ます。アルビン・トフラーという米国の作家で、未来学者が執筆
した大変有名なベストセラーズです。トフラーは、この本のなか
で、人類の歴史における大きな技術革新の「波」の概念に基づい
て、三種類の社会を描いています。
第一の波は農業革命、第二の波は産業革命、そして第三の波は
現代の情報革命が進む社会を暗示していると考えられます。この
本が執筆された1980年は、コンピュータは高度に進化し、そ
の小型化も進んでいた年です。既に1975年にマイクロソフト
次の年にはアップルが創業し、現在のPCの前身である小型コン
ピュータも既に姿を現しているのです。
ネットワークでは、インターネットの原型といわれるARPA
ネットは1969年に3つの大学と1つのシンクタンクの間で開
通し、1975年には、その接続拠点は既に50拠点を超え、安
定運用が行われています。当時の米国の状況について、村井純慶
応義塾大学教授は自著で次のように述べています。少し専門的で
すが、ネットワークが相当進んでいたことはわかると思います。
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1970年代初頭、さまざまなネットワークをARPANET
を用いて相互接続することが考えられ、このときにネットワーク
プロトコルとしてTCPが考えだされた。そして1978年、T
CP層から経路制御機能を担う部分をIP層として分離するアイ
デアが出され、1981年に正式にTCP/IPとなつた。同時
にARPANETはTCP/IPを使用したネットワークヘ移行
した。 ──村井純著/『インターネットの基礎/
情報革命を支えるインフラストラクチャー』/角川学芸出版
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おそらく、何かが変わろうとして蠢いていた時代であり、トフ
ラーは、かなり具体的に情報通信革命が進む社会について描くこ
とができたのではないかと考えられます。既出の岩本敏男氏は、
このトフラーの『第三の波』を自著の冒頭にに引用し、トフラー
のいう第三の波のもらたす社会は「情報を主体とする社会」であ
り、現在も人類はこの情報通信革命の真っ只中に置かれていると
指摘しています。
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コンピューターは、断片的な情報文化をきちんとした情報の形
に組織し、総合するのに役立つだけでなく、可能性の範囲を押し
広げる働きをする。図書館や資料の入ったキャビネットは、それ
自体、ものを考える力は持っていない。もちろんユニークな発想
など生まれてくるはずもない。ところがコンピューターは『人間
の考えおよばないこと』を考えたり、以前は『思いもよらなかっ
たこと』を考えさせるのに役立つ。コンピューターは、言葉の真
の意味で、われわれがこれまで考えもせず、想像もしなかった新
しい理論、概念、イデオロギー、芸術的直観、技術的進歩、経済
的および政治的革新というものを、可能にしていく。それによっ
てコンピューターは、歴史の変化の速度を早め、第三の波の社会
の多様化を推し進めるのである。 ──アルビン・トフラー著
徳山二郎監修/鈴木健次・櫻井元雄訳/日本放送出版協会刊
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ここで「情報」について考える必要があります。岩本氏は情報
の本質は、次の3人の科学者に学ぶ必要があるといっています。
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1. クロード・シャノン
2. ハーバート・サイモン
3.ジョン・フォン・ノイマン
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第1に、クロード・シャノンについて考えます。
クロード・シャノン──この名前をご存知でしょうか。この偉
大なる米国の科学者の名前を知っている日本人は、ほとんどいな
いはずです。驚くべきことに、現在システム系の仕事をしている
人でも、シャノンを知る人は少ないのです。
シャノンについては、次の有名な言葉があります。シャノンが
いなければ、現在のようなPCは出現しなかっただろうというも
のです。教育でICTの歴史を教えていないからです。
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もし、クロード・シャノンなかりせば、コンピュータは高級
そろばんで終わっていたであろう。
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クロード・シャノンは、情報の概念の創出者です。シャノンは
情報を次のように定義しています。
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情報とは、対象の不確実性を減少させるものである
──クロード・シャノン
──岩本敏男著
『IT幸福論』/東洋経済新報社
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これは何を意味しているのでしょうか。岩本敏男氏は、これを
トランプを例にして説明しています。トランプは、ジョーカーを
除くと、52枚あります。このなかから、ある人が1枚のカード
を引いたとします。このカードが何かを当てる場合、この段階で
は52枚中のどれか見当はつきません。これは不確実性が52枚
で、最大の状態です。
しかし、引いたカードがハートであることがわかったとすると
不確実性は52から13に減少します。この不確実性を減少させ
たものは、「カードはハートである」という事実です。この事実
が不確実性を減少させたので、情報ということになります。これ
に加えて「カードは1」であることが判明したとすると、引いた
カードは「ハートの1」と確定し、不確実性は0になります。
シャノンの情報論については、明日のEJでも引き続き論じる
ことにします。 ──[次世代テクノロジー論/31]
≪画像および関連情報≫
●「第三の波」のアルビン・トフラーに想いをはせる
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情報化社会の到来を予言した「第三の波」などのベストセ
ラーで知られる作家で、未来学者のアルビン・トフラー氏が
2016年6月27日、米カリフォルニア州ロサンゼルスの
自宅で死去した。トフラー氏と妻、ハイジさんが創設したコ
ンサルタント会社、トフラー・アソシエイツが29日、ホー
ムページで公表した。死因には触れられていない。87歳。
1980年代に見事に未来を予見したのが、アルビン・ト
フラーの「第三の波」だった。第一の波は農業革命、第二の
波は産業革命、第三の波として情報革命。その中でも「消費
生産者=プロシューマー」という概念が、現在のソーシャル
メディアをとりまく環境を言い当てている。トフラーのメタ
ファーで考えると・・・。
第一の波は、生産者の誕生だった。捕食によって得られた
栄養を農業によって生産することができ、定住して、集団を
まとめるチカラと役割分担が明確になり、ヒエラルキーが生
まれた。第二の波は、大量生産が可能となった時代。マスエ
ネルギーによる生産と消費で人口が爆発的に増える。生産者
と消費者が共存せずに役割が明確にわかれる。資本家と労働
者の時代。そして、第三の波は、消費しながら、情報を活用
して、生産者にもなり得るというプロシューマーの到来だ。
まさに、一部のユー・チューバーやプロのブロガーやアフィ
リエイターなどがそうかもしれない。しかし、これはまだ一
部なので、プロシューマーとはいえない。また、ソーシャル
メディアからのゴールがマスメディアという構図も本当の意
味での第三の波ではない。そう、私たちは、第三の波が起こ
る、最初のいくつかの小波にゆらされているにすぎない。
http://bit.ly/2h1REa1
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『第三の波』/アルビン・トフラー