2001年07月08日

●日銀はなぜ金利を量に変更したか(EJ第653号)

 2001年3月19日、日銀は次のことを決めています。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.金融市場調節の主たる操作目標をコールレートから日本銀
   行当座預金残高に変更する。
 2.新しい金融市場調節方式を消費者物価指数の前年比上昇率
   が安定的にゼロ%以上となるまで継続する。
 3.必要と判断される場合は長期国債の買い入れを増額する。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 この内容は、1年以上前から中原伸之日銀審議委員が何度も提
案し、そのつど否決されてきたものです。とにかく日銀首脳は量
的緩和に関して強い抵抗感を持っているのです。
 日銀のこの決定を報道機関は「実質的なゼロ金利の復活」と表
現して報道したのですが、これは日銀の意に沿った報道姿勢とい
えます。しかし、ゼロ金利復活と量的緩和とは基本的に異なるも
のであり、似て非なるものなのです。
 そもそも市場にお金の量を増やす――すなわち、マネーサプラ
イを増やすには、次の2つの方法があります。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 1.金利ターゲッティング
   オーバーナイト・レートのようなコール・レートを手段と
   してそれを低めに誘導する方法である。
 2.マネタリーベース・ターゲッティング
   マネーサプライの基礎となるマネタリーベースを増やす方
   法である。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 昨日も述べましたが、マネタリーベースとは、市場に流通して
いる現金と、日銀当座預金の残高の合計のことをいいます。日銀
はマネタリーベースをコントロールできるのです。
 これら2つの方法のうち、日銀が伝統的に採用してきた金融調
節手段は「金利ターゲッティング」なのです。しかし、中原日銀
審議委員の主張は「マネタリーベース・ターゲッティング」であ
り、今まで一度として採用されることがなかったのに、今回は採
用されたことになります。
 日銀は、「金利」に注目する政策とマネーサプライとか、マネ
タリー・ベースのように「量」に注目する政策との間には本質的
な違いはないことをしきりにアピールしています。
 日本銀行のホームページに、「わかりやすい金融経済」という
コーナーがあるのですが、そこにそういう趣旨の説明が行われて
いるので、読んでみていただきたいと思います。

http://www.boj.or.jp/

 日銀はこの論法で、金融の量的緩和の要請が強くなるとゼロ金
利政策のような金利ターゲッティング政策を取り、マネタリーベ
ース・ターゲッティングは決して取ろうとはしなかったのに今回
それをとったのは、3月19日の金融政策決定会合では何かクー
デターのようなことがあったのではないかと考えられるのです。
 EJで何回かにわたって説明しますが、現在の日本経済を救う
には金融の量的緩和しかないのです。しかし、日銀はこの期に及
んでもそれをなるべくやりたくないと考えており、その結果、政
策が小出しになって効果が上がらないことが考えられます。
 しかし、日銀が強い独立性を持っている現在では、政府といえ
ども日銀に強制してやらせることはできないのです。つまり、金
融政策は完全に日銀の手の内にあるのです。
 少し、ややこしい話になりますが、ゼロ金利政策と量的緩和政
策の違いを説明しましょう。
 日銀がオーバーナイト・レートをほぼゼロに設定すると、銀行
の日銀当座預金(準備預金といいます)に対する需要は増加しま
す。そこで日銀はこの需要の増加に応じて、準備預金というマネ
タリーベースの供給を増大させます。
 この準備預金をどんどん増やしていくと、やがてオーバーナイ
ト・レートはほぼゼロになります。したがって、オーバーナイト
・レートをゼロに誘導する方法をとっても、マネタリーベースの
供給を増やす方法をとっても、ゼロ金利とマネタリーベースの間
には1対1の関係があり、いずれの方法をとってもマネタリーベ
ースの供給量には変わりはないことになります。
 しかし、オーバーナイト・レートがゼロになってしまうと、そ
こに限界が生じてしまうのです。銀行はゼロ金利によって十分な
準備預金を保有することが可能になり、日銀がそれ以上お金を供
給してマネタリーベースを増やしても、そのお金は仲介業者であ
る短資会社に積み上げられ、銀行には届かないのです。短資会社
というのは、コール市場において、資金の余っている金融機関と
それが不足している金融機関とを仲介して需給を一致させる仕事
をする会社のことです。しかし、短資会社の日銀当座預金はマネ
タリーベースには含まれないので、マネタリーベースの増加はこ
こで行き詰まってしまうことになります。
 オーバーナイト・レートをゼロ以下、つまりマイナスにしない
限り、マネタリーベースをそれ以上増やすことはできなくなりま
す。また、銀行がその資金を貸し出しや証券投資のために使わな
い限り――そういうことが実際に起こっている――マネーサプラ
イの増加につながらないのです。
 このようにゼロ金利政策は、マネーサプライを増やす手段とし
ては限界があるのですが、この限界を打破するには、中原日銀審
議委員のいうように金利ターゲッティングを捨てて、マネタリー
ベース・ターゲッティングに切り替えるしかないのです。
 その具体的な手段としては、第1に短期国債現先買いオペを実
施し、状況を見て長期国債買い切りオペを実施することです。こ
れが何を意味するかについては次回に説明しますが、3月19日
の日銀の発表には、「長期国債の買い切りオペ」をやるといって
いるのですから、今までの日銀とは明らかに違います。
               −−[円の支配者日銀/03]

Rcψ.jpg
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック