2007年06月19日

●「小さい政府」に本当に変えていいのか(EJ第2104号)

 経済というものをどのようにとらえるかについては、さまざま
な考え方があります。経済の原点といえば、一方に資本を提供す
る者がいて、他方にその資本を使って人を雇い、事業を行って利
益を得る者がいる――そういうかたちになります。
 こういう経済のかたちをいつから「資本主義経済」とか「自由
主義経済」とか呼ぶようになったかは、はっきりとはしていない
のですが、そういう経済を否定する共産主義や社会主義が登場し
てからのことと思われます。別に「これから資本主義経済をはじ
めるよ」と宣言してはじめたわけではないのです。
 19世紀までの経済は、「夜警国家」という考え方の基に成り
立っていたのです。ところで「夜警国家」とは何でしょうか。
 「夜警国家」とは、政府は国防や警察サービスを強化し、国民
を外敵の攻撃や暴力から守ることに専念して、経済を含む民間の
活動については介入すべきではないという考え方です。こういう
国家では、経済については自由放任――レッセ・フェールの市場
経済が原則になります。
 英国のアダム・スミスは、『国富論』という著作において、夜
警国家の理論を体系化して、次の考え方を明らかにしたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 政府が民間の活動に介入しなければ、私的利益だけでなく、公
 共の利益もまた最大になる。      ――アダム・スミス
―――――――――――――――――――――――――――――
 別に経済理論の歴史を論ずるつもりはないのですが、小泉内閣
とその後継の安倍内閣において進められている構造改革の底辺に
どのような思想があるのか、またどのような考え方の人がこれを
推進しようとしているのかを明らかにしたいのです。
 さて、自由放任の資本主義社会には、次の3つ病気があること
がわかってきたのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
       1.第1の病:貧困層の増大
       2.第2の病:失業者の増大
       3.第3の病:市 場の失敗
―――――――――――――――――――――――――――――
 第1と第2の病については説明する必要はないと思いますので
第3の病について解説することにします。
 自由放任の経済では、私的独占や不公正な取引による事故や損
失などがしばしば発生します。独占企業によって価格が吊り上げ
られて消費者が不利益を受けたり、医療事故や、薬害、公害など
が起こります。このように、自由放任の経済なのにかえって独占
が起こるのです。これを「市場の失敗」と呼んだのです。
 こういう3つの病を治そうとすると、政府は大きくならざるを
得ないのです。つまり、「大きな政府」です。戦後の欧米諸国や
日本は、第1と第2の病を治療して、社会主義に優る安定的な資
本主義の建設を目指したのです。
 加えて政府は「市場の失敗」を拡大解釈して、規制を強化した
り、私企業を国有化するなど、市場に積極的に介入し、自由な市
場の動きを修正するようにしたのです。これらは「大きな政府」
にしてはじめてできることなのです。
 日本では21世紀までこの「大きな政府」が続いてきたのです
が、小泉政権になって小泉首相は初閣議において次のように決意
を表明しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 構造改革なくして景気回復なしとの認識のもと、社会経済構造
 改革に取り組み改革断行内閣とする。構造改革を通じた回復に
 は痛みが伴う。              ――小泉前首相
―――――――――――――――――――――――――――――
 これは、経済学的にいうと、小渕内閣のとったケインズ政策路
線からの決別を意味しているのです。さらに2003年になると
「小泉改革宣言――政権公約2003」において「簡素で効率的
な政府を目指す」と明言しています。つまり、「大きな政府」か
ら「小さな政府」を目指すと宣言したことになります。これは経
済理論の変更を意味する大変化です。
 しかし、国民は熱狂的に小泉改革を支持したのです。「小さい
政府」が何を意味するのか、はっきりしないままです。果たして
これでいいのでしょうか。
 自由放任の経済――これは古典派経済学といわれます。この経
済の世界の最大の問題点は、巨大な需要不足状態――つまり、経
済恐慌が発生することです。
 マルクスはこの経済恐慌が起こることを事前に予想し、資本主
義経済には問題があると指摘したのです。そして、共産主義・社
会主義経済こそがそれに代わる正しい経済システムであることを
説いたのです。これがマルクス主義です。
 このマルクスとは別の方法によって自由放任の経済の重要な欠
陥――有効需要の不足が起こること――を理論的に指摘したのは
ケインズです。そしてそれを「市場の失敗」と名づけたのです。
ケインズは、その「市場の失敗」は政府が是正することによって
市場は正常に機能するようになることを示し、共産主義をとる必
要がないことを明らかにしたのです。
 このようにして第2次世界大戦後の経済政策はケインズ政策が
主流となったのです。そのケインズ政策のおかげで、資本主義経
済国家は深刻な経済不況に遭遇したことがないのです。唯一の例
外は、バブル崩壊後の日本経済なのです。
 そのように経済がおかしくなると、一度滅びたはずの怪しげな
政策を唱えるゾンビどもが復活してくるものなのです。そのゾン
ビの正体が自由放任の経済思想であり、現在の日本ではその経済
思想が力を得つつあるのです。この一派を「新古典派」――ニュ
ー・クラシカル」というのです。
 ややこしいのは、同じ「新古典派」を名のる別の一派があるこ
とです。これはケインズ政策を修正したとされる一派であり、ネ
オクラシカルと呼ぶのです。 ――[日本経済回復の謎/13]


≪画像および関連情報≫
 ・新古典派経済学とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  新古典派経済学とは、経済学における学派の一つ。もともと
  は、イギリス古典派の伝統を重視したマーシャルの経済学を
  さしたとされるが、一般には、限界革命以降の、効用の理論
  と市場均衡分析をとりいれた経済学をさす。数理分析を発展
  させたのが特徴であり、代表的なものに、ワルラスの一般均
  衡理論や新古典派成長理論などがある。
                    ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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