ネスモデルを超える発想がないと、成功できない──昨日のEJ
の最後に書いた言葉です。ここでいう従来のビジネスモデルを超
える発想とは何でしょうか。
わかりやすい例として、グーグルとアマゾンの成功が上げられ
ます。これら2つの企業は、まさに見えない経済大陸、すなわち
インターネットの世界での覇者といえるからです。これについて
は異論がないと思います。
グーグルについて私が認識を改めたのは、梅田望夫氏の『ウェ
ブ進化論』(ちくま新書)を読んでからです。この本は、ブログ
が登場した頃の2006年に刊行されており、インターネットの
世界がまだ少ししか見えていないときです。そのとき、多くの人
は、グーグルという企業は、検索エンジンを作る技術を持つ企業
で、インターネット上の広告を扱うらしいぐらいの認識しか、な
かったと思います。梅田望夫氏の『ウェブ進化論』に印象深い次
の一節があります。
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文章を書く、写真を撮る、語り・対話・議論を録音する、音楽
を作る、絵を描く、ホームビデオで録画する、映像を作る。そし
て、その結果を皆がインターネット上に置く。ではそれで何が起
こるのか。
確かにこんなことはインターネットが登場してまもない10年
前から盛んに議論され、たくさんのビジネスが試されては消えて
いった。バブル崩壊と共に終了した第1次インターネット・ブー
ム時の結論は「何も起こらない」だった。
「普通の人が何かを表現したって誰にも届かない」が当時の結
論。でもそれは、玉石混交の彪大なコンテンツから「玉」を瞬時
に選び出す技術が、当時はまだほとんど存在していなかったから
である。 ──梅田望夫著/ちくま新書582
『ウェブ進化論/本当の大変化はこれからはじまる』
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ウェブサイトが普及し、ほとんどの企業がウェブサイトを持つ
ようになったとき、当時は「そんなもの作ったって、誰も見やし
ないよ」という声が多くあったことは確かです。実際に、第1次
インターネットといわれる2005年まではそうだったのです。
当時ウェブサイトを検索するには、インターネット・エクスプ
ローラを使っていたのですが、その検索能力のレベルは、今から
考えると、きわめて低いものであり、目指すウェブサイトにたど
りつくには、URLを正確に入力しないとできなかったのです。
グーグルが創業したのは1998年のことです。最初にやった
ことは、検索エンジンを無料で頒布したことです。その検察の精
度は、明らかに当時のインターネット・エクスプローラを超えて
いたのです。そこで多くの人がグーグルの検索エンジンを使うよ
うになります。その精度は年を追って高くなり、URLではなく
キーワードでの検索がはじめて可能になったのです。
グーグルは2004年に株式公開を果たし、2005年10月
にその時価総額は10兆円を超えています。それは、検索エンジ
ンの性能アップによって、玉石混交の膨大なコンテンツのなかか
ら「玉」を選び出すことが少しずつ可能になったことを示してい
ます。誰でも無料で使える検索エンジンの性能が上がればブログ
を含むどのようなウェブサイトも見つけられるようになり、グー
グルの広告は拡大発展するからです。梅田望夫氏は、これについ
て次のように述べています。
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グーグルの登場は世界中のIT関係者を刺激した。「増殖する
地球上の膨大な情報をすべて整理し尽くす」という領域について
の研究、技術開発、ビジネス創造が今や大変な勢いで行われるよ
うになった。ここが、ポスト・ネットバブルたる現代の本質で、
90年代後半とは全く様相を異にしているところである。そして
それはすべて、インターネット登場以来の懸案だった玉石混交問
題の解決につながる営みなのである。
それと同時に「チープ革命」も粛々と進行中で、表現行為のた
めのコスト的敷居は年々低くなり、道具は誰にでも使える方向に
進化するから、表現者は増加の一途をたどる。グーグルと「チー
プ革命」が相乗効果を起こす形での「本当の大変化」はこれから
始まるのである。 ──梅田望夫著の前掲書より
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ここに「チープ革命」という言葉が出てきます。これはどのよ
うな意味なのでしょうか。
コンピュータやネットワークの発達によって、膨大なコンテン
ツがネット上に広がりますが、それを見つける道具をインターネ
ットを利用する全員が持つと、人々は大陸というよりも宇宙に匹
敵するほどの広大なネットのなかから、必要なコンテンツを見つ
けられるようになります。そのため、ネット広告をはじめとする
あらゆるビジネスを展開・拡大することが可能になります。だか
らこそグーグルはその道具である検索エンジンを売らずに無料で
頒布したのです。これは、今までになかったビジネスモデルであ
り、梅田氏は「チープ革命」と呼んでいるのです。これは従来の
ビジネスモデルを超える発想です。
改めてチープ革命というのは、ICTに関するほとんどのハー
ドやソフトが、きわめて低コスト、いや多くは無料で入手できる
ことをいうののです。つまり、ICTに使う道具はタダ同然に手
に入れられるということです。
これは、スマートフォンについてもいえることです。マシン自
体はかなりコストがかかっているのですが、メーカーや携帯電話
会社は、さまざまな工夫によって、誰でも手に入れられるように
しています。いわゆる「実質ゼロ円」の戦略です。少しでも多く
の人に保有させ、毎月の通信料で稼ぐ──これもチープ革命であ
るといえます。総務省はこれにブレーキをかけていますが、時代
錯誤の判断です。 ──[次世代テクノロジー論/26]
≪画像および関連情報≫
●2045年のチープ革命
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鈴木健です。梅田望夫さんは、漸進的なコンピュータの性
能向上が、いかにして新しい技術やサービスを生み出すかを
チープ革命という概念で説明します。これは、フォーブス誌
コラムニストのリッチ・カールガードがもともと発明した言
葉です。それまでであれば無駄だと思われていたようなリッ
チなリソースの使い方が、チープ革命によって十分可能な領
域に入ると、新しいイノベーションが起きるのです。
産業技術総合研究所から、最近アップル社に移籍したイン
ターフェイス研究者の増井俊之さんにいわせれば、富豪的プ
ログラミングということになるでしょうか。
チープ革命がどのように進行するかを予測すれば、次のト
レンドがどこにあるのかを言い当てることができそうです。
たとえば、アップルのアイポッドは、小型HDDの容量が音
楽を1000曲格納可能なところまで増えたことから可能に
なりましたし、近年のユーチューブなどの動画共有サイトの
勃興は、ブロードバンドの普及率が閾値を超え、サーバー側
のストレージ容量も動画を置くのに十分なほど安くなったこ
とから可能になりました。そこで、2045年までに、この
チープ革命がどのように進行するかを予測して、そこから見
えてくる世界を想像してみましょう。
http://bit.ly/2zO4RKO
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梅田 望夫氏