館によって創刊され、現在も続いています。30代〜40代の男
性サラリーマンがメインの読者層です。小学館の雑誌には、この
ほかに「女性セブン」と「SAPIO」があります。
「週刊ポスト」は、基本的にはゴシップ暴露誌ですが、政治的
批判記事をトップ記事にして取り上げる特色があります。その基
本的姿勢は保守的、反中、反韓で、政治不正は許さじの記事が多
く、大きな事件は連載して追及するなど、なかなか読み応えがあ
るので、私は内容にかかわらず、「週刊現代」と一緒に毎週必ず
買うことにしていたのです。
ところが、2015年頃から、突然政治記事が紙面からほぼ完
全に消滅し、読者層を老年層に切り替えたのか、医療、介護、医
薬などの記事がメインになったのです。2017年にあれほど盛
り上がった「森友/加計問題」ですら、本来であれば「週刊ポス
ト」が好んで取り上げるテーマであるのに、一行たりとも報道し
なかったのです。一体何があったのでしょうか。
2015年4月のことです。「週刊ポスト」は、時の高市早苗
総務相の大臣秘書官を務める実弟がかかわったとされる「高市後
援会企業の不透明融資」問題をトップ記事に取り上げ、報道した
のです。続いて5月には、東京地検特捜部が捜査を開始した日本
歯科医師連盟(日歯連)から菅官房長官が代表を務める自民党神
奈川県連に3000万円が迂回献金されていた事実をスッパ抜い
ています。自民党への連続攻撃です。
このときの「週刊ポスト」の編集長は三井直也氏という人物で
あり、反安倍政権の姿勢を明確にし、毎号のように安倍政権の不
正疑惑を記事として取り上げたのです。いかにも「週刊ポスト」
らしい記事といえます。このとき「週刊ポスト」の発行人は、森
万紀子氏という人物です。森氏は、同じ小学館の「女性セブン」
の編集長でもあります。
三井直也編集長による高市早苗総務相の実弟の関わる記事は、
事実を基にして慎重に書かれており、その実弟が否定している日
本政策金融公庫の不正融資に関与した疑いについては、いっさい
書いていないのです。
ところが、高市総務相の実弟は、「週刊ポスト」に対して、名
誉棄損訴訟を起こしてきたのです。それも三井編集長だけでなく
発行人の森万紀子氏、担当編集者、ライターにいたるまで、その
記事に関わった全員を被告とするという厳しい訴訟であり、警視
庁への刑事告訴まで行っています。
こういう訴訟は「恫喝訴訟」、すなわち「スラップ訴訟」とい
い、お金もかかるので、滅多にやらない徹底抗戦的な訴訟なので
す。以下は、スラップ訴訟の定義です。
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スラップ訴訟とは、ある程度の発言力や社会的影響力のある、
社会的に優位といえる立場の者が、特に発言力や影響力を持たな
い相対的弱者を相手取り訴訟を起こすこと。強者が弱者に対して
訴訟をしかけることで、半ば社会的な恫喝あるいは報復として機
能する。 http://bit.ly/2EiuyFT
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もちろん、菅官房長官は、自身への疑惑に関しても同様の措置
をとっています。官邸からのこのスラップ訴訟に小学館幹部は震
え上がったといわれます。この場合、官邸側としては、自民党の
閣僚や幹部に関しては、自分に非があるなしに関係なく、直ちに
こういう措置を取ることに決めているようです。高市総務相の実
弟の訴訟も官邸の指示に沿って行われています。ある週刊誌編集
幹部は次のように述べています。
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高市総務相のケースもそうでしたが、自民党は閣僚や幹部のス
キャンダルを週刊誌がやろうとすると、すぐに党の顧問弁護士を
たてて、『訴訟するぞ』とプレッシャーをかける作戦をとってい
ます。新聞とテレビは抗議だけで黙らせることができるが、週刊
誌はそうはいかない。それで、週刊誌がいま、いちばん恐れる訴
訟をもち出して、圧力をかけるわけです。週刊誌もよほどの鉄板
の事実がない限り、スキャンダル追及なんてできなくなってしま
いました。 ──週刊誌編集幹部のコメント
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これを受けて小学館幹部は、あわてて三井編集長の更迭を決断
しますが、あまり急に更迭させると、他のマスコミから不審に思
われるので、一年後に更迭しています。一説によると、この名誉
棄損裁判と編集長人事について、官邸と小学館の間で、何らかの
取引があったのではないかといわれています。
それ以後、「週刊ポスト」は、編集方針を変更し、ほとんど政
治記事を取り上げず、現在にいたっています。これは、明らかな
官邸からの圧力の結果であり、他誌についても、スラップ訴訟を
起こされないよう政治記事の取り上げには慎重になります。もし
訴訟を起こされると、コスト的に引き合わないからです。そのた
め、今後安倍政権にどんな疑惑があっても、よほどの証拠と豊富
な資金力がない限り、取り上げることを控えるはずです。これこ
そ「忖度」そのものであり、国民の知る権利の侵害ですが、多く
の国民は、それに気づいていないのです。
古賀茂明氏によると、一党独裁国家にいたるホップ、ステップ
ジャンプがあるそうです。まず、政府がメディアに圧力をかける
のがホップです。その効果が浸透してくると、メディアが自粛し
て、つまり、忖度して、政府を批判する報道をしなくなります。
これがステップです。
この期間が相当長く続くと、国民は政府が何もしなくても、民
主的手続きによって、特定の候補者を選ぶようになります。これ
がジャンプです。一党独裁国家は、このようにして誕生するので
す。ナチスヒットラー政権もこのようにして誕生しています。安
倍政権もまさに同じステップを踏みつつあります。
──[メディア規制の実態/005]
≪画像および関連情報≫
●文藝春秋社長が安倍政権を「極右の塊」と発言/花田紀凱氏
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2016年12月6日夜、市ヶ谷の私学会館で、保坂正康
さんの新刊『ナショナリズムと昭和』の出版記念会が開かれ
た。参加者は250人ほど。そこで発起人代表として文藝春
秋松井清人社長が挨拶したが、これが驚くべきものだった。
「極右の塊である現政権をこれ以上暴走させてはならない」
──現政権、つまり、安倍政権を「極右の塊」と批判したの
だ。「暴走」と難じたのだ。
お断りしておくが、朝日新聞の社長ではない。文藝春秋の
現社長がこう言ったのだ。「メディア自体がおかしくなって
しまっている」とも言ったという。むろん、保坂さんの出版
記念会だから、保坂さんへのリップサービスということもあ
ろう。しかしそうだとしても、度がすぎる。僕自身はこの会
に出ていないが、出席者の一人にそう聞いたので、何人かの
出席者に確認して確認した。
出席していた元文藝春秋専務の半藤一利さんもこう言った
という。「昔は反動と言われていた私が今や、極左と言われ
ている。私より激しい松井社長などなんと言われることか。
世の中の軸がズレてしまっている」。文藝春秋といえば、戦
後ずっと、いや、菊池寛が創刊して以来、穏健な保守の代表
だったはずだ。そういう読者が文藝春秋を支えてきたのでは
なかったか。数年前、売れ行き不振を理由に、オピニオン誌
『諸君!』を休刊した頃から、文藝春秋がおかしくなってい
ると思っていたが、ここまで来ていたとは。
http://bit.ly/2CK9hYz
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菅官房長官の疑惑を報道した「週刊ポスト」