西洋条約機構(NATO)のセルビア空襲に投入された米軍ステ
ルス戦闘機F−117ナイトホーク1機がセルビアの防空ミサイ
ルに当たって、撃墜されています。操縦士は無事脱出したものの
ステルスの残骸はセルビアの農耕地に散らばったのです。
このとき、真っ先に動いたのは中国人のスパイです。セルビア
の農民や一般市民の家を丹念に訪ね歩き、かなりの金額と引き換
えにその残骸を買い取り、それを中国本土に持ち帰ったのです。
こういうとき中国は素早く動くのです。
中国の本土に送られた残骸は、エンジニアによって組み立てら
れ、米国のステルス技術の多くが中国の手に渡っています。しか
し、ステルス機一台を分解しても、第5世代戦闘機のすべての技
術を獲得できるわけではないのです。それでは、他の技術はどの
ようにして獲得したのでしょうか。これについて、ピーター・ナ
ヴァロ氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
新旧のスパイ技術を駆使して、中国はこれまで、研究・開発に
何兆ドルもの税金が注ぎ込まれているアメリカの機密情報や知的
財産を盗み出してきた。アメリカヘのさらなる打撃として、中国
はこのようなスパイ行為の成果を兵器製造に利用している。こう
したコピー兵器の中には、やがて本家本元を越える性能を獲得す
るものもあるかもしれない。
──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
要するに最新鋭の兵器を自ら開発しようとせず、既に他国──
主に米国──の優れた兵器についての重要情報を、ハッキングに
よって盗み出すのです。そのため、強力なサイバー部隊を育てて
います。このサイバー部隊についての詳細は改めて取り上げます
が、そのハッキング技術はきわめて高度です。
しかし、そのようにして技術を盗み出したとされる「成都J−
20」の性能について、米空軍制服組トップは、J−20は30
年前に米国が同盟国と共同開発した初期型ステルス戦闘機程度の
性能しかないと表明しています。
─────────────────────────────
ゴールドフェイン参謀総長は、「J−20とF−35の比較は
ほとんど無意味」とし、自身が第一世代のステルス戦闘機のパイ
ロットであった経験から、J−20は第一世代であるF−117
との比較が適当との見方を示した。つまり、30年前の米国のス
テルス戦闘機の能力であることを明かした。
米軍の「F−117」は1990年代に実戦して2008年に
退役した。中国軍によると、最新機「J−20」は2018年に
兵役する。
香港のアジア時報も2016年2月23日、軍事専門家の話と
して、中国の「J−20」「J−35」と米国の「F−22」と
「F−35」には大きな差があると伝えた。それによると、「中
国機は強力なエンジンを搭載していないため、ステルス戦闘機の
『超音速の巡航能力」を発揮できない』という。著名な航空専門
家のリチャード・アボラフィア氏は、第五世代ステルス戦闘機に
備えるべき10の特徴のうち、中国の「J−20」は2つしかな
いと指摘している。 http://bit.ly/2lGj6dw
─────────────────────────────
やはり、原因はエンジンにあります。中国は自ら強力なエンジ
ンが作れないのです。リエンジニアリング技術がまだ十分でない
ことをあらわしています。しかし、そうであるからといって、ゴ
ールドフェイン参謀総長のいうように、J−20が第一世代の能
力しかないかというと、そうではないのです。
それは、台湾空軍が発行する『空軍学術』の2013年2月号
に掲載されているJ−20に関する論文(論文には殲20と表記
されている)を読むとわかります。この論文は、昨日のEJの巻
末で紹介しています。したがって、詳細は興味があればそちらを
参照していただくとし、ここではもっとも重要な部分を取り上げ
ることにします。
─────────────────────────────
電波を反射する面積でステルス性を計算するRCS値はF22
が0・1平方メートルなのに対し、殲20は0・1〜0・5平方
メートルの間で、同じくステルス戦闘機のF35とほぼ等しいと
推測している。 http://bit.ly/2mouZsH
─────────────────────────────
RCS値は「Radar cross section」 の略語で、電波に対し、
どれほどのステルス性があるかをあらわす値です。航空自衛隊が
運用するF15のRCS値は10〜15平方メートル。このため
J−20は、F15などの第4世代戦闘機よりもステルス性に優
れており、敵地などへの先制攻撃を行う際に「絶対的な優勢を備
えている」といえます。中国人民解放軍は、それが盗んだものと
はいえ、ちゃんとステルス性を再現できているのです。
問題はエンジンです。強力なエンジンは、戦場で優位な位置を
確保し、ミサイル発射後に直ちに空域を離脱するために必要な超
音速巡航については達成されていないのです。論文には次の記述
があります。
─────────────────────────────
F22が推力16トンで音速1・5超の超音速巡航を実現した
のに対し、殲20のエンジンは中国が生産するWS10Aでもロ
シアから購入したAL31でも12トン前後。このため、ロシア
から高性能の117Sエンジンを導入するか、国産のWS15の
開発を成功させる必要がある。 http://bit.ly/2mouZsH
─────────────────────────────
このように、戦闘機というハードウェアに関しては、中国はか
なり米国に接近しているとはいえます。
──[米中戦争の可能性/046]
≪画像および関連情報≫
●中国側は、日本のサイバー戦能力を過大視
───────────────────────────
米国などが「サイバー攻撃の発信源」とみている中国。そ
の中国の側から海外のサイバー事情を見た場合、日本はどの
ように映っているのだろうか。中国共産党の機関紙「人民日
報」のインターネット版「人民網」の日本語サイトに、「こ
んなおもしろいリポートが載っている」と情報セキュリティ
会社大手「LAC」(東京)の特別研究員、伊東寛さんに教
えてもらった。伊東さんは陸上自衛隊が2005年に立ち上
げたサイバー部隊「システム防護隊」の初代の元隊長(1等
陸佐)でもある。(聞き手・谷田邦一)
「日本など各国の『サイバー戦』軍備」と題するリポート
の著者は、人民解放軍軍事科学院の研究員。日本の防衛省の
シンクタンク・防衛研究所にあたる機関の研究レポートのよ
うな位置づけになる。それによると、自衛隊のサイバー能力
を「攻守兼備」と見越し、「多額の経費を投入し、ハードウ
ェアおよびサイバー戦部隊を建設している」と分析。このあ
たりまでは「なるほど」とうなずける。
ところが、それに続き「5000人からなる『サイバー空
間防衛隊』を設立、開発されたサイバー戦の『武器』と『防
御システム』は、すでに比較的高い実力を有している・」と
いう記述になると、かなり誇大視されているのではと思えて
しまう。防衛省が自前のネットワーク防護のために立ち上げ
た3自衛隊統合の「指揮通信システム隊」は、約160人。
同システム隊に組み込まれる部隊で、来年度予算で要求して
いる「サイバー空間防衛隊(仮称)」の要員も100人に満
たない規模のとどまる見込みだ。 http://bit.ly/2mCNLgq
───────────────────────────
F−35/第五世代戦闘機