2017年04月04日

●「マレーシアが中国に接近した理由」(EJ第4493号)

 北朝鮮は、マレーシアをどのように説得したのでしょうか。確
かに北朝鮮とマレーシアは友好国ですが、マレーシアとしては、
これだけの大事件を衆人環視の前で起され、世界的な話題になっ
ているのに、このような曖昧なかたちでの幕引きが、普通ならで
きるはずがないのです。
 マレーシアは3月上旬までは北朝鮮籍者に対する入国ビザ(査
証)の免除停止など、北朝鮮に対し、国交断絶も辞さない強い姿
勢だったはずです。それが急転直下の合意です。北朝鮮とマレー
シアとのこの曖昧な合意について、4月1日付の日本経済新聞は
次のように報道しています。
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 30日の両国の合意は、ビザ免除の再導入に向けた討議の実施
が含まれるなど「円満解決」をにおわせる内容だった。ナジブ首
相やアニファ外相も合意発表以降、遺体が「正男氏」だとの名言
を避け、「VXで殺害されたのは金正男氏」とのこれまでの主張
を封じた。     ──2017年4月1日付、日本経済新聞
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 これはマレーシアとしてはこれは大変な譲歩です。下手をする
と、マレーシアはテロを容認する国家との汚名を着せられ兼ねな
いからです。相当大きな力が働かないと、こうはならないと思い
ます。そこに中国の影を見るのです。
 ここで検証してみるべきは、マレーシアと中国の関係と、北朝
鮮と中国の関係です。今回は、マレーシアと中国の関係について
考えてみます。
 マレーシアは2018年に総選挙が予定されていますが、ナジ
ブ政権は、大きな政治的な問題を抱えていて、元首相マハティー
ル氏率いる野党の猛烈な攻勢を受けているのです。ナジブ首相自
らの不正資金疑惑と「マレーシアのイメルダ夫人」といわれるロ
スマ・マンソール首相夫人の無駄使いです。
 これについて、ジャーナリストの大塚智彦氏は、次のように書
いています。
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 国営投資会社ワン・マレーシア開発(1MDB)に関連した不
正資金流用問題や治安維持で首相に強大な特権を与える「国家安
全保障会議(NSC)法」制定、仇敵となったマハティール元首
相による「ナジブ打倒」を掲げる新党結成などで人気と支持に陰
りのでてきたナジブ首相に、追い打ちをかけるようにロスマ夫人
の疑惑やスキャンダルが次々と浮上しているのだ。
 夫人の立場でありながら政治に口出ししたり、不動産購入や宝
飾品収集といった贅沢三昧の私生活などが暴かれ、その「マイナ
スイメージ」には夫のナジブ首相も口をさしはさめない状態のよ
うで、内外から「マレーシアのイメルダ」と不名誉な異名を与え
られている。「イメルダ」は言わずと知れたフィリピンの独裁的
指導者だった故マルコス大統領の夫人で、贅沢三昧な生活ぶりが
暴露されたあのイメルダ・マルコス夫人である。
                   http://bit.ly/2nppOVT
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 ナジブ首相の疑惑とは、自らが代表を務めていた国営投資会社
「ワン・マレーシア/1MDB」から、ナジブ首相の個人口座に
約800億円の振り込みがあったとするものです。
 ナジブ首相のこの不正資金流用疑惑に関連して、米司法当局が
米国内のナジブ首相の資産を差し押さえる民事訴訟を起こしたこ
とから、ナジブ政権はかつての米国寄りの姿勢を改め、中国に接
近しようとします。
 そういう事情からナジブ首相は、2016年10月31日から
中国を訪問したのです。中国にとってマレーシアは、戦略上きわ
めて重要な国です。それは南シナ海問題です。この問題では20
16年7月12日にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が下した「中
国の領有権主張に法的根拠はない」とする裁定があり、中国とし
てはこの裁定を無視し、関係国の2国間協議での解決策を模索し
ています。マレーシアとも互いに領有権が重複する環礁があるの
です。このように、中国とマレーシアは、政治的に解決しなけれ
ばならない問題を抱えているのです。
 2016年10月から11月にかけてナジブ首相は中国を訪問
し、まず、李克強首相と会談、大型の経済援助を引き出していま
す。マレー半島横断鉄道建設計画への中国の参加、カリマンタン
島サラワク州での鉄鋼プラント開発での協力など、14項目で合
意し、調印。その総額は3兆6千億円に上るのです。
 また、中国からマレーシア海域で哨戒任務に当たる高速哨戒艇
を4隻購入することでも合意しています。このようにマレーシア
が軍事分野で大型装備品を中国から購入することは初めてのケー
スであり、軍事面でも関係緊密化を図ろうとしています。
 ジャーナリストの大塚智彦氏は、このマレーシアの露骨な中国
寄りの姿勢は、どこかフィリピンのドゥテルテ大統領の外交姿勢
と共通するところがあるといっています。
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 ナジブ首相は哨戒艇購入合意に関連して中国メディアに対し、
「自分たちより小さい国を公平に扱うことは大国の義務である。
かつての(マレーシアの)宗主国を含む他の国に内政について説
教される筋合いはない」と述べ、マレーシアを植民地にしていた
英国などを念頭に厳しく批判した。こうした言いぶりも、どこか
ドゥテルテ大統領の米国に対する数々の暴言を彷彿とさせる。
                   http://bit.ly/2npqMBL
─────────────────────────────
 マレーシアと中国とはこのような関係です。それも高度な政治
決断などではなく、自らの政治資金疑惑や夫人の不祥事を覆い隠
して来年の選挙に勝利するためにやったことです。中国とこのよ
うな関係にあるマレーシアが、金正男殺害事件で協力を求められ
たら、絶対に断ることはできないと思います。それが急転直下の
解決になったのです。   ──[米中戦争の可能性/063]

≪画像および関連情報≫
 ●マハティールと仇敵が目指す政権打倒
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   2016年9月5日、マレーシアの首都クアラルンプール
  にある高等裁判所は異様な雰囲気に包まれていた。この日は
  ナジブ・ラザク政権下で8月1日から施行された「国家安全
  保障会議(NSC)法」に対して、アンワル・イブラヒム元
  副首相が違法性を訴えた裁判の口頭弁論が開かれる予定だっ
  た。その裁判所に予告なしに突然マハティール・モハマド元
  首相が現れたのだ。
   2003年までの22年間、マレーシアの首相を務めたマ
  ハティールは同国を代表する政治家。一方のアンワルはマハ
  ティール政権で副首相を務め、最有力の後継者と目されなが
  らも、1998年にマハティールから突然解任され、同性愛
  や職権乱用の容疑で追及を受けるなどマハティールによって
  政界の第一線から葬り去られた人物。言ってみればこの2人
  は「蜜月から仇敵」と極端に変質した関係を18年間続けて
  きた関係なのだ。その2人が裁判所の一室で約30分間、密
  談。関係者によると二人は笑顔で握手を交わし「18年に渡
  る怨念を消去させた」ように真剣に話し合ったという。
   アンワルはマハティールから切り捨てられて以降は野党連
  合・人民連合の指導者となりながら一定の政治力を維持。2
  015年2月に同性愛罪で最高裁の有罪が確定、禁固5年で
  服役中の身だが、獄中でも反政府運動の指導者として人気は
  高く、妻のワンアジザさんは野党「人民正義党(PKR)」
  の党首を務め、長女のヌルル・イザー・アンワルさんもPK
  R副党首で下院議員として活躍している。
                   http://bit.ly/2cXDHa8
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アンワルとマハティール.jpg
アンワルとマハティール

posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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