2017年04月11日

●「北朝鮮と中国の本当の関係を探る」(EJ第4498号)

 中国にとって北朝鮮は、きわめて利用価値の高い国であるとい
えます。そのポイントを上げると次の3つがあります。
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        1.地政学的利点のある隣国
        2.緩衝地帯・屏風・番犬論
        3.かつての血の友誼の同盟
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 第1は、「地政学的利点のある隣国」であることです。
 中国は北朝鮮と幅広く国境を接しています。どこの国でも隣国
との関係は難しいものですが、これまでのところ両国の関係は比
較的良好であるといえます。
 北朝鮮は、民主主義国の大韓民国と38度線を境に二分されて
いる分断国家です。中国から見ると、米軍の駐留する民主主義国
の韓国と直接接していない点でメリットがあります。
 第2は、「緩衝地帯・屏風・番犬論」という視点です。
 中国から見ると、北朝鮮との間に長い国境線を持っているとい
うことは、外部から中国に侵略があったときの屏風の役割をする
緩衝地帯になり得ます。また、中国に代わって米国に吠えてくれ
る番犬的存在でもあります。
 第3は、「かつての血の友誼の同盟」であることです。
 1950年の朝鮮戦争のとき、北朝鮮軍は奇襲作戦によって、
ソウルを占領し、敗走する韓国軍を釜山付近まで追い詰めたので
す。ところが、国連安保理決議により、米軍を中心とする国連軍
が編成され、韓国に派遣されると、形勢が逆転します。補給線が
延びきっていた北朝鮮軍が今度は敗走し、国連軍はソウルを奪還
し、平壌も占領、さらに中朝国境近くまで迫り、北朝鮮は存亡の
危機に立たされたのです。
 ところが、1950年10月、鴨緑江を越えて参戦したのが中
国の人民志願軍。「人海戦術」を駆使して国連軍を押し戻し、平
壌とソウルを奪い返したのです。その後戦況は一進一退になり、
1953年7月27日、板門店で休戦協定が締結され、現在にい
たっています。このとき、北朝鮮と中国の間に生まれたのが「血
の友誼の同盟」です。この同盟関係は簡単に壊れることなく、現
在も続いているといわれます。
 この血の友誼の関係を象徴しているのは、中国と北朝鮮の首脳
同士が会ったときの挨拶のハグの親密さです。それは、添付ファ
イルの3枚の写真によくあらわれています。
 写真Aは、1990年3月、江沢民氏が党総書記に就任した翌
年に北朝鮮を訪問し、金正日総書記に会ったときのハグです。両
手での握手はもちろん、弾けるような笑顔で強くハグしているこ
とがわかります。ノンフィクション作家の河添恵子氏によると、
このまるで恋人同士のようなこの関係は「中国共産党と北朝鮮の
指導者が面会する時の特殊な儀礼」とか、「中朝の“鮮血擬血”
の友情な証」といわれているそうです。
 写真にはありませんが、胡錦濤国家主席が2004年に北朝鮮
を訪れたときも金正日総書記と同様のハグをしているし、李源朝
国家副主席(共青団派)がはじめて金正恩委員長と面会したとき
も、写真Bのようにハグしています。
 しかし、2008年3月、習近平国家副主席が北朝鮮を訪問し
金正日総書記と面会したときはハグはなく、習副主席は微笑み歩
み寄ったものの、双方は一定の距離を保った普通の握手だけだっ
たのです。
 たかが挨拶のハグというかもしれませんが、習近平主席は北朝
鮮に対して冷たいのです。中国は韓国と1992年に国交を樹立
していますが、それ以来中国は、韓国と北朝鮮に対して等距離外
交を基本としてきたのです。
 それでも習政権以前のケ小平、江沢民、胡錦濤政権では、等距
離外交とはいいながら、北朝鮮重視を続けてきています。しかし
習政権になると、露骨に韓国を重視するようになったのです。こ
れについては、昨日のEJでも言及しています。
 習近平主席は、挨拶に訪中した崔竜海(チェリンヘ)朝鮮人民
軍総政治局長に会っていますが、そのときの模様について、河添
恵子氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 2013年5月、習主席は崔竜海朝鮮人民軍総政治局長と会見
した。彼は、金正恩が指導者となって初めて中国に送り込んだ特
使だった。中韓メディアは、「雀竜海が金正恩の親書を手渡すと
習主席は何も言わず無表情で受け取り、片手で秘書に手渡した」
と写真と共に報じた。
 その翌月、習主席は朴槿恵大統領を中国へ招いた。季克強首相
(序列2位)、張徳江(序列3位)とも会見や食事を共にするな
ど大歓待を受けた朴槿恵大統領は、習主席にハルビン駅に(伊藤
博文を暗殺したとされる)安重根義士記念館の建設を懇願する。
           ──月刊WiLL/5月号(2017)
─────────────────────────────
 ここまでの分析でわかったことは、中国が北朝鮮をめぐって必
ずしも一つではないことです。北朝鮮と距離を置こうとする主流
の習主席一派と、北朝鮮を擁護する江沢民派が、目下権力闘争の
真っただ中にあるのです。
 これでは、習近平主席が、いかにトランプ米大統領から北朝鮮
をコントロールせよと要請されてもできるはずがないのです。も
しやれることがあるとすれば、米軍の攻撃を黙認することだけで
あると思います。もしかすると、先の米中首脳会談において習主
席は「黙認」を示唆している可能性があります。
 現在、北朝鮮に最も密着しているのは、「北部戦区」であり、
序列3位の張徳江氏(江沢民派)が仕切っています。もし、この
戦区が北朝鮮と通じてクーデターを起こす可能性がないとはいえ
ないのです。そういう場合、北朝鮮の核は、北京へも向けられる
ことになります。そうであるとすると、習主席が米国と組むこと
は考えられます。     ──[米中戦争の可能性/068]

