴状が届
いた。「国際的に認定された慰安婦問題を歪曲しようとし、
韓日外交に摩擦を生じさせかねない」。検察は論告求刑でこ
う指摘した。奥被告は「日韓友好の妨げになっている吉田氏
の嘘の碑文を消そうとしてやったこと。全く逆にとられてい
る」と吐露した。検察には、朝日新聞が吉田氏の虚偽を認め
記述を取り消した記事などを提出。丁寧に経緯を説明し、理
解を得られたとの実感があっただけにやるせなさが募る。
2017年12月24日 http://bit.ly/2FQjNz0
───────────────────────────
吉田 清冶氏