えが出るでしょうか。
結論からいうと、この問題の米国にとってのベストの解決策は
北朝鮮への限定攻撃によって核・ミサイル関連施設を破壊するこ
としかないのです。しかし、中国との約束により、北朝鮮という
国家は存続させる方針です。
元自衛艦隊司令官の香田洋二氏は、米国と北朝鮮の神経戦につ
いて、次のように述べています。
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この事態が起きる可能性は、昨年から徐々に高まっていたとい
える。私は昨秋には、米朝の軍事衝突の可能性が20〜30%に
なっていたと分析しており、機会をとらえ警告を発していたが、
可能性は2017年1月1日のICBM最終段階宣言でさらに高
まり、トランプ政権誕生で現実味を強めていったのである。無論
北朝鮮も米国も自らのメンツだけにこだわって対立をエスカレー
トさせたのではない。まして金正恩が自暴自棄になっただとか、
トランプが感情的になっただとか、そういう話では断じてない。
単純に言えば、北朝鮮は自国の存続のために、米本土に届く核
ミサイル開発で米国を交渉の場に引きずり出そうとし、米国は多
数の自国民が核ミサイルによって死ぬ事態だけは断じて避けなけ
ればならないと考え、両者がギリギリの政治戦と神経戦を繰り広
げた結果なのである。 ──『月刊正論』/2017年6月号
http://bit.ly/2ry8P6g
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米国、とくに現在の米政権は「アメリカ・ファースト」を標榜
するトランプ政権です。当然のことながら「米国は多数の自国民
が北朝鮮の核・ミサイルによって死ぬ事態だけは、断じて避けな
ければならない」と強く考えています。
香田洋二氏は、現在の米軍が北朝鮮を限定攻撃するシミュレー
ションを『週刊文春』5月18日号で解説しています。
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米朝もし戦わば「1時間で平壌制圧」/元海自司令官ら断言
──『週刊文春』5月18日号
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香田洋二氏によると、攻撃は2波にわたって行われますが、そ
のターゲットについては次のように述べています。
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まず、ソウルに多連装ロケット砲が向けられている長距離砲兵
部隊、「ノドン」「テポドン」などで日本を射程に収める弾道弾
部隊が目標となります。同時に、巡航ミサイルの撃墜防止のため
北朝鮮の東西両海岸にあるレーダサイト、対空ミサイル、高射砲
部隊への攻撃が1次攻撃の中心となる。これは2次攻撃を行う際
の有人攻撃機への脅威の低減も兼ねます。地下基地・施設はかな
り深度のあるものもあり難敵ですが、出入り口と換気施設の破壊
は比較的、容易に行なわれます。──『週刊文春』5月18日号
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攻撃は、東の日本海と西の黄海から行われます。時間は夜明け
数時間前、500発から1000発のトマホークと空中発射巡航
ミサイル(ALCM)による集中攻撃が行われます。
トマホークについては、原子力潜水艦ミシガンと同級の潜水艦
から発射され、ALCMは爆撃機によって発射されます。ALC
Mというのは、米空軍の長距離攻撃スタンドオフ兵器で、航空機
の子供のような形状の白いミサイル(添付ファイル参照)であり
ピンポイントで攻撃目標を的確に攻撃します。
これらの原子力潜水艦からのトマホークの発射と同時に、攻撃
兵器の大量搭載が可能なB−52爆撃機、高速と低空飛行を得意
とするB−1爆撃機、B−2ステルス爆撃機が一斉に空母から発
進し、北朝鮮の高性能レーダー基地、内陸部の地下基地攻撃には
レーダーに探知されにくいB−2が、対空火力の強い防空施設に
はB−1による奇襲集中攻撃を行います。
これと同時並行に行われるのが、電波・通信網の撹乱です。こ
れについて、香田洋二氏は次のように述べています。
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電波・通信網の撹乱は、電子戦機「EA−18Gグラウダー」
によって、対空警戒監視レーダー、飛行中のミサイルなど、電波
・電磁波を含むすべての装置の無力化が可能と考えられます。
──『週刊文春』5月18日号
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イラクのように拡散した地域と違って北朝鮮は地域が限定され
ているので、その攻撃効率は高く、香田洋二氏によると、第1波
の夜明けの一斉攻撃による北朝鮮兵力の陸上からの反撃は、航空
機を含めほぼ皆無であるとしています。
ある韓国国防省関係者は、米軍が、北朝鮮への軍事行動に踏み
切った場合、どのくらい時間を要するかについて、次のように述
べています。
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北朝鮮の基本的な攻撃能力を無力化させるのにかかる時間は
約1時間である。 ──『週刊文春』5月18日号
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第1波の攻撃開始から2時間後に米軍内で攻撃評価が行われ、
巡航ミサイル約100発を使って第2波攻撃が開始されます。こ
の第2波攻撃について香田洋二氏は次のように述べています。
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第2波は主として1次攻撃の“撃ち漏らし攻撃”への攻撃とな
ります。韓国と日本への攻撃を無力化し、脅威を最小化させる目
的です。防護態勢が最も手厚い平壌や、他の政治・経済の重要地
域の防空部隊・防衛部隊などの優先度は低くなります。
──『週刊文春』5月18日号
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──[米中戦争の可能性/095]
≪画像および関連情報≫
●トランプが今やろうとしていること/高橋洋一氏
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筆者は、東アジアの軍事バランスに常に注目している。た
とえば、2012年8月27日付け本コラム「失われた20
年で東アジアでの日本のプレゼンスは激減した。軍事費から
分析する日中韓米露の『軍事力バランス』」では、古典的な
リチャードソン型軍事モデルを使って、日本の周辺国の軍事
バランスを分析している。 http://bit.ly/2qyp9Gz
それによれば、日本の周辺国の軍事バランスは最近崩れて
おり、これが地域の不安定を読んでいる、ということが分か
る。この状態は長期的に続いており、ますます不安定になっ
ている。オバマ大統領時代、アメリカは物わかりのいい国に
なっていた。オバマ大統領は、「アメリカは世界の警察官の
役目をもはや果たさない」というスローガン通りに行動し、
それが世界の不安定化を招いていた。
その例は、北朝鮮の核・ミサイルの挑発、ロシアのクリミ
アやシリアへの介入、中国の南シナ海への勢力拡張である。
それらが、具体的な東アジアの軍事バランスの変化にも数字
として表れている。
一方、トランプ大統領は大統領選挙期間中、アメリカ第一
の姿勢から世界各地での紛争には手を出さないという姿勢で
いた。そのままであれば、5年前に本コラムで分析した軍事
バランスは今後もより不安定にならざるを得ないので、東ア
ジアはいつ軍事紛争があってもおかしくない地域になってい
ただろう。 http://bit.ly/2qEsAtP
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巡航ミサイル/ALCM