2017年04月27日

●「経済司令塔を変えようとする中国」(EJ第4510号)

 2016年3月の全人代(全国人民代表大会)開幕式での出来
事です。開幕式では首相が政府活動報告をするのが習わしです。
国内外のメディアがカメラを回し、全国民が注視する華やかな政
治イベントにおいて、習近平主席と李克強首相は、お互いに目を
合わさず、終始憮然とした表情だったのです。
 習主席は、政府活動報告をする李首相の演説をいかにもつまら
なそうな表情を浮かべ、拍手を送らず、恒例になっている演説を
終えてひな檀に戻ってきた李首相と握手をしてねぎらうこともし
なかったといいます。中国ジャーナリストの福島香織氏は、この
ときの状況について次のように述べています。
─────────────────────────────
 これは異常事態であった。全人代の政府活動報告における拍手
と握手は、いわゆる台本に載っている約束事である。それをあえ
てしないどころか、全人代開催中、二人は目を合わせることもな
かった。また、政府活動報告を読み上げる李克強の様子も異様で
あった。目の下にクマをつくり疲労困悠といった様子で、読み間
違いが30回以上あり、声もときおりかすれた。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 中国では首相職が経済政策の責任者としての指揮を執ることに
なっています。ケ小平が決めた集団指導制のルールです。しかし
習近平主席にとってはこれが不満なのです。
 実は、2016年の全人代で李克強首相が憔悴しきっていたの
は、政府活動報告の起草をめぐって、習近平主席との間で激しい
やり取りがあったからです。全人代での政府活動報告は2015
年12月に行われた中央経済工作会議における決定に基づいて行
われることになっていたのですが、GDP目標の数値については
大もめにもめたのです。それは、2012年秋の第18回中国共
産党大会において、習主席がビジョン「偉大な中国の夢」と共に
掲げた次の具体的な目標に原因があるのです。
─────────────────────────────
 2020年までにGDPと国民の平均収入レベルをそれぞれ
 2倍にする。              ──習近平主席
─────────────────────────────
 ここでいう2倍とは、2010年対比です。これを達成するに
は、年平均7%以上の成長が必要なのです。これによって習政権
は、年7%以上という高い経済成長の維持が至上命令になったの
です。ちなみに、中国の公式統計によると、2012年の固定資
産投資総額はおよそ36兆人民元(約612兆円)、前年比20
%という高い伸びです。この投資によってこの年の成長率はかな
り押し上げられています。
 しかし、経済刺激、政府の直接投資に頼る経済成長には当然限
界があり、2013年には景気が息切れしてきたのです。中国当
局は、無理に無理を重ねて、死にもの狂いで7%を支えてきたの
です。その結果、この過剰な投資は各地に鬼城(グイチェン)を
林立させるなど、多くの負の遺産を遺しています。
 2014年以降、GDP成長率目標を決める中央経済工作会議
では紛糾し、習近平主席と李克強首相の仲はどんどん険しいもの
になっていったのです。そして、2015年の中央経済工作会議
では、主席と首相の対立は頂点に達したのです。これについて、
福島香織氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 この政府活動報告は2015年12月に行われた中央経済工作
会議[中国共産党と政府が毎年12月頃、合同で開催する経済関
連で最高レベルの会議を指す]での決定に沿って書かれるのだが
この中央経済工作会議ではGDP目標は盛り込まれなかった。前
年と同じ7%とするか、前年よりも0・5ポイント下げた6・5
%という数字にするか議論が分かれ、結局、最低ラインを6・5
%、目標は7%と幅を持たせることでいちおう一致したが、数字
の盛り込みは見送られた。だが、全人代に提出する政府活動報告
では具体的数字は必要だ。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
─────────────────────────────
 このとき、習近平主席はあくまで7%を主張したのですが、李
克強首相は最低ラインの6・5%を主張して譲らず、決着がつか
なかったといわれます。そして、「7%〜6・5%」というレン
ジで数字を盛り込むことで決着したのです。
 習近平主席は、残りの任期の5年間を自分の思い通りに国家を
運営するため、要職に自分の腹心を配置してきています。実は習
主席が一番交代させたいのは、序列第2位の李克強首相です。そ
のため、あえて李首相に高いGDP目標を立てさせ、その数字を
達成できなかったときに責任を取らせるかたちで交代させたいと
考えており、実際にそうなる可能性は高いと思われます。
 2016年5月9日付、人民日報に「権威人士」なる人物によ
る記事が掲載され、李克強首相の経済政策を批判しています。そ
のなかでマクロ経済に関して次のように述べています。これを書
いたのは、習主席の経済ブレーンである劉鶴中央財経指導小組弁
公室主任であると思われます。
─────────────────────────────
 供給サイドの主要矛盾解消、供給サイドの構造改革が必須。投
資の拡大をやり過ぎず、適度にし、まな板から包丁が飛び出るよ
うなことであってはならない。天まで届くほど伸びる枝はない。
高レバレッジは必ずハイリスクを伴う。システマティックな金融
危機をうまくコントロールできなければ、数字の上で経済成長を
導くことができても、国民の貯蓄を台無しにしてしまう。
                ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
             ──[米中戦争の可能性/080]

≪画像および関連情報≫
 ●中国で強まる習氏独裁/ナンバー2の李克強首相もクビか
  ───────────────────────────
   中国の全国人民代表大会(全人代=国会)で、習近平国家
  主席の独裁ぶりが極まっている。共産党で序列第2位の李克
  強首相も平身低頭で恭順の意を示したが、年後半に開かれる
  党大会でクビになるのではとの観測が強まった。
   「習同志を核心とする中国共産党中央の力強い指導の下、
  経済、社会の発展を推し進めた」。李首相は政府活動報告で
  「核心」を繰り返して習氏の功績をたたえた。忠誠を誓う李
  氏に対し、椅子に深く腰掛けた習氏は報告書を開くこともな
  く退屈そうな仏頂面。報告書を読み上げる前に習氏に向かっ
  てお辞儀をした李氏と「格の違い」を際立たせた。会議終了
  後も、習氏は李氏と言葉こそ交わしたが、握手もせずに足早
  に退場した。
   政府が1月に公表した2016年の国内総生産(GDP)
  発表資料でも、李首相がトップを務める国務院の表記が削除
  されるなど、首相の主管分野である経済政策からの排除はあ
  からさまだった。存在感を失った李氏。習氏の信頼が厚い王
  岐山・党中央規律検査委員会書記または汪洋副首相と交代す
  るとの見方も指摘されている。   http://bit.ly/2oFvcoD
  ───────────────────────────

李首相と習主席の冷たい関係.jpg
李首相と習主席の冷たい関係
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/449345692
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック