ために関連する書籍を何冊も読んでいます。その結果、気づいた
ことがあります。それは、同じことを書いていても、本によって
ニュアンスが異なるというか、人民解放軍の威力や脅威の印象が
大きく異なるように感ずることです。
トランプ政権の国家通商会議議長に就任予定であるピーター・
ナヴァロ氏の『米中もし戦わば/戦争の地政学』(文藝春秋)を
メインに読んでいますが、ナヴァロ氏は中国人民解放軍の戦力の
脅威を強調するために、その戦力をいささか過大に表現している
ところがあります。
本書の第9章「地下の万里の長城」では、中国は、3000発
の核弾頭を地下に隠し持っていることが書かれていますが、これ
に対して京都大学教授の中西寛氏は、日本経済新聞の書評で次の
ように疑問を呈しています。
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言うまでもなく中国の軍事力については、不明部分が多く、分
析に幅がある。その幅の中で本書は脅威を最大限に見積もる立場
に立つ。例えば、中国の核弾頭数について米政府の見解を紹介し
つつ、3000発を地下に貯蔵しているという説を大きく採り上
げているが、この説は大半のアナリストに否定されている。ある
いは第5世代戦闘機のJ−31型機を空母艦載機と推測している
が、性能が悪い輸出用とするする見解も強い。
──中西寛京都大学教授
2017年1月15日付、日本経済新聞
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一方、ハーバード大学アジア・シニアフェロー、元陸上自衛隊
東部方面総監の渡部悦和氏の『米中戦争/そのとき日本は』(講
談社現代新書)では、あくまで客観的に事実をていねいに伝えて
います。例えば、中国空軍の保有する航空機について、次のよう
に書いています。
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中国空軍は、作戦機2020機を保有しているが、その大部分
は第3世代機(J−7やJ−8など)以前の古い作戦機である。
しかし、今や、第4世代の戦闘機が主力になっており、現在第4
代世代機731機を保有している。(中略)
第4世代機については、ロシアからSu−27(F−15に対
抗する優れた格闘性能や後続距離の長さを起こるロシアのベスト
セラー戦闘機)及びSu−30(Su−27を発展させた複座多
用途戦闘機)を購入する一方で、国産のJ−10をイスラエルに
協力してもらう形で開発・製造した。J−10は、2014年末
までに294機生産している。
中国の第4世代機の主力であるJ−11は、Su−27をライ
センス生産したもので105機保有している。さらにJ−11B
を170機保有しているが、これはSu−27SKをロシアの許
可なくコピーし改善したものであり、J−11の改善型だ。
──渡部悦和著
『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
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渡部悦和氏は、学者ですから当然ではありますが、事実に基づ
いて記述しています。しかし、結果として中国空軍の戦闘機の数
が強調されており、これを読む日本人は、中国空軍に脅威を感じ
てしまうと思います。しかし、渡部悦和氏の文章をていねいに読
むと、中国空軍の戦闘機はロシアから購入したもので、それをコ
ピーし、量産化したものであることがわかります。
一方、兵頭二十八氏という軍学者がいます。陸上自衛隊東部方
面隊に任期制2等陸士で入隊し、北部方面隊第2師団第2戦車連
隊本部管理中隊に配属した経験を持つ著述家で、中国人民解放軍
について詳しく、それに関係するベストセラーがあります。
要するに、空軍に関しては、ロシア空軍と米国空軍の戦いなの
です。少し古い話ですが、1982年にレバノン領内のシリア軍
を駆逐するため、ベカー高原で、イスラエル空軍とシリア空軍と
の大規模な空戦があったのです。
この空戦は、米国製F−15戦闘機のイスラエル空軍と、ソ連
製戦闘機(ミグ21、23、スホイ22)のシリア空軍との戦い
だったのです。結果はどうだったかというと、40機のイスラエ
ル空軍機が、最初の数日間で一方的にシリア空軍機を80機以上
を撃破したのに対し、イスラエル空軍機の損失は、高射火器で落
とされた2機だけであったといいます。つまり、空戦では、全勝
だったのです。兵頭二十八氏は、この事実を指摘したうえで、次
のように述べています。
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基本的にロシア製の兵器体系を採用し、しかもロシア軍のよう
に改良・改善を真剣に行っていない現代中共産軍(人民解放軍)
は、もし実戦上で西側軍と正面衝突することになれば、稀な僥倖
的戦果を除いて良いところなく破れる運命にある・・・というこ
とだ。なにしろ本家のロシア製ですら勝ち目が薄いのに、中共軍
が使っているのはその「劣化コピー版」なのだから。
──兵頭二十八著
『こんなに弱い中国人民解放軍』/講談社+α新書
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兵頭氏は、そもそも米国の戦闘機とロシアの戦闘機には既に大
きな差があり、中国空軍が大量に保有しているのは、そのロシア
戦闘機の劣化コピーなのであって、米軍機にはまったく歯が立た
ない「張り子の虎である」といっているのです。
中国空軍の戦闘機については、改めてEJでも取り上げますが
数を保有していても、それは必ずしも脅威ではないのです。この
ように、米中の戦力比較については、いろいろな本を読まないと
本当のことはわからないのです。以後はそういう観点に立って、
このテーマを追求していきます。
──[米中戦争の可能性/042]
≪画像および関連情報≫
●中国軍は張り子の虎/兵士も装備も二流/兵頭二十八氏
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とても興味深い本を読んでいる。軍事評論家の兵頭二十八
氏の「こんなに弱い中国人民解放軍」という本である。通常
日本人は私を含めて軍事技術を正確に理解することはほとん
どない。だから最近の中国の軍事費の増額を見て「人民解放
軍はとてつもなく強いのではなかろうか」との気持ちになっ
てしまう。
新聞などを見ていても経済に関する情報は満ち溢れている
が、軍事技術を解説したような記事は湾岸戦争のような戦闘
が起こらない限り目に触れることはない。だから中国の軍隊
を正確に評価できないし、また、自衛隊の実力も評価できな
い。「もしかしたら自衛隊は中国軍にかなわないのではなか
ろうか・・・」漠然とした不安感がよぎる。
私がかろうじて知っている中国人民解放軍の実態は、ポス
トは実力でなくワイロで決まるということで、出世したけれ
ば上司に付け届け(ワイロ)を送りその多寡で決まるというも
のだ。だから人民解放軍は上位の地位になればなるほど軍事
知識はなく、一方商行為的には有能(軍事費をちょろまかし
て懐にいれ、それをワイロの原資にする)な人物が配されて
いる。だから実際の戦闘が始まれば無能な上司が指揮をとる
のでこれは非常に混乱することだけは確かだ。しかしそれで
も近代的な航空機や艦船をそろえれば日本は苦戦するのでは
なかろうかと思ってしまう。 http://bit.ly/2l3O3wK
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F−15戦闘機