2017年10月25日

●「『ムーアの法則』について考える」(EJ第4632号)

 梅田望夫氏の代表作である『ウェプ進化論』(ちくま新書)は
今改めて読み直してみても名著であると思います。いわゆるIC
T革命の方向性が実によくわかるからです。この本の冒頭に「チ
ープ革命が生む方向性」と題して、「ムーアの法則」に関する次
の記述があります。
─────────────────────────────
 情報技術(IT)が社会に及ぼす影響を考える上で絶対に押さ
えておかなければならないことがある。インテル創業者ゴードン
・ムーアが1965年に提唱した「ムーアの法則」に、IT産業
は40年たった今も相変わらず支配され続けており、これから先
もかなり長い間、支配され続けるだろうという点である。
 もともとは「半導体性能は一年半で2倍になる」というシンプ
ルな法則だったものが、現在は広義に「あらゆるIT関連製品の
コストは、年率30%から40%で下落していく」という意味に
転じた。新しい製品分野が登場してすぐは、「こんな機能もほし
い」「もっと高い性能を」「より使いやすく」という顧客ニーズ
が多いから、製品価格が下落するのではなく、同じ価格の製品の
機能・性能・使いやすさが向上していく。しかしその製品分野が
十分成熟し、顧客にとって「必要十分」の機能が準備されると一
気に価格下落が急となる。「ムーアの法則」が40年も続いてき
た結果、ついに私たちは今「チープ革命」とも言うべき状況の恩
恵を蒙る時代に入ったのではないか。こんな問題提起をしている
のが、米フォーブス誌コラムニストのリッチ・カールガードであ
る。           ──梅田望夫著/ちくま新書582
     『ウェブ進化論/本当の大変化はこれからはじまる』
─────────────────────────────
 梅田氏の『ウェプ進化論』の第1刷は2006年2月に刊行さ
れています。ICTの変化にとって大きな第1の波は2005年
からはじまっています。「ウェブ2・0」といい、ブログなどが
登場し、ウェブの新しい波がはじまったのです。この本はそうい
う時期に刊行されています。
 しかし、それから、約10年が経過していますが、少し事情が
変化しています。それは「ムーアの法則」に関する梅田氏の次の
記述です。「『ムーアの法則』は、これから先もかなり長い間、
支配され続けるだろう」という部分です。実は、最近ムーアの法
則の限界がいわれるようになっているのです。
 そこで、ムーアの法則についてしばらく考えることにします。
改めて、ムーアの法則とは何でしょうか。
 ムーアの法則は、米インテルの創業者の一人であるゴードン・
ムーア氏が、1965年にまだ登場していない集積回路の進歩を
展望する自らの論文に予測として書いたのがはじめてですが、後
に公式化されているのは次の通りです。
─────────────────────────────
 集積回路上のトランジスタ数は、18か月(=1・5年)ご
 とに倍になる。            ──ムーアの法則
─────────────────────────────
 トランジスタは、半導体チップの基本素子ですが、これを電子
スイッチとして使います。すなわち、スイッチの「オン」と「オ
フ」を切り替えることによって、情報の最小単位である「0」と
「1」を表現します。
 計算の高速化は、トランジスタを集積回路上に積み上げること
によって得られます。したがって、トランジスタは小さくなれば
なるほど、1つのチップに収まる数を多くすることができるので
その微細化を追究することで性能を向上させてきたのです。さら
にインテルは、チップ自体の微細化も実現するため、回路の線幅
を細くする技術を開発しています。
 1971年にまだ無名だったインテルは「4004」という半
導体チップを発表しています。このチップの線幅は10マイクロ
メートル(マイクロは100万分の1)で、そこに赤血球ほどの
大きさのトランジスタが2300個組み込まれています。世界初
の商用プロセッサの誕生です。これによって、インテルは半導体
業界の雄になったといえます。
 そして2015年、いわゆるムーアの法則にそってチップの開
発を進めたインテルは、最新のマイクロプロセッサ「スカイレー
ク」を発表します。このチップの線幅は14ナノメートル(1ナ
ノメートルは100万分の1ミリ)になっており、10億個以上
のトランジスタを搭載するまでになっています。インテルによる
と、プロセッサの計算能力は、半世紀で3500倍になっている
といっています。
 半導体の微細加工とはどういうものなのでしょうか。
 シリコン基板の表面にトランジスタなどの素子を作り込み、回
路を作成します。感光樹脂を塗って、回路を描いたフォトマスク
を重ね、これを露光装置で焼きつけます。その後、回路以外の部
分の樹脂を流し、シリコンに不純物を注入する作業を行い、絶縁
膜を作る工程などを繰り返します。インテルは、これらの微細加
工技術を磨き上げ、それを進化させていったのです。
 ムーアの法則は1971年の「4004」から始まったのです
が、それは現在まで、22回のサイクルを刻んできています。そ
の原動力になったのは、1974年にIBMの職員であったロバ
ート・デナード氏が提唱した「デナード則」にあります。
 デナード則とは、簡単にいうと「コンポートネントを小型化す
るほどチップは高速かつ省電力になり、製造コストも低くなる」
という理論です。つまり、チップ(CPU)は、1年半ごとに倍
速になり、価格も低くなるということです。これなら、インテル
としては、消費者に1年半ごとに最新PCを買い替えるよう説得
できるし、実際に消費者もほぼ2〜3年ごとにPCを買い替えて
きたといえます。
 しかし、ムーアの法則はここにきて、限界を露呈しつつありま
す。もし、この法則が止まると、多くの面に影響が出てくること
は必至です。      ──[次世代テクノロジー論/22]

≪画像および関連情報≫
 ●ムーアの法則が通用するのは2021年まで
  ───────────────────────────
   ムーアの法則は、これまで数十年間にわたって集積回路の
  イノベーションの進歩を支配してきたが、2021年には通
  用しなくなるかもしれない。最近、米国半導体工業会(SI
  A)が、発表したレポート「国際半導体技術ロードマップ」
  (ITRS)によれば、この年には、マイクロプロセッサで
  使用されるトランジスタをこれ以上微細化することは現実的
  ではなくなるという。
   ムーアの法則とは、集積回路に使用されるトランジスタの
  数に関する経験則だ。この法則の名前は、1965年に初め
  てこの予想を発表し、1975年に修正したインテルの共同
  設立者ゴードン・ムーア氏にちなんでいる。
   シリコンチップにより多くのトランジスタを詰め込むため
  には、トランジスタそのものが微細化される必要がある。し
  かし、451リサーチアナリストチーフアナリストのエリッ
  ク・ハンセルマン氏は、ITRSの中で2021年になると
  トランジスタはそれ以上微細化できなくなり、「シリコンウ
  エハ上に、より微細なジオメトリを作り出すために使ってき
  たトリックは種切れになる」と述べている。「ITRSのレ
  ポートが明らかにしたのは、これ以上は、手品のようにシリ
  コンの帽子から兎を出してムーアの法則を維持することはで
  きないということだ」とハンセルマン氏は述べている。
                   http://bit.ly/2gC9q7k
  ───────────────────────────

ゴードン・ムーア氏.jpg
ゴードン・ムーア氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]