2017年12月27日

●「量子アニーリングの意味するもの」(EJ第4675号)

 Dウェーブマシン──量子コンピュータという言葉は使うもの
の、このコンピュータは、いわゆるノイマン型コンピュータのよ
うな何でもやれる汎用マシンではないことに留意する必要があり
ます。それでは、何を目的とするマシンなのでしょうか。
 Dウェーブマシンは、組み合わせ最適化マシンです。それ以外
のことはできないのです。組み合わせ問題とは、複数ある組み合
わせのなかから、最も条件に合う組み合わせを選び出すという問
題です。10月27日のEJ第4634号で述べた巡回セールス
マンの問題がこれに該当します。
 この組み合わせ問題は、現在のIoTの時代には、とくに計算
処理が不可欠なのです。これについて、早稲田大学高等研究所准
教授田中宗氏は、組み合わせ問題を解くコンピュータの必要性を
次のように述べています。
─────────────────────────────
 では、なぜ組合せ最適化処理を高速化する必要があるのだろう
か。組合せ最適化処理はデータ規模(巡回セールスマン問題の例
で言えば、訪問する場所数)が多くなるにつれて、選択肢の数が
爆発的に増加する。そのため、データ規模が大きくなっても「組
合せ最適化処理を高速に実行する技術」が求められていたのだ。
 IoTが社会実装へと向かいつつある昨今、より多くのセンサ
ーデータを獲得することが可能になり、かつ、その膨大な情報を
高速に処理することが必須となる。   http://bit.ly/2Bv6MWb
─────────────────────────────
 実は、Dウェーブマシンには、プロセッサ、すなわちCPUも
メモリもハードディスクのような外部記憶装置もないのです。そ
して、Dウェーブマシンを使うときは、問題を解くためのアルゴ
リズム、いやプログラムも開発する必要はないのです。それでは
Dウェーブマシンの正体は何なのでしょうか。
 Dウェーブマシンの特質を一言でいうと、次のことに尽きると
思います。
─────────────────────────────
 Dウェーブマシンとは、量子力学の「焼きなまし現象」を超
 電導回路を使って発生させる実験装置である。
               ──ジョーディー・ローズ氏
─────────────────────────────
 「焼きなまし(アニーリング)現象」とは何でしょうか。
 焼きなましは、金属加工技術の一種であり、日本刀の製造にも
使われています。いったん熱を加え、熱を徐々に弱めていくこと
で、金属原子の配置を整列させ、金属内の歪みを除去する方法の
ことをいいます。物理的には、アニーリングを使うことによって
エネルギーの低い安定した状態に移行させることを意味します。
 それでは、焼きなましの現象と量子アニーリングは、どのよう
な関係にあるのでしょうか。
 量子アニーリング理論を最初に考えたのは、東京工業大学の西
森秀稔教授と、当時西森研究室に大学院生として所属していた門
脇正史氏(現・エーザイ筑波研究所)の2人です。
 西森秀稔氏が、東京大学理学部物理学科の学生だった頃、「ス
ピングラス」という物質に関する理論研究が統計物理学の分野で
盛んに行われていたのです。この研究に興味を持った西森秀稔氏
は、統計物理学を専門分野に選んだのですが、この「スピングラ
ス」は、Dウェーブマシンと深い関係があるのです。
 なぜなら、Dウェーブマシンは、特殊な磁性体であるスピング
ラスを模した「3次元イジングモデル」という模型を実装してい
るからです。しかし、スピングラスの説明をすると、話がさらに
複雑になるので、省略します。
 1982年に米国の物理学者が脳の神経回路(ニューラルネッ
トワーク)が働く仕組みとこのスピングラスの理論との間に共通
点があることを発見します。西森秀稔教授はこれについて研究し
ニューラルネットワークに関する数式から、量子にみられる「量
子トンネル効果」を使って最適解を求める理論を門脇正史氏と共
同で論文として発表したのです。そのプロセスが焼きなましに似
ていたので、「量子アニーリング」と命名したのです。
 ここでいう最適解を求めるイメージを添付ファイルにしてあり
ますが、どういう意味なのかについて、竹内薫氏の説明を次に引
用します。
─────────────────────────────
 横軸は、可能性のパターン。縦軸はそのときのエネルギー(不
安定さ)を表す。フォン・ノイマン型コンピュータで、最適解を
探すためには、左から右へ順番に曲線を計算していき(玉を転が
し)、最もエネルギーの低いところを見つけることになる。そん
な「しらみつぶし」は大変なので、今は、適当なところから計算
を始めるやり方が主流である。近くに、もっと低いところがない
かを探すやり方だ。しかし、これだと、偽の答えにハマってしま
うと抜けだせない。
 そこで焼きなまし法の登場だ。焼きなまし法では、歪んで擬似
的に安定した金属に熱を加えるように、計算結果を揺すって、ハ
マった偽の解から脱出させる。揺すり方が適切なら、計算を繰り
返すことで、転がった玉は、最適解に辿りつけるだろう、という
戦法だ。            ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
─────────────────────────────
 何となくイメージは掴めますが、内容は相当難解です。とくに
「揺すって」という部分はよくわかりません。まとめると次のよ
うになります。「焼きなまし」というエネルギーの最適化を行う
自然現象が経験的に知られており、それを真似して計算モデルを
作り、量子力学を応用して「量子アニーリング」という最も効率
のよい計算モデルを案出、それをDウェーブマシンで物理的に再
現したということになります。
            ──[次世代テクノロジー論/65]

≪画像および関連情報≫
 ●“量子コンピューター”組み合わせ「最適化問題」を解く
  ───────────────────────────
   現在最速のスーパーコンピューターで何百年もかかる計算
  を一瞬で解くとされる、量子コンピューターの実現が近づい
  てきた。ここ十数年の間、「2020年にも実用化か」「2
  050年までかかる」などさまざまにささやかれてきた。だ
  が、量子力学の法則に基づく“正統派”だけでなく、今や多
  様な計算機が登場し、実用性を打ち出す成果も徐々に出てい
  る。“夢の計算機”は創薬の効率化や高精度の気象予測、モ
  ノづくりの高度化などに威力を発揮する。人工知能(AI)
  の性能も爆発的に向上するだろう。
  【並列処理】
   量子コンピューターは、異なる二つの物理的状態を同時に
  取れる、量子力学的な「重ね合わせ」の性質を利用して計算
  する。現代のコンピューターは一度に一つの計算しかできな
  いが、量子コンピューターはこの重ね合わせの原理により、
  複数の計算を同時に行う。そのため、1回の計算で大規模な
  並列処理が可能なのだ。例えば、現在の暗号は解読に膨大な
  時間がかかることでその安全性を確保するが、量子コンピュ
  ーターが実現すれば、既存の暗号はたやすく破られる可能性
  がある。暗号は携帯電話やインターネット、電子マネーなど
  我々の生活に浸透しており、これらのサービスが根底から覆
  される恐れがある。        http://bit.ly/2BywSHE
  ───────────────────────────

量子アニーリングによる「最適解」.jpg
量子アニーリングによる「最適解」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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