2007年06月18日

●高名な経済学者による日本の不況の分析(EJ第2103号)

 『週刊/東洋経済』2007年6月2日特大号に、ノーベル賞
経済学者であるポール・サミュエルソン氏の対談が出ています。
前回のクルーグマン教授とクー氏との対談に関連する点もあるの
で、過去数10年間にわたる日本の不況に関するコメントをひろ
ってみることにします。
―――――――――――――――――――――――――――――
 ・90年にバブルが破裂したとき、ポール・クルーグマンや私
  は、日本は「流動性の罠」にはまっていると指摘しました。
  何らかの理由で日本経済には根深い硬直性がある。
 ・バブル期の日本はまるでギリシャ悲劇のようでした。日本は
  舞い上がっていて、私たち米国人に対し、米国のやり方は時
  代遅れだ、米国の問題の元凶はハーバート・ビジネススクー
  ルだ、日本には全員一致と終身雇用による新たな企業統治の
  手法があると言っていました。
 ・財政政策と金融政策の双方で過ちを犯し続けていて、そのせ
  いで金融機関への対処に時間がかかりすぎただけなのか、ま
  たはこれらの過ちは全体像の一部の問題に過ぎず、今も構造
  的な欠陥が存在して構造改革が必要なのか、どちらの見解も
  正しいといえるでしょうね。 ――ポール・サミュエルソン
      『週刊/東洋経済』2007年6月2日特大号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 過去数10年間の日本の不況の原因に関しては、クルーグマン
氏にしてもサミュエルソン氏にしても、正直何をいっているのか
よくわからないというのが本音です。そして、自分たちの理論で
説明できないと、「日本は特殊である」という論法で逃げている
ような気がしてならないのです。
 経済学というものはそういうものであるといってしまえばそれ
までですが、本当に不況の原因を掴んでいるなら、素人にも理解
させることができる説明が私はできると考えています。その点、
リチャード・クー氏のバランスシート不況論は素人でも理解でき
る納得性があります。しかし、高名な経済学者ほど、クー氏のい
うバランスシート不況論など一顧だにしないといいます。加えて
クルーグマン氏やサミュエルソン氏は米国における対日の経済政
策要求にかかわるオピニオン・リーダー的存在であることも頭に
入れてその発言を読み取るべきであると考えます。
 スティーヴン・ヴォーゲルという人がいます。カルフォルニア
大学バークレー校准教授ですが、彼の父親が『ジャパン・アズ・
ナンバーワン』の著者、エズラ・ヴォーゲル氏なのです。
 ジャパン・タイムズの記者を経て、ハーバード大学などで教鞭
をとったのち現職に就いているのですが、大変な日本通の学者で
す。彼は、『VOICE』2007年7月号に『日本企業は米国
型を超える』という興味深い論文を発表しています。
 その中で、彼は日本経済の回復が遅かった理由について次のよ
うに述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 それ(日本経済の回復が遅かった理由)は、主に政策の失敗に
 原因があった。この政策の失敗を是正する必要があったが、そ
 れが非常に遅かった。財政政策、金融政策、銀行規制の3つの
 政策が失敗したのだが、財政政策についてはバブル崩壊後、政
 府は経済刺激策を実行するのが遅かった。金融政策も緩めるが
 実行に移すのが非常に遅く、ゼロ金利政策を実行したときはそ
 れを量的緩和政策でフォローするのが遅かった。また、金融危
 機の処理も非常に遅かった。そういうことが重なって、日本経
 済の回復にかなりの時間がかかったのである。
               ――スティーヴン・ヴォーゲル
            『VOICE』2007年7月号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 それでもスティーヴン・ヴォーゲル氏は、時間はかかったけれ
ども、小泉政権がデフレと金融危機という2つの問題に真剣に取
り組んだことは評価しているものの、小泉前首相の政策の重点の
置き方については、次のように苦言を呈しています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 小泉前首相は、経済回復にもっとも重要な問題であるデフレと
 金融危機の問題にそれほどエネルギーを費やさず、さほど重要
 ではない、構造改革や郵政改革、特殊法人改革という問題にエ
 ネルギーを使いすぎた。私の考えでは、郵政改革や特殊法人の
 問題は経済回復にはまったく関係ない。
               ――スティーヴン・ヴォーゲル
            『VOICE』2007年7月号より
―――――――――――――――――――――――――――――
 さほど重要ではない構造改革や郵政改革、特殊法人改革――こ
のヴォーゲルの言葉はまったくその通りであると考えます。日本
は何かとんでもない回り道をしてきたような気がするのです。
 ヴォーゲル氏は、日本はバブルが崩壊したとき、今まで日本を
成功に導いてきた「日本型経済モデル」は間違いであったとして
日本の官僚、経営者、オピニオンリーダーたちはそれをあっさり
と捨て米国型モデルに変更しようとしたことを批判しています。
 日本型経済モデルとは、政府指導の経済、政府と企業の密接な
関係、終身雇用、メインバンクシステム、密な企業間ネットワー
クなどを意味しています。それは日本がかつて世界に対して誇っ
た日本経済成長のモデルだったのです。
 バブル崩壊後に日本で起こったいわゆる改革の波は、こうした
従来の日本型モデルを問題ありとして変えようとしたのです。日
本政府は、民営化、規制緩和という米国政府のレトリックを信奉
し、ひたすらその方向で構造改革を推し進めたのです。
 しかし、結果としてそこに出来上がった新しい日本型モデルは
ヴォーゲル氏にいわせると、日本の既存制度の強化によって生ま
れたものであり、良くなったことも問題のあるものもあるが、ど
ちらにせよ、やはり、きわめて日本的なものであると指摘してい
ます。           ――[日本経済回復の謎/12]


≪画像および関連情報≫
 ・ポール・サミュエルソンについて
  ―――――――――――――――――――――――――――
  経済学のの多岐にわたる分野で活躍し、古典派経済学にジョ
  ン・メイナード・ケインズのマクロ経済学的分析を組み合わ
  せた新古典派総合の創始者として著名。厚生経済学の分野で
  は、リンダール・ボーウェン・サミュエルソン条件(ある行
  動が福祉をより良くするかどうかを決める判断基準)で知ら
  れている。             ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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