2017年05月01日

●「なり振り構わぬ中国の株価維持策」(EJ第4512号)

 中国の株式市場について考えてみます。株式市場といえば、資
本主義の象徴ですが、中国に株式市場が創設されたのは1990
年のことです。なぜ、株式市場が創設されたのでしょうか。
 それは、あの天安門事件と関係があるのです。天安門事件が起
きたのは1989年のことです。民主化を求める学生たちが天安
門広場で大規模デモを敢行したのです。政府は人民解放軍を導入
して鎮圧し、数千人の死者を出す大事件になったのです。
 ときの権力者のケ小平は、もしこのような事件が再発されると
中国共産党は崩壊すると考えて強硬手段をとったのです。ケ小平
の驚くべき政治的な勘です。もし、現代であれば、人民解放軍の
戦車の前に立ちはだかったあの青年の写真は、スマホで、あっと
いう間に中国全土に広がり、大勢の人民が立ち上がり、中国共産
党は崩壊の危機に瀕することは確かです。
 このように天安門事件で危機感を覚えたケ小平は、それまでの
経済政策を変更し、上海としんせんに証券取引所を開設し、金儲
けを奨励することにしたのです。つまり、民主化を求める人民に
民主化させない代わりに、資本主義の主幹システムを導入したの
です。まさに苦肉の策です。
 もともと社会主義の国に株式市場を開設するには無理があると
いえます。証券取引所には国有企業が国有企業のまま上場されて
いたりしたからです。しかし、2000年に入ると、中国の株式
市場は盛り上がってきたのです。実際に株式によって多くの中国
人が、豊かになったことは確かです。これを見て多くの中国人は
株式に関心を持つようになります。そして日本の証券会社でも中
国株を扱うところが増えてきたのです。
 しかし、中国人のバクチ好きを知っている政府は、信用取引だ
けは認めなかったのです。もし認めると、株式投資が過熱するこ
とが目に見えていたからです。その頃、株式投資をしている人た
ちの間では、胡錦濤総書記の後任に習近平氏が就くのか、李克強
氏が就くのかに関心が集まっていたのです。李克強氏が経済に強
いことはよく知られており、これに対して習近平氏は「経済オン
チ」であり、市場からあまり信頼されていなかったのです。
 2007年10月に上海総合指数は最高値をつけていたのです
が、第17回中国共産党大会で、習近平氏の共産党序列が6位、
李克強氏の序列が7位に決まると、とたんに株価は暴落したので
す。これは、胡錦濤総書記の後任が習近平氏に決まったことを意
味しており、多くの投資家が失望売りをしたからです。
 自分が経済オンチであるといわれていることを意識している習
近平氏は、2012年に総書記に就任するや株式の信用取引制度
を導入したのです。何としても、株価を上げたかったからです。
 その結果、何が起こったでしょうか。
 株式市場の活況と急速な景気後退です。これについて高橋洋一
氏は、次のように解説しています。
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 2015年3月以降、「禁断」の信用取引を導入した効果もあ
って、株価は歴史的な高値を更新していた。しかし、実体経済は
その一年前から変調をきたしていた。株式市場以外は、景気低迷
にあえぎ、不動産バブルもはじけていたのだ。
 それでも、というより、だからこそ人々は株式投資にのめり込
んだ。民間企業の経営者のなかには、急騰する株式相場の誘惑に
勝てない者も数多くいた。なにしろ不景気のなか、会社経営は厳
しいが、株価だけは上昇している。勢いマネーゲームに参戦する
経営者が増えてもおかしくない。(中略)
 実体経済と株式市場のこの乖離を、中国政府は「新常態(ニュ
ーノーマル)」という言葉で説明した。急成長から緩やかな成長
へと減速し、安定的な経済成長に移行した、と強弁したのだが、
実態は急速な景気後退だった。
      ──高橋洋一著/『中国GDPの大嘘』/講談社刊
─────────────────────────────
 しかし、2015年夏に株価(上海株)は暴落するのです。そ
のとき、当局はなり振り構わぬ株価維持策を実施しています。そ
の維持策のなかに、大株主に対する一部企業の株式売却禁止措置
があります。期限は6ヶ月間です。自由主義経済圏ではあり得な
いこの暴挙を中国当局は実施したのです。
 このとき、一ヶ月で下げた株価の総額は、1兆5000億人民
元(約26兆円)にもなったのです。まさに中国株のバブルの崩
壊です。26兆円もの金額が一瞬にして消えたのです。しかも、
このときは、多くの投資家は信用取引をしていたので、有り金を
すべて失ったうえ、莫大な借金を負う投資家も少なくなかったの
で、飛び降り自殺(跳楼/ティアオロウ)する投資家が続出した
のです。中国政府は「跳楼」に関する報道を禁止し、ネットでの
その種のニュースをすべてカットしたのです。習近平主席は自ら
の失政を隠蔽するため、情報操作をやったのです。
 高橋洋一氏の本に出ていたのですが、中国の株式市場の世界で
は、「イーヒン・アルビン・チーシュー」という言葉があるそう
です。これは「10人の投資家のうち勝つのは1人、トントンが
2人、残り7人は負ける」という意味だそうです。このうち、勝
つ1人とは共産党幹部の官僚なのです。なぜなら、彼らはインサ
イダーで情報を得られるので損はしないのです。
 国有企業には持ち株の売却を禁止する一方、中国政府は商業銀
行、証券会社、生命保険会社などに大量に株を買わせ、株価を買
い支えようとしています。そのため、これらの金融機関は新規融
資ができなくなり、しかも大量の不良債権をかかえることになり
ます。そしてそれが、中国の経済をさらに冷え込ませる結果にな
るのです。
 そして、株の売却を禁じられた国有企業は、過剰設備をかかえ
ることに加えて、膨大な株の含み損もかかえることになります。
さらに2016年1月に解除されるはずの株式売却禁止措置はさ
らに延長され、さらなる株価の暴落を招くことになるのです。
             ──[米中戦争の可能性/082]

≪画像および関連情報≫
 ●中国「新常態」という異常事態/福島香織氏
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   中国の国会にあたる全国人民代表大会が3月5日から開幕
  し、李克強首相は政府活動報告で、中国の経済成長率目標を
  7%前後に引き下げ、「中国の経済状況が新常態(ニューノ
  ーマル)に入った」と位置付けた。この首相の新常態宣言は
  ケ小平の改革開放以来の30年の中国の高度経済成長に終わ
  りを告げる「低成長宣言」と受け取る向きもあれば、ケ小平
  の改革開放以来続いてきた経済構造を痛み覚悟で転換すると
  いうシグナルと受け取る向きもある。左派経済学者の郎咸平
  などは、「習総書記の語る『新常態』はケ小平の南巡講話以
  上の影響力」とも言っていたが、果たして「新常態」とは、
  どういう状況をいうのだろうか。そして、その「新常態」と
  はいつまで続くのだろうか。
   習近平が最初に「新常態」という言葉を使ったのは、20
  14年5月の河南視察旅行中の発言だ。「中国の発展は依然
  重要な戦略的チャンスの時期にあり、我々は自信を強化し、
  目下の中国経済発展の段階的特徴から出発して新常態に適応
  し、戦略上の平常心を保ち続けなければならない」。
   この新常態の理念について、さらに具体的に説明されたの
  はその年の11月のAPEC商工サミットでの「発展の持久
  を求め、アジア太平洋の夢をともに築こう」という演説の中
  で、「新常態は中国のさらなる発展のチャンスをもたらすも
  のなのだ」と発言。       http://nkbp.jp/2pIu20J
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株価暴落で頭をかかえる投資家
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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