の副総理で民間活力担当であった金丸信氏らの何人かの閣僚は、
当時の東京都の鈴木俊一知事の案内で、東京臨海部と豊洲、晴海
地区を遊覧船で視察したのです。
そのとき、金丸副総理は船を豊洲埠頭に着けて欲しいと要望し
ます。だが、そのときは、船を埠頭に着けることはできなかった
ので、海上からの視察になったのですが、もうひとつ金丸副総理
は鈴木知事に次の要望を出していたのです。
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臨海部を視察後、東京ガス本社で、鈴木知事と東京ガスの安
西浩会長と会食をしたい。 ──金丸副総理
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この要望に鈴木知事は、東京ガスの意図を察し、会食は断った
といわれます。東京ガスはこの頃から豊洲の再開発を狙っていた
のです。実際に金丸氏は視察後、「金丸民活懇」を発足させ、積
極的にウォーターフロント開発構想を打ち上げたのです。東京都
はこれを受けて1988年に次の方針を策定しています。
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臨海部副都心開発基本計画+豊洲+晴海開発基本方針
──東京都
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しかしこのとき鈴木知事は、築地市場の移転はまったく考えて
おらず、1986年の第4次再開発基本方針に基づき、1991
年1月から築地での再整備工事を進めていたのです。この基本方
針によると、築地の老朽化、狭隘・過密化などによって、再整備
が急務であるとし、次のように書かれています。
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築地市場を他の場所に移転することは、流通の実体、社会的要
因から極めて難しい。現在地は隅田川の河口に面し、周辺には豊
海などの冷蔵庫群が控えるという優れた地理的条件下にありなが
ら、しかも22・5haという都心部としては広い敷地を有して
いる。 http://bit.ly/2uLlxB5
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これは、鈴木俊一知事には築地を移転させるという考え方が、
まったくなかったことを示しています。それどころか、1988
年11月に鈴木知事は、築地市場の再整備に当たって基幹施設は
平面という卸売市場業界の常識に反する「水産1F/青果2F」
という前例のない大規模立体化計画を築地再整備基本計画として
決定しています。このように、鈴木市長は築地再整備になかなか
意欲的であったことがこれでわかります。
それが青島幸男知事を経て石原慎太郎知事になって一変するの
です。石原氏は、知事就任のとき、既に豊洲市場への移転の方向
は決まっていたといっていますが、これは事実と異なります。し
かし、市場問題にはまるで関心のなかった青島幸男知事の時代に
都の市場部が築地市場の移転の可能性を密かに検討しはじめてい
たことは確かです。
不思議なのは、営業を続けながら工事を続けてきた築地の再整
備工事が、1996年、約400億円を注ぎ込んだ時点で、突然
中断されたことです。一般的には工事が行き詰っていたといわれ
ますが、それを裏付ける事実はないのです。この工事中断は青島
知事の時代ですが、青島知事は市場問題には関心がなかったので
役人の中断するという報告をそのまま受け入れたものと思われま
す。それ以来、「築地の再整備は困難である」との噂が意図的に
流さるようになります。
1996年1月、当時の市場長は「年頭会見」で、次のような
発言をしています。
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築地市場の移転を検討するとすれば、豊洲なら可能性がある。
築地市場は現行計画を見直す必要がある。
──番所宏育東京都庁市場長
http://bit.ly/2uLlxB5
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この時点で都は築地市場の移転を模索しています。なぜ、築地
再整備を中断したのでしょうか。何しろ都民の税金が約400億
円も既に使われているのです。
1997年10月、東京都は、第14回再整備推進協議会にお
いて、次の発言をしています。
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これまで関係業界から要請のあった移転候補地について、@臨
海副都心地区、A晴海地区、B豊洲地区が考えられるが、検討の
結果、Bについてはわずかながら可能性がある。
http://bit.ly/2uLlxB5
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この時点では、東京都は築地再整備を完全に諦め、移転候補地
を探しています。これら、3つの候補地のうち、臨海副都心地区
は既に利用計画が具体的に決められており、入る余地はないとし
晴海地区については地域が狭すぎるとして外され、消去法で豊洲
地区が有力候補になっていたのです。
「築地市場の現在地での再整備について」というタイトルの東
京都の文書には、豊洲について次の記述があります。あくまで豊
洲ありきですが、そこが東京ガスの跡地であることを知りながら
土壌汚染についてはまったく考慮されていないのです。
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豊洲地区については、住宅系を中心とした開発整備計画が都と
して決定され、地権者との話し合いが進んでいるが、本地区は地
権者も少ないため、築地全業界が一致結束し、さらに、開発整備
計画の変更を都として決定すれば、100%不可能ではないであ
ろう。 http://bit.ly/2uLlxB5
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──[中央卸売市場論/008]
≪画像および関連情報≫
●豊洲移転問題に見るファイナンス・リテラシーの壁
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今回取り上げるのは、メディアを賑わせている築地市場の
豊洲移転問題です。「誰が決めたのか」「責任は誰にあるの
か」「瑕疵担保条項をなぜ放棄したのか」といった議論を連
日目にし、ファイナンスを勉強した諸氏の中には違和感を抱
く方が結構いるのではないでしょうか?
ファイナンスを学ぶ際、例えばグロービス経営大学院では
ケーススタディを通じて「油田発掘プロジェクトAは初期投
資が少ないが埋蔵量も少なく、Bはその逆。どちらを採用す
べきか」「A社はX社を買収すべきか、それとも設備投資を
増やして自力成長を目指すべきか」「A社は自社生産を外部
アウトソースに切り替えるべきか」という意思決定の訓練を
繰り返し行います。それらの分析の王道(というか唯一の判
断基準)は、「それぞれの計画案の総投資額とそのプロジェ
クトが将来にわたって生み出すキャッシュフローの正味現在
価値(NPV)を計算して、NPVの高い方のプロジェクト
を選択する」という方法です。
築地市場に投資して再整備するか、豊洲へ移転するか、と
いう問いは上記のケーススタディの応用事例にすぎません。
(公共事業なのでどちらのNPVもマイナス、どちらがより
小さいか、となるかもしれませんが)。
http://bit.ly/2tIny0F
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鈴木俊一元東京都知事


