2018年02月27日

●「経営委員長を送り込んだ1次政権」(EJ第4712号)

 第1次安倍政権は、2006年9月26日からスタートしてい
ます。2007年6月に、当時、富士フィルムホールディングス
社長(現会長)の古森重隆氏がNHK経営委員長に就任していま
す。これは安倍首相が「NHK支配」に向けて最初に実施した人
事です。政権によるメディア支配は最初から安倍首相の頭にあっ
たものと思われます。
 NHKの会長は、放送法上、経営委員会が任命し、その選出に
は、経営委員12名中、9名以上の同意が必要とされるのです。
つまり、経営委員うち4名が反対すると、会長になれないことに
なります。経営委員会は強い権限を持っているのです。
 そこで、安倍首相は、経営委員長に自分に近い人間を送り込も
うとしたのです。それが古森重隆氏です。古森氏は「四季の会」
のメンバーです。「四季の会」というのは、安倍晋三氏が若手議
員の頃から応援し、激励している財界人の会です。「ライブドア
ニュース」に次の解説があります。
─────────────────────────────
 「四季の会」は、葛西敬之・東海旅客鉄道(JR東海)会長が
幹事役を務める財界人の集まり。前回、安倍氏が政権を投げ出し
た後も、元首相を励まし続け、「再登板」を働きかけてきた。
 葛西氏が東大法学部で机を並べ親友だった与謝野馨氏(故人)
に「若手の有望株を呼んで勉強会をやろう」と持ちかけ、与謝野
氏が、当時官房副長官だった安倍氏を引き合わせたのが始まり。
2000年に「四季の会」は発足した。 http://bit.ly/2EPcCaE
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 安倍政権では、その第1次政権のときから、安倍首相の取り巻
きというか、応援団が多くいて、いろいろな分野で暗躍していま
す。NHKでも同様です。この古森経営委員長時代に、NHK会
長に就任した第19代の福地茂雄会長(アサヒビール相談役)と
20代の松本正之会長(JR東海副会長)は、いずれも「四季の
会」のメンバーです。
 しかし、古森経営委員長の評判は、必ずしも芳しいものではな
かったのです。やることが強引で、何かと物議をかもすことが多
く、番組内容に口を出すことも多々あったのです。そのため、日
本ジャーナリスト会議(JCJ)や、「NHKを監視・激励する
視聴者コミュニティ」などの市民団体が、古森経営委員長の解任
を要求したほどです。
 この第1次安倍政権のときに、放送行政全般を総括する総務大
臣のポストに就いていたのが、第2次安倍政権の官房長官を務め
ている菅義偉氏です。今と同じ構図です。このとき、菅総務相は
テレビ局への行政指導を連発しています。
 2006年9月〜2007年9月まで、菅総務相が行政指導を
行った案件を砂川浩慶氏の本から引用します。
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   1.2006年12月 8日
    毎日放送「2006ミズノクラシック」
   2.2007年 3月30日
    関西テレビ「発掘!あるある大事典U」
   3.2007年 4月27日
    TBS「人間!これでいいのだ」
    TBS「サンデージャポン」
    TBS「みのもんたの朝ズバー!」
   4.2007年 4月27日
    テレビ東京「今こそキレイになってやる!」
   5.2007年 4月27日
    毎日放送「たかじんONEMAN」
   6.2007年 4月27日
    テレビ信州「ゆうがたGet!」
      ──砂川浩慶著『安倍官邸とテレビ』/集英社新書
─────────────────────────────
 驚くべき数の多さです。しかも同じ日に、いくつもの行政指導
を行っています。これらを個別に見て行くと、政治的なものはな
く、単に一部に事実と異なる報道があったり、過剰な演出などの
指摘であり、総務省が目くじら立てて、行政指導をすべき事案で
はないと思われます。これについて、著者の砂川浩慶氏は、次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 放送局が意図的に事実をまげた報道を行なうことは当然責めら
れるべきであるが、それは本来、視聴者と放送局という直接的な
関係の中で謝罪・訂正がなされるべきものである。免許付与権限
を持つ総務省が、国家権力を背景に放送局に威圧的な指導を繰り
返すことが大きな萎縮効果をもたらすのは明らかだ。
      ──砂川浩慶著『安倍官邸とテレビ』/集英社新書
─────────────────────────────
 実はこのとき、菅総務相は、テレビ局などの番組に行政がもっ
と介入しやすくできるよう放送法第175条を改正しようと画策
していたのです。そのため、放送局への介入を意図的に増やして
いたのではないかと考えられます。
 しかし、さすがにこの改正には「総務大臣の権限強化につなが
りかねない」との反対が多く出て、当時の民主党が反対し、自民
党との協議で却下されています。これを受けて放送界でBPOに
「放送倫理検証委員会」を設置することで収まっています。
 しかし、メディアを何とか規制し、政権にとって都合の悪いこ
とは報道させないようにしようとする安倍首相と菅官房長官のコ
ンビが再び復活し、もっと露骨にメディアを牛耳ろうとしている
のです。番組の細かなこと──例えば、街頭での国民の声を収録
したビデオに対し、総理大臣ともあろう人が、放送法違反である
として、直接クレームをつけることまでやっています。メディア
もそれと戦うどころか、政権の意向を忖度し、文句をつけられな
い内容の番組を制作し、国民の知る権利を大きく阻害しているの
です。         ──[メディア規制の実態/036]

≪画像および関連情報≫
 ●放送行政 口出しが過ぎる総務省(東京新聞社説)
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   大臣が新たな強権を要求すれば、役人は番組の作り方を指
  南する−関西テレビの番組捏造問題を機に、放送に対する行
  政介入が目立つ。視聴者の怒りに乗じた、公権力の過度な口
  出しは危うい。菅義偉総務相は関西テレビに対して、捏造に
  関し経営責任にまで踏み込む報告を要求した。
   総務省情報通信政策局は、主要民放、NHKの番組チェッ
  ク体制を調査し「取材やVTR編集に局プロデューサーが立
  ち会う」「専門家の参画を進める」などと具体的な再発防止
  策を提言した。総務相らは自らを「放送監督官」と勘違いし
  ていないか。そうだとすれば戦前の意識だ。番組作りは各局
  独自の創意工夫が基本である。
   おまけに同相は、放送局に対する業務改善命令や課徴金な
  どを新設して、監督を強化すると言い出した。「事実と異な
  る報道に表現の自由はない」というのである。報道の何が事
  実と異なるか、一義的には明らかでないことが多い。行政に
  よる介入は極めて危険だ。この点は再発防止計画を命ずる同
  省の新方針も同じだ。放送法制では番組が政治的に公平であ
  ることや事実を曲げないことを求めている。放送免許取り消
  し、電波停止などの処分もある。処分発動の前例がないのは
  表現・報道の自由を侵しかねないからである。
                   http://bit.ly/2sRw1lt
  ───────────────────────────

菅総務大臣(当時).jpg
菅総務大臣(当時)
 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | メディア規制の実態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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