2017年10月11日

●「IoTがビジネスを大変化させる」(EJ第4622号)

 2015年3月のことです。米テスラ・モーターズの電気自動
車「モデルS」に乗っていたAさんは、車内にある大きなディス
プレイに次の表示が載ったのを確認します。
─────────────────────────────
 ソフトウェアアップデートがあります。今すぐアップデート
 しますか。[YES]「NO」
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 車を止め、「YES」をタップすると、直ちにワイヤレスで通
信が始まり、約10分でアップデートが完了します。テスラの場
合、ソフトウェアアップデートとは機能追加を意味します。今回
バージョン6・2で追加されたのは、自動緊急ブレーキや安全な
車線変更をアシストする機能です。
 このように、テスラでは、車を購入後もモデルSを自動運転車
へと進化させる機能を追加させる方針なのです。既に述べている
ように、「機械とは、その性能や機能が購入時よりも、進化する
ことのないもの」のはずですが、テスラは「進化する車」を目指
し、それを可能にさせつつあります。
 このテスラのサービスを可能にしている技術が「IoT(アイ
オーティー)」です。IoTとは(Internet of Things)のこと
で、次のように定義されます。
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 IoTというのは、無線タグ、センサー、MEMS(メムス)
などを使い、コンピュータを通じて、ネットとやり取りをする、
モノのネットワークのことである。
 MEMS=Micro Electrical Mechanical System. 微小電気機
械システム ──大前研一著『IoT革命/あらゆるものがイン
  ターネットにつながる時代の戦略的発想』/プレジデント社
─────────────────────────────
 従来のインターネットの世界は、人がPCやスマホなどのIC
T機器を使ってつながる「PtoM」だったのですが、IoTの時
代は、人ではなく、インターネットによって、モノからモノにつ
ながる「MtoM」の時代であるといえます。
 このIoTの実験を日本で一番早くやった人がいます。日本の
インターネットの父といわれる慶応義塾大学環境情報学部の村井
純教授です。実験が行われたのは1990年のことであり、Io
Tという言葉がなかった頃の話です。
 村井教授のやった実験は、名古屋のタクシー会社のタクシーの
ワイパーにIPv6アドレスを割り当て、動作状況をインタネッ
ト経由で受け取れるようにしたのです。IPv6アドレスは、現
在のIPv4アドレスがなくなったときに使われるものですが、
既に使えるようになっており、実験などでよく使われています。
 なぜ、ワイパーなのかというと、ワイパーが動くというのは、
雨が降っていることになるからです。しかも激しく動いていれば
大雨が降っていることをあらわしています。
 したがって、車にGPSを搭載していれば、どの地域に雨が降
っているかわかるわけです。したがって、雨になると、タクシー
の需要が増えるので、その方向に移動すれば、効率的に営業がで
きることになります。
 しかし、その実験には大変なコストがかかり、研究予算をすべ
て使い果してしまったそうです。村井教授は、この実験について
次のように述べています。
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 名古屋で1500台のタクシーにGPSを搭載してもらうこと
にしたのですが、当時のGPSの価格は1台40万円。これが、
1500台分ですから40万円×1500台=6億円。さらに、
パケット代などがかかるためこれだけで20億円の研究予算のう
ち、10億円以上が消えてしまいました。ちなみに、現在であれ
ばGPSにかかる費用は必要ありません。すでにGPSはみなさ
んのスマートフォンに入っているではありませんか。ハードウェ
アは実質タダ同然になるというのは、まさにこういうことなので
す。また、こういう実験を行うことが明らかになると、すぐに警
察からクレームがきました。車のスピードがわかるとどこの道路
が渋滞しているかが明らかになる、そういった情報を民間がもっ
てはいけないというのです。
 ちなみに、農業を行う上で、大事なのは明日の天気ですが、そ
れをIoTでわかるようにしようとすると、やはり当局から怒ら
れます。明日の天気の予測は気象法に触れるからです。だから、
どうしてもこれをビジネスで行いたいのであれば、まず私たちと
共同研究にしてください。それで、いざというときは大学側が責
められるという仕組みをつくっておけば安心というわけです。
                ──大前研一著の前掲書より
─────────────────────────────
 それにしても当時40万円もしたGPSが、現在ではスマホに
タダ同然に付いているのです。しかも、現在のスマホの性能は、
5年前のスーパーコンピュータと同等といわれます。そういう高
性能のコンピュータを国民の70%が肌身離さず持ち歩いていま
す。こういうことはこれまでは考えられなかったことであり、こ
ういう時代に従来の常識でものごとを考えると、完全に事態を読
み違えてしまいます。
 そういう意味で現代のビジネスパーソンは、従来の常識にとら
われない、新しいコンセプトでものごとを考える「思想としての
IT」を持つべきです。しかし、そういうコンセプトでものごと
を考えられる人材はまだ非常に少ないといえます。
 そういう間にも、今まででは絶対に成立しなかったビジネスが
続々と誕生しています。モノを売らない製造業、既存の業界秩序
を破壊するシェアリングエコノミー、既得権益の壁を崩壊させる
フィンクテックなど。ICTの進化がもたらす社会、ビジネス世
界には、いま劇的な変化が起こりつつあります。そしてその変化
の速度はAIが加わって非常に加速しているのです。
            ──[次世代テクノロジー論/12]

≪画像および関連情報≫
 ●IoTによる4つの影響力
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   IoTが社会に導入されることにより、大きく発展、変化
  するものに次の4つが挙げられる。
   ◎製造業のサービス業化
   ◎リアルタイム化
   ◎需要と供給の最適化
   ◎マスカスタマイゼーション
   まず、製造業のサービス業化はIoTの大きな変化として
  一番挙げられるものである。製造業の方は今も昔も何らかの
  モノを製品として製造している。これまではユーザに対して
  そのモノを作って販売するところまでが製造業の仕事であっ
  た。しかし、IoTになれば話が違う。製造業の方が作るモ
  ノもまたインターネットにつながるのだ。そうなると、消費
  者にモノである商品が手渡った後でも、モノから発せられる
  データから、そのモノの状況が把握できるのだ。そうなると
  製造業の方が、壊れそうなのか、安全に使用されているかな
  どが把握できることとなる。モノがインターネットにつなが
  ることによって知り得たこれらの情報に対して、何かをサポ
  ートできるならば、ユーザにとってとても大きなメリットと
  なる。うまくやれば、ユーザが気づく前に、ユーザが安心し
  てそのモノを使うためのアフターサービスをすることができ
  るというわけだ。製造業はモノを作るだけで終わっていたの
  が、ユーザが満足してそのモノを満足して使用できる環境を
  提供するサービス業として生まれ変わるのだ。
                   http://bit.ly/2y9AAYY
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テスラ/モデルS.jpg
テスラ/モデルS
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 次世代テクノロジー論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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