高の投手の名前です。サチェル・ペイジは1930年にメジャー
リーグ選抜との交流戦で、22奪三振完封記録を持っている黒人
投手のことです。
ピーター・ナヴァロ氏は、米国と中国の軍事力について語ると
き、サチェル・ペイジの次の名言を思い出すといっています。
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後ろを振り返るな。誰かが追いついてきているかもしれない
──サチェル・ペイジ
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マラソンなどで、大きく差をつけていると信じてトップを走っ
てきたが、もし振り返ると競争相手がすぐ自分の後ろにいたとい
う“恐怖”を現在の米国防当局がいつも感じているということを
ピーター・ナヴァロ氏はいいたいのでしょう。いわゆる“中国の
脅威”です。
「量の中国/質の米国」という言葉がよく使われますが、ピー
ター・ナヴァロ氏は、これに関して次の問題を提示しています。
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【問題】次の記述のうち、中国とアメリカの軍事バランス及び、
通常戦争が起きた場合に予想される勝敗を最も的確に表現してい
るものを選べ。
「1」技術的に優るアメリカ軍が中国軍をしのいでいる。よっ
て、戦争になれば今ならアメリカが勝つ。
「2」中国は、急速にアメリカとの技術的な差を縮めている。
よって、長期的には勝敗の予想は次第に困難になる。
「3」中国の経済成長がアメリカを上回り続ければ、中国はア
メリカよりも遥かに大量の兵器を製造するようになり、
いつかは、アメリカが技術的優位を保っていたとしても
中国はそれを量で凌駕するようになる。
「4」地域紛争であれば、中国はアメリカを上回る軍事力を持
たなくても勝つことができる。
「5」1〜4のすべて
──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
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この問題の答えは「5」です。しかし、ピーター・ナヴァロ氏
が本気でそのように考えているとは思えないのです。中国の脅威
を強調するために、あえてそのようにいっているのではないかと
も考えられるのです。
中国に「屈辱の100年間」があるように、米国にも「屈辱の
1日」があります。「屈辱の1日」とは、第2次世界大戦冒頭に
おいて、大日本帝国にハワイ上空の制空権を奪われ、真珠湾がほ
とんど壊滅状態に陥った日のことです。
その「屈辱の1日」以来、米国がつねにとってきている基本軍
事戦略は、まず空から邪魔者を取り除き、敵の作戦空域を最新の
制空戦闘機で支配するという戦略です。その制空戦闘機の最高峰
ともいえる戦闘機が、F−22やF−35によって代表される第
五世代戦闘機群です。
ここで「第五世代戦闘機」とは、どのような戦闘機を指してい
う言葉なのでしょうか。
「第五世代戦闘機」の定義について、軍事評論家の兵頭二十八
氏は、次のように述べています。
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米空軍はF−22をもって、「第五世代」戦闘機と呼ぶ。その
「第五世代」の定義は、「ステルス」(敵のレーダーや光学セン
サーで探知され難い)、「アフターバーナーなしの超音速巡航」
(ふつう、エンジンの最終段へ燃料を噴射すればロケットのよう
に加速して音速を出せるが、そのような燃料の無駄遣いをしなく
とも、マッハ1以上で飛べる)、「超長射程の空対空戦闘能力」
(70キロ以上の射程があるミサイルを運用できる)、「ドッグ
ファイト時の驚異的機動性」(敵戦闘機との近接格闘戦になった
とき、後ろをとられない)の四要件を満たすことだという。
──兵頭二十八著
『こんなに弱い中国人民解放軍』/講談社+α新書
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しかし、F−22はいくつか不安要素もあるのです。ひとつは
保有台数が少ないということです。F−22は1997年に初飛
行し、2005年12月から190機近くが米空軍に配置されて
います。しかし、その後、景気の低迷、財政赤字増大を理由に議
会はそれ以上の製造を中止しています。これは、経済力の悪化が
軍事力展開能力に悪影響を及ぼしつつある典型例といえます。そ
ういう意味において、トランプ大統領による史上最大規模の軍事
費の拡大は、同盟国にとってはプラスの材料であるといえます。
これに対して中国は、米国のF−22とF−35の要素を併せ
持つ多用途戦闘機である「成都J−20(マイティドラゴン)」
と、それに加えて、空母の艦載機と思われる「成都J−31」を
発表しています。
このうち、J−20は2011年に一般公開されたのですが、
そのタイミングが極めて挑戦的であったのです。というのは、そ
のとき、ロバート・ゲイツ米国防長官(当時)が中国との関係修
復のために訪中し、胡錦濤国家主席と会見する数時間前だったの
です。真偽のほどは不明ですが、胡錦濤主席は、どうやらこの公
開を知らなかったようです。ゲイツ長官によると、胡錦濤主席は
「単なる偶然一致」と釈明したそうです。いずれにしても、きわ
めてバツの悪い会見になったことは確かです。
しかし、中国の戦闘機の実力については、本当に額面通りなの
かについては一切わかっていないのです。それと問題なのは、第
五世代戦闘機の技術を中国はどのようにして取得したのかです。
これについては、明日のEJで説明することにします。
──[米中戦争の可能性/045]
≪画像および関連情報≫
●初の展示飛行わずか1分/「殲(J)20」の実力を探る
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中国広東省珠海市で2011年11月、2年に1度の「中
国国際航空宇宙ショー」が開かれ、中国空軍の次世代ステル
ス戦闘機「殲(J)20」が初めて一般公開された。だが、
その公開方法は、開幕式典で2機が1分に満たないわずかな
時間、上空を飛行しただけ。2011年にその存在が明らか
にされて以降、注目を集め続ける殲20だが、その実力はな
おベールに包まれている。台湾空軍の論文などから、殲20
の能力を探る。(台北 田中靖人)
カナダに本部を置く軍事情報誌「漢和ディフェンス・レビ
ュー」の12月号の記事は、珠海での展示飛行について、飛
行性能の高さを示すような動きはなく、「生気がない」と酷
評。殲20は、欧米の第5世代戦闘機の「根本的な標準(装
備)」である推力偏向エンジンを備えておらず、エンジンに
問題があるとの見方を示した。
軍事産業情報会社「シェファード」が珠海発でサイトに掲
載した記事によると、殲20は、試作を終え低率初期生産段
階に入っている。「XX0011」と書かれた殲20の目撃
情報があることから、すでに11機が生産されている可能性
があり、2017〜18年に実戦配備を意味する「初期運用
能力」(IOC)を取得するとの見通しを紹介。実現すれば
戦闘機の開発としては短期間だとしている。
http://bit.ly/2m27x1O
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成都J−20(マイティドラゴン)