1〜3については、既に説明は終わっています。
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1.利便性の向上と多様性を支える「道具としてのIT」
2. 効率や品質を高める「仕組みとしてのIT」
3. 変革や創出を促す「思想としてのIT」
→4.収益を拡大させ、成長を支える「商品としてのIT」
──斎藤昌義著
『未来を味方にする技術/これからのビジネスを創る
ITの基礎の基礎』/技術評論社
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最初にこれまでのところを振り返ります。当初「機械化」と呼
ばれる変化があったのです。人間のやれることを機械に置き換え
る変化です。典型的なものに「給与計算の機械化」があります。
かつて給料日には、人事部の給与係は社員一人一人の給与をソ
ロバンをはじいて給与明細書を作成し、これに基づいてお札を数
えて給与明細書と一緒に給与袋に入れ、それを本人に配っていた
のです。たくさんの社員のいる大企業では、これは想像を絶する
大作業だったといえます。
しかし、給与計算業務はコンピュータによって機械化され、銀
行振り込みになると、給与計算業務という大作業は完全に消滅し
たのです。これは、今まで人間がやっていた業務を機械(コンピ
ュータ)に置き換えたことによる変化です。当時、ICTという
言葉はありませんでしたが、これは、業務プロセスを機械化する
「仕組みとしてのIT」といえます。
この「仕組みとしてのIT」は、コンピュータの進化によって
その適用範囲を広げていきます。人間が行う業務をプロセスに分
解し、それぞれ無駄を省いて標準化し、プログラムに置き換える
作業が進んだのです。
しかし、この時点では、コンピュータはメーカーや企業に存在
するマシンであり、それを扱える人はごく一部のエンジニアに限
られていたのです。しかし、技術革新によってコンピュータが小
型化してPCになり、価格も下がって誰でも購入できるようにな
ると、企業にはPCが導入され、人々はそれを道具として使い、
自分に与えられている業務をPCで効率的に処理したり、その出
来栄えをよくするように使い始めます。このようにして、「道具
としてのIT」が普及するようになります。
エクセルを使って業務計算を行い、ワードで業務文書を作成し
パワーポイントでプレゼンテーションをしたりすることが、業務
上当たり前になります。このような状態がしばらく続くと、2つ
の変化が起こります。1つは、ITの需要の高まりは、テクノロ
ジーの変化を促し、インターネットやクラウドの進化によって、
PCは高度な通信機能を有し、なくてはならないものになったの
です。もう1つは、携帯電話が進化してスマホになり、多くの人
が持つようになったことです。この時点で、ITは「ICT」に
変化したといえます。
このような時代になると、人々は従来とは違う新しい常識を持
つことが求められます。この新しい常識というか思想によって、
企業は新しいビジネスモデルを生み出すことができるようになり
それによる競争が激化してきたのです。それが「思想としてのI
T」です。つまり、ICTはこれまでの閉じた世界から飛び出し
て、日常生活や社会にさまざまな変化や影響を与える「思想とし
てのIT」の役割を持つようになったのです。
こうした変化の後に「商品としてのIT」が登場します。つま
り、ICTそれ自体が商品となって、お金を稼ぐ存在になったこ
とを意味します。ここで、改めてスマホについて、考えてみる必
要があります。「機械」とは何でしょうか。
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機械とは、その性能や機能が購入時よりも、進化することの
ないマシンである。
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家電製品についても車にしても、およそ機械というものは、購
入時の性能や機能はそのままであり、故障や劣化によって、低下
することはあっても、進化することはあり得ないのです。これが
機械というものの本質です。
しかし、スマホというマシンは、購入時よりも性能はそのまま
ですが、機能が向上する性格を持つのです。それはある意味にお
いて「理想のマシン」であるといえます。スマホの機能は、次の
ようにあらわすことができます。
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スマホ=ファームウェア + アプリケーション
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スマホは、入手した時点では基本的機能しか付いていないので
す。これを「ファームウェア」といいます。このファームウェア
に自分が使いたいアプリケーション(アプリ)をメーカーが開設
している市場から購入して、機能を追加することができます。こ
れによってスマホの機能は、購入後に機能が向上していきます。
こういうマシンは、PC以外はこれまで存在しないのです。
このスマホ用のアプリは、無料のものもありますが、有料のも
のは商品であり、「商品としてのIT」そのものです。総務省の
調査によると、スマホ向けのアプリやコンテンツは、2014年
度には390億ドルに達しており、2018年度には770億ド
ル規模にまで拡大するといわれる巨大市場です。
日本でいうと、国民の70%以上が既にスマホを保有しており
最近では高齢層まで拡大しているので、当然のことながら、スホ
マアプリやコンテンツ市場は拡大しています。スマホには、アイ
フォーンとアンドロイドがありますが、日本は、世界で唯一アイ
フォーンとアンドロイドが半々の国です。他国ではアンドロイド
のシェアが上であり、それほど日本はアップルファンが多い国で
あるといえます。 ──[次世代テクノロジー論/11]
≪画像および関連情報≫
●「商品としてのIT」の狙い目/斎藤昌義氏
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2009年、インターネットにつながっていたモノは25
億個あったとされていますが、2015年には180億個に
そして2020年には500億個に達するであろうという予
測があります。IoTはそんな勢いで市場を急速に拡大しつ
つあります。加速度を増して拡大するIoT市場は参入を検
討するに値する市場であると考えます。
急速に拡大する市場への参入は技術も未成熟で変化も早く
その動きに追従し、さらには先取りして取り組むことは容易
なことではありません。また、そこで使われている様々な技
術が将来生き残るかどうかも市場の評価が固まっていない段
階ですから、リスクがあります。一方で、市場に加速度があ
りますから、ちょっとしたアドバンテージが短期間で大きな
差を生みだす市場でもあるのです。
新しい事業は、このような市場の加速度があるところに着
目すべきです。既に確立された大きな市場は強豪がひしめい
ています。そのような市場で闘うことは容易なことではなく
先行企業の圧倒的な競争力で潰されるか価格競争を強いられ
るかのいずれかであり、ビジネスとしてのうまみはなかなか
得られません。いまは規模が小さくても加速度のある市場に
いち早く参入することです。自分たちが未熟であってもお客
様も競合他社も未熟です。だからこそ、ITの動向を見据え
て自分たちだけでやろうとはせず、オープンにできる人たち
を巻き込むことです。そうやって一歩先んじることで市場で
のイニシアティブを確保することができるのです。
http://bit.ly/2y2wAYC
●図形の出典 斎藤昌義著/技術評論社
『『未来を味方にする技術』』
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商品としてのITの生まれた背景