2017年09月13日

●「水産物の目利きは情報化が難しい」(EJ第4604号)

 このテーマの冒頭の部分で取り上げたことがありますが、かつ
てスーパーの魚が二級品だったことがあります。当時の卸売市場
法では、市場で魚の売買が相対取引でやれるのは、セリが終わっ
後と決められていたのです。セリが終わった後では、仲卸の目利
きから外れた魚しか残っていないから、必然的に二級品になるの
です。これは青果についても、同じことがいえます。
 しかし、これにはスーパーのような大量購入業者からクレーム
がつき、規制が緩和され、現在では夜中の1時頃からセリよりも
早く相対取引ができるようになっています。大量に魚を運び込ん
でくる大卸業者としては、大量に購入してくれるスーパーのよう
な大資本にまとめて売りたいと思うのは当然のことです。
 そういうわけで、現在スーパーには一級品の魚も多く出品され
るようになっていますが、二級品も多く混ざっています。しかも
スーパーでは魚や野菜はすべてサランラップに包まれ、光線の工
夫によって、すべて清潔に新鮮に見えてしまうのです。とくに鮮
魚の場合、素人の消費者がよい魚かどうか判断できるのは、見た
目の色あいか、価格ぐらいしかないのです。
 とくに刺身については、その当たり外れは、ヒフティー・ヒフ
ティーです。したがって、せめて正月くらいは、おいしい魚介類
を食べたいとして、多くの人が築地まで魚を買いに行くのです。
スーパーで買うのと違って、当たり外れが少ないからです。
 これに関して建築家の伊東豊雄氏は、「東京はサランラップ・
シティである」と主張し、次のように述べています。
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 だいぶ前に、僕は東京を指して「サランラップ・シティ」とい
うことを言いました。つまりコンビニに行くと、野菜や魚など生
鮮食品がすべてサランラップに包まれている。そうすると匂いも
ないし、全部清浄に見えてしまう。しかしフランスのスーパーに
行ったら、土のついた野菜が並んでいる。本来生まの商品をわれ
われは、ラップされることによって記号として消費しているので
す。要するにいま豊洲移転でやろうとしていることは巨大なサラ
ンラップ・シティというか、巨大なコンビニエンス・ストアにし
ていこうとしているのではないでしょうか。仲卸人の、動物的な
カンで魚の肌の色、その光具合を一瞬で見極め、値をつけ分けて
いく。それがなくなるわけですから。それはもう、いきなり大き
なマグロを切り刻んでパックにしてしまうようなものですよね。
           ──伊東豊雄氏×中沢新一(徹底討論)
               「『みんなの市場』をめざす」
           『現代思想』2017年7月臨時増刊号
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 シドニーの水産物市場は、情報化・IT化が非常に早くから進
んでいます。この市場の入札場には、3種類に区分された水産物
ごとに、時計型の電光掲示板が1台ずつ導入されています。
 電光掲示板のディスプレイには、魚の種類名、生産者、産地、
重量、色、等級が表示されます。等級は、「A+」から「B−」
まで4ランクに分かれています。この等級は、品質保証チームと
いうのがあり、そのチームが、魚の形や脂の乗りと傷み具合など
を総合的に判断して決めています。入札参加者は、電光掲示板の
ディスプレイに表示される、これらの情報を見ながら端末を使っ
て落札していくのです。築地市場のセリとは大きく違います。
 このシドニー水産物市場の場合、品質鮮度管理指針というもの
がよく整備されています。そうでなければ、鮮度の高い良い魚を
選定することは困難です。それでも「等級」に関しては、品質保
証チーム人の目で決めているのです。この部分は、今後AI(人
工知能)がよほど高度化しない限り、IT化するのは困難である
と思われます。
 築地市場では、そのIT化こそ大きく遅れているものの、ベテ
ランの仲卸たちの熟達した目利きによって魚を選んでいるところ
に、何物にも代えられない貴重な価値があるといえます。
 築地市場で海老専門の仲卸店を営む平井啓之氏はこの道45年
の経験があり、1日に1万本もの海老を扱ってきたため、ひとた
び海老を手にすれば、大きさ、重さ、状態を一瞬で見分けられる
といいます。平井氏は、海老の識別はどれほど機械が発達しても
人にしかできない仕事であるといい、次のように述べています。
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 生き物だから、色も見なけりゃなんない、鮮度も見なけりゃな
んない、色で識別もしなきゃなんない、指で触って柔らかさ固さ
も見なきゃなんない、脱皮してるかしてないか。まず形。形をお
客さんの注文のサイズに合わせて。みんな形が違うんだ。脱皮し
ながら大きくなっていくんですよ。プロのお客さんは大きさで使
い分けてるんです。焼き物にしたり刺し身にしたり。握って、首
と尻尾が出るくらいの大きさは天ぶらですね。
  ──弘 理子氏論文「築地市場─驚きの職人技と人間模様」
           『現代思想』2017年7月臨時増刊号
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 現在、日本には多くの外国人観光客が訪れますが、これらの観
光客で「築地」の名前を知らない人はいないといわれます。築地
市場には、和食ブーが続くなかで、観光、飲食、買い物などを目
的にして、毎日1万人以上の人が訪れます。もちろん、外国人観
光客だけでなく、日本人も含めてです。包丁を売る店の売り上げ
の約50%は外国人であるといわれます。そのような築地の文化
を簡単に潰してはならないのです。
 そういう築地ブランドを新設の豊洲市場が引き継げるかという
と、それは明らかに「NO」です。それに、豊洲市場には欧米に
見られるIT化された市場機能もないし、少し厳しいいい方をす
れば、ただの巨大な冷蔵施設に過ぎないのです。何よりも豊洲市
場では、築地市場の「宝」ともいうべき仲卸業者が生き残る余地
が少ないことがあります。それは、中間機構を廃止していこうと
する現代の資本主義の全体的傾向に対応した変化といえます。
              ──[中央卸売市場論/051]

