2017年12月15日

●「ややこしい計算をどう計算するか」(EJ第4667号)

 元来コンピュータは、どのような目的で開発されたのでしょう
か。それは、ややこしくて、時間のかかる計算を機械にやらせる
ためです。既出の竹内薫氏によると、ややこしい計算には次の3
種類があります。
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       @      大きい数の計算
       A     高度な関数の計算
       B幾つもの式をセットした計算
                ──竹内薫著/丸山篤史構成
 『量子コンピュータが本当にすごい/グーグル、NASAで実
         用が始まった“夢の”計算機』/PHP新書
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 @は「大きい数の計算」です。
 暗算で計算するには限界があります。「指折り数えて」という
言葉があるように、指を折って数える計算も限定的です。そこで
登場したのが「アバカス」です。地面に溝を掘り、そこに石ころ
を並べて計算したのです。これが後に、「そろばん(算盤)」に
なったのです。古くメソポタミア文明のシュメールで使われ、や
がて中国に渡ったといわれます。アバカスについて竹内薫氏は、
次のように書いています。
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 中国ではアバカスのことを算盤といい、紀元前2世紀の文献が
あるようだ。日本に伝わったのは16世紀以前で、「さんばん」
が訛って「そろばん」になったと考えられている。日本で普及し
ているものは五つ珠だが、中国のものは七つ珠である。少し上の
世代には、珠の多い古いそろばんを憶えている読者もいるかもし
れない。実は、七つ珠は「五の珠」が二つと「一の珠」が五つあ
る。つまり、十六進法で計算できるのだ(十五まで数えて、十六
で桁が一つ上がる)。その点、日本の五つ珠(「五の珠」が一つ
と「一の珠」が四つ)は十進法に特化しているといえる。ちなみ
に、先ほど触れたシュメールのアバカスは、なんと六十進法を計
算するらしい!        ────竹内薫著の前掲書より
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 計算をするには、指からはじまって、アバカス、そろばんなど
の道具を使いますが、これらを「計算補助器具」といいます。計
算補助器具は、発達して現在は電卓になっています。それもスマ
ホに標準装備されているので、いつでもどこでも使うことができ
ます。しかし、これによって現代の日本の若者は、電卓に頼り過
ぎるあまり、簡単な加減乗除ができなくなりつつあります。
 コンピュータのハードやネットワークを指導するさい、ごく簡
単な加減乗除をさせる機会がありますが、大卒の新人でもその計
算、とくに割り算がスムーズにできない人が多いのです。何でも
電卓でやってしまうので、計算機能が劣化しているのです。
 Aは「高度な関数の計算」です。
 関数とは、与えられた文字や数値に対し、定められた処理を実
施して結果を返す機能のことであり、表計算ソフトやデータベー
スソフト、プログラミング言語などで利用されます。現代では、
表計算ソフト「エクセル」の関数が有名です。
 関数は、自動販売機の例で説明できます。自動販売機では、お
金を入れると、指定の商品が出てきます。この場合、投入するお
金は「入力」であり、出てくる商品は「出力」です。
 お金については、指定の商品の価格より入力金額が多い場合、
お釣りが出ます。紙幣でも硬貨でも対応できます。つまり、入力
が変化しても、出てくる商品、すなわち、出力は一定です。つま
り、自動販売機は関数なのです。数学的には「定数関数」という
ことになります。
 関数に関しては現代では「関数電卓」がウインドウズには付い
ていますが、昔は「計算尺」というものがあったのです。60歳
未満の人は「計算尺」といっても知らないと思います。
 この計算尺をジブリ映画『風立ちぬ』で見ることができます。
この映画の主役である堀越二郎が、計算尺と見られるものを使っ
て設計に取り組んでいるシーンがあります。その画像を添付ファ
イルに添付しておきます。堀越二郎が手にしているものが計算尺
であると思われます。
 計算尺の原理は、「対数」の発見が元になっています。対数と
いうと、いかにも難しく感じますが、竹内薫氏は次のように述べ
ています。
─────────────────────────────
         対数は「桁の数学」である
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 「桁の数学」とはまさに明言です。ICTの世界では、非常に
桁数が多い数字を扱うことが多いのです。その計算を簡単にでき
るのが対数であるからです。具体的には圧縮表示できるのです。
例えば、誰でもわかる10進数の1000と100万を掛けると
いくらになるかを考えます。
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   1000×1000000=1000000000
                     3+6=9
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 1000は対数では「3」、100万は対数では「6」、これ
を加えると「9」、つまり、ゼロの数が9個、「10億」という
ことになります。対数を使うと、次のことが可能になります。こ
の原理を使ったものが計算尺です。
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  対数を使うと、掛け算を足し算、割り算を引き算でやれる
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 Bは「幾つもの式をセットした計算」です。
 これこそコンピュータを使わないとできない計算であるといえ
ます。そういう意味で、コンピュータこそ最強の計算補助器具で
あるといえます。    ──[次世代テクノロジー論/57]

≪画像および関連情報≫
 ●計算尺は興味をそそる不思議な存在
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   最近は計算尺を見る機会はほとんどありません。若い人に
  とっては、すでに「見たり触ったりしたこともない存在」に
  なっていることでしょう。
   私は子供の頃、叔父が持っていた小さな少し変わった「も
  のさし」を計算尺だと教えられて、何故「ものさし」で計算
  が出来るのか不思議で仕方ありませんでした。動かしてみて
  も特に何も起こりません。どう役に立つのかサッパリ分から
  ないものでしたが、それでも何となく精巧に出来たハイレベ
  ルの品物だというイメージを持ちました。
   何年生の時だったかよく覚えていませんが、中学生の頃、
  計算尺を買ってもらいました。下の写真にあるものです。計
  算尺を欲しいと思ったのは、「計算で何とか楽をしたい」と
  いう下心があったと思います。その後わずかな時間でしたが
  中学校あるいは高校で計算尺に関する授業もありました。私
  自身は計算尺を高度に使いこなしをしたとは思いませんが計
  算尺はなつかしい道具です。
   多分、計算尺を考案した人は、「簡単に計算ができる便利
  なものを作りたい」という強烈な思いがあって計算尺という
  すばらしい工夫/道具に到達したのではないかと思います。
  その意味で、「楽をしたい」、「快適に過ごしたい」などと
  いう動機は必ずしも悪くないと信じています。
                   http://bit.ly/2AxQFKN
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計算尺を使って設計を考える堀越二郎/「風立ちぬ」.jpg
計算尺を使って設計を考える堀越二郎/「風立ちぬ」
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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