≪画像および関連情報≫
 ●なぜ中国は北朝鮮からの石炭輸入を停止したのか
  ───────────────────────────
   2017年18日、中国は、北朝鮮からの石炭輸入を今年
  いっぱい停止すると発表した。石炭は北朝鮮の輸出の3分の
  1を占めており、この禁輸措置で、GDPの5%に当たる約
  10億ドル(約1130億円)が吹き飛ぶだけに、北朝鮮に
  は非常に厳しい制裁となる。度重なるミサイル発射と核実験
  にもかかわらず、これまで一貫して北朝鮮擁護の立場をとり
  制裁にも消極的だった中国が、ついに中朝関係を見直すのだ
  ろうか?
   金正恩氏は政権の座について以来、中国が核開発に反対し
  ているにもかかわらず、核実験とミサイル発射をこれまでに
  ない頻度で行っている。金正男氏暗殺の前日で、安倍首相が
  訪米中の12日にも、日本海にミサイルを発射した。中国の
  外交政策アドバイザーで南京大学教授の朱鋒氏は、これまで
  中国は北朝鮮と兄弟関係にあったが、金正恩政権は中国の国
  益になることを全くしたことがなく、いまや中国の忍耐力は
  尽きつつあると述べる(ニューヨーカー誌)。ロイターは、
  核開発問題を平和的に解決しようとしない金正恩氏の態度に
  中国はすっかり嫌気がさしてしまっている、という中国の北
  朝鮮専門家の言葉を紹介した。フォーブス誌も、リスクやコ
  ストが高まる中、60年間続いた中朝の友好関係を中国が考
  え直すことが予測されると述べ、両国の関係は続くものの国
  際社会とうまく付き合うため、中国は距離を置くだろうとし
  ている。             http://bit.ly/2nZ5oEw
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中国幹部と北朝鮮幹部の親密さの差.jpg
中国幹部と北朝鮮幹部の親密さの差
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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