≪画像および関連情報≫
 ●小池都知事方針/若林共産党都委員長に聞く
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   東京都築地市場(中央区)の豊洲新市場(江東区、東京ガ
  ス豊洲工場跡地)への移転問題で、小池百合子知事は20日
  市場を豊洲に移転するとともに、築地市場は売却せず、市場
  としての機能を残す基本方針を発表しました。この基本方針
  をどう見るか、日本共産党東京都委員会の若林義春委員長に
  聞きました。
   小池知事が築地市場を売却せず、市場としての機能を残す
  と表明したことは、市場移転問題をめぐる都の従来の立場か
  らの大きな転換であると評価しています。石原慎太郎知事以
  来の都政は、築地市場を売却し、豊洲開発の原資にするとい
  うものでした。小池知事は、この立場からの大転換を都知事
  として初めて公式に発表したわけで、大変重い意味を持ちま
  す。築地の仲卸業者の8割が築地で商売したいと願い、すし
  屋さん、小売店も「やっぱりお魚は築地から」と声を上げて
  きました。日本共産党都議団も十数年間にわたって豊洲移転
  に反対し、築地市場の再整備を訴えてきました。こうした力
  が、石原都政以来の築地売却という方針の根幹を覆し、一歩
  動かしたことは明らかです。しかし、築地をいったん更地に
  して、豊洲移転を進めるという小池知事の基本方針には非常
  に重大な問題があります。豊洲市場の最大の問題は、東京ガ
  ス工場の操業がもたらした土壌汚染問題、食の安全・安心の
  問題です。小池知事は都議会第2回定例会で、都が約束した
  「無害化」は達成できていないとしておわびしました。汚染
  土壌を取り除くことはできず、安全が確保されていないこと
  を認めたわけです。        http://bit.ly/2vNYpSy
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外国人観光客とセリの風景.jpg
外国人観光客とセリの風景
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | 中央卸売市場論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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