2018年02月14日

●「エンゲル係数を巡る国会での論争」(EJ第4703号)

 安倍首相は、自分自身が批判されたり、自らが力を入れている
政策にケチをつけられたりすると、アタマにくるタイプです。だ
から、予算委員会でも、自分が話をしているときにヤジられると
反応するし、自分でもヤジり返したりします。
 1月31日の参議院予算委員会での出来事です。質問に立った
民進党の小川敏夫議員が、アベノミクスによって国民の生活が苦
しくなっており、それは昨今のエンゲル係数の顕著な上昇によっ
ても裏づけられると指摘したのです。
 これに対し安倍首相は、またぞろ聞かれてもいないのに有効求
人倍率やベースアップなどをアピールし、エンゲル係数の上昇に
ついては、これはファクトではあるが、と前置きし、次のように
答弁したのです。
─────────────────────────────
 エンゲル係数の上昇には、物価変動のほか、食生活や生活スタ
イルの変化が含まれている。          ──安倍首相
─────────────────────────────
 これは「珍答弁」です。エンゲル係数についてウィキペディア
を参照すると、次のように出ています。
─────────────────────────────
 一般に、エンゲル係数の値が高いほど、生活水準は低いとされ
る。これは、食費(食糧・水など)は生命維持の関係から(嗜好
品に比べて)極端な節約が困難とされるためであり、これをエン
ゲルの法則という。           ──ウィキペディア
─────────────────────────────
 要するに、世帯ごとの家計の消費支出に占める飲食費の割合が
エンゲル係数であり、それが上昇するということは、生活が苦し
くなることをあらわしているということです。これに対して安倍
首相は、物価変動に加えて、食生活や生活スタイルの変化によっ
ても、エンゲル係数は上がると答弁したのです。これは、安倍氏
独特の解釈である、というより間違っています。
 この参議院予算委員会でのやり取りは、それだけでは終わらな
かったのです。2月1日の午前1時過ぎのことですが、ウィキペ
ディアの「エンゲル係数」の項が、次のように安倍首相の主張に
沿うかたちに書き換えられたのです。
─────────────────────────────
 エンゲル係数の値が、高いほど生活水準は低いとされてきたが
各家庭の前提条件に大きな相違があって、比較にならなくなった
として、重要度が下がっている。
        ──2018年2月5日発行「日刊ゲンダイ」
─────────────────────────────
 ウィキペディアは、「ウィキ」という技術に基づいて作成され
ています。ウィキとは、ウェブブラウザを利用して、ウェブサー
バー上のハイパーテキスト文書を書き換えるシステムです。つま
り、ウィキペディアのコンテンツは、「編集」をクリックすれば
誰でも自由に書き換えることができるのです。
 2月1日の午前1時に変更されたコンテンツは、誰かによって
直ちに正しく書き換えられて元に戻ったのですが、またしてもそ
の文章が編集され、間違った表現に書き換えられるなど、いわゆ
る「編集合戦」が続くという事態になったのです。
 現状「エンゲル係数」のコンテンツは、正常な表現に戻り、内
容を編集できない「保護」の状態になっています。ところで、誰
が安倍首相の主張に書き換えたのでしょうか。犯人はわかってい
ないのです。まさか官邸がそんなバカなことをするはずはないと
思いますが、これについては、巻末のリテラの記事を読んでいた
だきたいと思います。これも「忖度」です。
 この件について、前記の日刊ゲンダイは、次のように記事を締
めくくっています。
─────────────────────────────
 昨年は、安倍が国会で「辞書には、『そもそも』には『基本的
に』という意味もある」と答弁し、そんな意味を載せている辞書
はないにもかかわらず、「そもそもには基本的にという意味もあ
る」と閣議決定したこともあった。強引に言葉の意味まで変えて
しまう。恐ろしいまでのファシズム政権である。
        ──2018年2月5日発行「日刊ゲンダイ」
─────────────────────────────
 「ウィキペディア」といえば、2006年発刊の梅田望夫氏の
『ウェブ進化論』のなかの記述で、今でも忘れられないものがあ
ります。それは、米エスクワイア誌のA・J・ジェイコブズ氏が
2005年9月に行ったウィキペディアのコンテンツの正確性を
調べる実験についての記述です。
 ウィキペディアのコンテンツは、ウェブユーザーが自発的に記
述するシステムになっており、誰でもそれを書き換えることがで
きるのですが、問題はそれが正しいかどうかです。
─────────────────────────────
 ウィキペディアについての記事を書く上で、ウィキペディア・
コミュニティの編集能力や校閲能力や推敲能力に完全に依存して
みようという実験だ。ジュイコブズは、スペルミスや事実誤認に
溢れたウィキペディァについての709語からなる文章をまず書
き、ウィキペディア上にアップした。そして、その文章を勝手に
修正し、最後はエスクワイア誌の記事らしい文章に仕上げること
を、ウィキペディア・コミュニティに求めた。CNETがこの実
験について報じた記事によれば、最初の24時間で224回、次
の24時間で149回の編集が行われた。すべての事実誤認が瞬
く間に修正された後は、文章を練り上げて明断で読みやすい記事
に仕上げる推敲作業に重点が移り、771語からなる記事にまと
まってエスクワイア誌に掲載された。     ──梅田望夫著
      『ウェブ進化論/本当の大変化はこれから始まる』
                     ちくま新書582
─────────────────────────────
            ──[メディア規制の実態/027]

≪画像および関連情報≫
 ●すべてが安倍政権に都合よく書き換えられる?
  ───────────────────────────
   ウィキペディアのエンゲル係数の項目を、“重要度が下が
  っている”“高いほど生活水準が低いとは言えない”などと
  改変したユーザーは、いずれも他の編集履歴が確認できず、
  誰がどのような意図で編集したかは不明である。しかし、エ
  ンゲル係数上昇の問題が国会で取り上げられた直後というタ
  イミングや、自民党がネットを常時監視し、工作別働隊であ
  るJ−NSC(通称ネトサポ)を組織していることを考える
  と、これは偶然なのかとの疑念が頭をもたげてくる。
   この状況を見ながらふと思い起こしたのは、ジョージ・オ
  ーウェルの小説『1984年』だ。言わずと知れた、全体主
  義的社会を描いた名作SFである。主人公のウィンストン・
  スミスは「ビッグ・ブラザー」が率いる一党独裁政権下のイ
  ギリスで「真理省」に勤務し、歴史改竄の仕事をしている。
  人々は「テレスクリーン」という装置によって監視されてい
  る。物語の序盤、主人公が「タイムズ」紙の記事を改変する
  場面がこのように描かれる。
   「ウィンストンはテレスクリーンの“バックナンバー”を
  ダイヤルし、「タイムズ」の該当号を請求した。するとそれ
  は数分のうちに気送管から流れ出てくる。彼の受けたメッセ
  ージは新聞の論説か記事に関わるもので、それが何らかの理
  由で改変、いや公式の言い方では修正、する必要があると見
  做されたのだった。        http://bit.ly/2nN759J
  ───────────────────────────

参議院予算委員会で質問する小川敏夫議員.jpg
参議院予算委員会で質問する小川敏夫議員
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | メディア規制の実態 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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