2007年06月21日

●なぜ、公共投資を嫌うのか(EJ第2106号)

国の経済にかかわる人のなかに「構造改革派」といわれる一派
があります。これと対極にある一派がケインズ経済学派――ケイ
ンジアンです。
 自由放任(レッセ・フェール)経済をあくまで理想の経済とし
て、その機能を阻害する制度や規制を撤廃するとともに経済の構
造を改革してレッセ・フェール経済を実現する――これが構造改
革派ニュー・クラシカルの思想です。
 これに対してレッセ・フェール経済では、そのままでは必ず問
題が発生するとして、そのときは政府などが積極的に市場に介入
すべきであると提唱する、修正資本主義的な考え方が、ケインジ
アンなのです。マクロ経済学においては、ごく常識的な考え方で
あるといえます。
 しかし、最近の経済学でケインジアンは一昔前の経済思想とし
てきわめて劣勢なのです。なぜ、劣勢なのかについてはいろいろ
な原因があるのですが、ケインジアンの考え方で経済を運営しよ
うとすると国家の財政赤字が累増するので、国家財政の健全化と
いう立場から、忌避されるのです。日本では財務省が徹底的にこ
の考え方をとることを避けようとしています。
 そうなると、力を得るのは、構造改革派です。小泉政権以来の
日本の経済運営は、ほとんど構造改革派的考え方に乗っ取られて
おり、ケインジアン的政策を提言しようものなら、たちまち、古
い時代のエコノミストとして批判の対象となります。
 しかし、「経済コラムマガジン」では、この構造改革派を徹底
的に批判しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 構造改革派の公共事業に対する感情は異常である。彼等の公共
 事業への憎しみは尋常ではない。公共事業が、彼等が嫌う政府
 支出であるということでまず拒否反応がある。さらに公共工事
 の入札に伴い頻繁に談合が行われることが災いしている。構造
 改革派にとって、公共事業は二重の意味で自由主義市場経済の
 原則に反するものなのである。
         ――「経済コラムマガジン」/444号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 もともと公共事業重視政策は、あの田中角栄首相が地域格差を
なくす切り札として実施したものです。いわゆる「日本列島改造
論」がそれです。具体的には、工業の全国的再配置と知識の集約
化、全国新幹線と高速道路の建設、情報通信網によるネットワー
ク形成などがその内容です。
 問題は財源をどうするかです。その点、田中角栄という人物は
まさに天才だったといえます。彼は、揮発油税を道路整備の財源
にするというアイデアを思いつき、1953年に議員立法で次の
法律を作ったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     道路整備費の財源等に関する臨時措置法
―――――――――――――――――――――――――――――
 これが現在話題になっている「道路特定財源」のはじまりなの
です。田中首相は衆参両院――とくに参議院では100日間にわ
たり、すべての答弁をひとりで行い、法律を成立させたのです。
驚くべき力の入れようです。それも小泉首相のようなはぐらかし
答弁ではなく、反対意見には噛んでふくめるがごとくていねいに
説得し、押し切ったのです。
 田中首相は、日本列島改造を進め、地域格差を解消するために
次の2つ政策を推し進めたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
         1.財政の先行的運用
         2.税制の積極的活用
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 第1の「財政の先行的運用」は、現在の世代の負担だけでなく
未来の世代の負担をも考慮した積極財政を意味しています。これ
を今いおうものなら、「子どもや孫たちの世代に借金を残す」と
いわれ、とんでもない妄論とされるでしょう。
 これについて、経済評論家の岩田規久男氏は、自著において次
のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 子どもや孫たちに借金を残したくないという考え方は、一見、
 親切そうにみえるが、結果はそうではない。生活関連の社会資
 本が十分整備されないまま、次の世代に国土が引きつがれるな
 らば、その生活や産業活動に大きな障害がでてくるのは目に見
 えている。美しくて住み良い国土環境をつくるには、世代間の
 公平な負担こそが必要である。
     ――岩田規久男著、『「小さな政府」を問いなおす』
                     ちくま新書616
―――――――――――――――――――――――――――――
 第2の「税制の積極的活用」は、大都市と地方の税制を改め、
集積の利益を享受できる大都市は税を重くし、地方は税の優遇措
置を実施したのです。このようにして、田中内閣では地域格差の
是正に全力で取り組んだのです。
 このような田中内閣の政策によって、日本はそれまでの均衡財
政主義から離脱し、財政赤字が累積する状態が続いたのは確かで
すが、経済は大きく発展したのです。田中首相は地方に手厚く公
共事業を配分するためには、財源は地方税だけでは大幅に不足す
るので、この不足を埋めたのが、地方交付税と補助金なのです。
 しかし、現在ではこうした田中的なやり方は、良いことも含め
てすべてが否定され、悪とされてしまっています。確かに田中首
相はロッキード事件で失脚し、そのイメージは地に落ちた感があ
るものの、良い面もたくさんあったのです。
 構造改革派は、この風潮をたくみに利用し、財政赤字の巨額さ
を必要以上に強調し、借金時計まで作って財政再建の必要性を強
調しようとしています。そして、その試みはかなり着実に成功し
つつあるといえます。    ――[日本経済回復の謎/15]


≪画像および関連情報≫
 ・田中角栄の「日本列島改造論」
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  岩崎定夢氏は、「角さんの功績、真の実力この魅力」の中で次
  のように述べている。
  ――未来を見通してどのように生きるのかビジョンを示し、
  国民が納得の上でその実現に努力する。その目標を示すのが
  政治家の最大の務めなのに、そのきっかけになるはずだった
  日本列島改造論を、寄ってタカって潰してしまった。問題は
  潰してしまった者達にはこれっぽっちも反省の気配はなく、
  むしろ、それで正義を実現したと思い込んでいることだ。悲
  しいことと云わざるを得ない――。
http://www.marino.ne.jp/~rendaico/kakuei/giyoseki_nihonreetokaizo.htm
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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