氏は、現代を「テクノロジー4・0」と呼んでいます。3つのテ
クノロジー革命を経て、現代にいたっているというのです。
─────────────────────────────
◎テクノロジー1・0
・技術革新に伴う産業上の変革
◎テクノロジー2・0
・工業化による大量生産の時代
◎テクノロジー3・0
・情報革命による通信変革時代
◎テクノロジー4・0
・スマートフォンセントリック
──大前研一著/『テクノロジー4・0/
「つながり」から生まれるビジネスモデル』
KADOKAWA
─────────────────────────────
「テクノロジー1・0」とは、18世紀から19世紀にかけて
英国で起きた産業革命のことを指しています。モーターが開発さ
れ、電気が普及し、ジェームス・ワットが新方式の蒸気機関を開
発し、機関車が動いたあの産業革命です。これによって、内燃機
関、機械設備を持つ工場が稼働するようになり、大量生産の体制
ができるようになったといえます。
「テクノロジー2・0」とは、工業化による大量生産の時代を
意味しています。工業化が進展し、各家庭に比較的安い価格で家
電製品が入るようになり、勤労者のなかに中産階級が育つように
なります。
「テクノロジー3・0」とは、いわゆる情報革命です。電話や
PCが企業はもちろん家庭にも普及し、メールをやりとりし、通
信革命が起きます。このテクノロジー3・0について、大前研一
氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
電話線によっていろいろな人かつながり、情報伝達の手段が充
実するようになります。留守番電話ができ、その場にいなくても
メッセージを受け取れるようにもなりましたし、ファクシミリに
よって離れた相手に文字などの情報を一瞬にして伝えられるよう
になりました。それが情報革命の初期であり、さらにパソコン通
信ぐらいまでが、テクノロジー3・0時代と位置付けられます。
(中略)トフラーの言った第3の波とは、「張り巡らされたネッ
トワーク」によって世界中のコンピュータがつながっていくこと
を意味しており、いわゆるインターネット第一世代を指していま
す。 ──大前研一著の前掲書より
─────────────────────────────
大前研一氏は、テクノロジー3・0を「パソコン通信ぐらいま
で」といっています。パソコン通信といっても、インターネット
世代の若い人は知る由もありませんが、特定のサーバ(ホスト)
とその参加者(会員)の間だけの閉じたネットワークサービスの
ことです。1980年代から1990年代が最盛期です。199
5年のウインドウズ95の発売までは、インターネットは日本で
はほとんど普及していなかったのです。
その後に「テクノロジー4・0」の時代がやってくるのです。
そして現在はまさにその真っ只中にあります。大前研一氏はこの
テクノロジー4・0の時代を経済に関連させて論じ、フィンテッ
ク、位置情報ビジネス、IoTなどに関わる新時代のビジネスモ
デルについて論じていますが、その内容はなかなか深く、時代を
読む参考になります。
コンピュータが進化することによって、あらゆるものにデジタ
ル化が進みます。ファクシミリ、電話、録音機、カメラ、そして
テレビ、ビデオなど──すべてにアナログからデジタルへの変化
が進行したのです。
これらは、そのひとつひとつがモノを中心とした島、デジタル
アイランドを形成します。それぞれが独立した島です。やがて、
これらのデジタルアイランドがひとつにつながり、デジタルコン
チネント(大陸)になる変化が起きます。これについて、大前研
一氏は次のように説明しています。
─────────────────────────────
これまでの状況は、商品別に独立した島があったようなもの。
つまりデジタルアイランドだったわけだ。ところが、今後はそれ
らがつながっていって、大陸(コンチネント)が生まれていく。
例えば、登場当初はただの定期券の発展版に過ぎなかったスイカ
(Suica) が、いつの間にやらコンビニ決済機能まで持つように
なったのはその典型である。
「デジタルアイランドからデジタルコンチネントへ」とは、業
界の大再編が行なわれようとしている、ということを意味してい
る。この動きが理解できれば、新しい事業機会を予見できるので
はないだろうか。そのためには、今やっていることが淘汰される
側にあるのか、成長する側なのかをしっかり考えることだ。デジ
タル社会はスピードが速いので、ぼやぼやしていると取り残され
る危険がある。気が付いてから対応したのでは間に合わない可能
性もあるのだ。 http://nkbp.jp/2y9SIDJ
─────────────────────────────
大前研一氏は、このデジタルコンチネントのことを「見えない
大陸」と呼んでいます。大前氏は2001年に『新・資本論/見
えない大陸へ挑む』(東洋経済新報社)を上梓していますが、副
題に「見えない経済大陸」という言葉を使っています。この本の
なかで、この大陸の覇者になるのは、従来のビジネスモデルを超
える発想がないと、成功はできないといっています。
テクノロジー4・0は、このデジタルコンチネントにおける情
報革命であり、物流革命であり、生活革命であり、企業競争の革
命であると大前氏は主張しています。
──[次世代テクノロジー論/25]
≪画像および関連情報≫
●「テクノロジー4・0が生む『新しい格差』」/大前研一氏
───────────────────────────
テクノロジー4・0を理解するうえで重要なのは、「テク
ノロジー」という言葉が使われているからといって、テクノ
ロジー4・0を電子技術やコンピュータ技術だと思うのは大
間違いということです。
インターネットの発達でサイバースペースが広がり、マル
チプルでデジタルコンチネントが加速度的に構築され、国境
がないボーダレス経済となっても、パン屋さんがパンを焼き
配送トラックが街を走るといったリアル経済の空間はなくな
りません。むしろ、ほかの空間で成長が起きれば、リアル経
済の成長が促されることもあるでしょう。
従来どおりのリアル経済、ボーダレス経済、サイバー経済
の中で、マルチプルという飛び道具を使って、見えない大陸
=デジタルコンチネントを切り開いていく。そして従来型の
企業を凌駕していく。それがテクノロジー4・0時代に成功
するためのビジネスモデルなのです。
これからのビジネスマンに必要なのは、テクノロジー自体
の理解はもちろんのこと、「それぞれのテクノロジーのつな
がりを俯瞰する視点」です。位置情報とIoTを組み合わせ
て新しいサービスを提供する、IoTをベースとしたサービ
スを利用する際にフィンテックによって生まれた決済方法を
利用するなど、テクノロジーを組み合わせることで新しいビ
ジネスモデルが誕生しています。テクノロジーのつながりを
俯瞰することで、ビジネスのアイデアが生まれやすくなりま
す。 http://bit.ly/2hdT6qr
───────────────────────────
大前 研一氏