いわゆる「距離の過酷さ」の有力な解決手段であるアジアの米軍
基地の脆弱性について、ピーター・ナヴァロ氏は次の問題を読者
に出題しています。
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【問題】中国の攻撃に対して、アジアのアメリカ軍基地及び空母
戦闘群はどの程度脆弱かを選べ。
「1」まったく脆弱ではない
「2」幾分脆弱
「3」きわめて脆弱
──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
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この問題に対するピーター・ナヴァロ氏の正解は「3」の「き
わめて脆弱」なのです。
現在のところ、第2列島線上のグアムの米軍基地は、中国の通
常型精密攻撃システムの射程外にあります。しかし、中国はグア
ムも射程に収める新兵器の開発に余念がない状況であり、やがて
グアムもその射程に入る可能性は十分あります。
現在、アジアにおける米国の主要な軍事基地というと、日本と
韓国に次の基地があります。日本本土の佐世保および横須賀海軍
基地、横田空軍基地、沖縄の嘉手納空軍基地とトリイステーショ
ン陸軍基地があります。それに、韓国の烏山(オサン)空軍基地
と大邸(テグ)陸軍基地です。
中国には、「空母キラー」と呼ばれる弾道ミサイルDF21D
や極超音速滑空飛翔体WU−14ミサイルがあると紹介しました
が、その命中精度などは、あくまで中国の一方的な発表であり、
真偽のほどは不明です。
実際問題として、移動する目的物に命中させるのは極めて困難
なことであり、まだ成功していないのです。かつて米軍は極めて
命中精度の高い「パーシングU」という弾道ミサイルを保有して
いましたが、そのミサイルでも平均誤差が30メートルもあった
のです。中国のミサイルの精度が、現時点でそれを超えているこ
とはあり得ないのです。ピーター・ナヴァロ氏の予測は、そうい
う実態を知りながらも、いずれ完成する可能性はあるという観点
に立って事態を現実よりも深刻に捉えているようです。
ちなみに、この米軍の「パーシングU」ミサイルは、1987
年の米ソ間の「中距離核戦力全廃条約」の取り決めですべて解体
され、現在では、一応条約の取り決め上、作れなくなっているの
です。米ソ冷戦の終結によって、米国はもはや核戦争の恐れなし
と考えたのでしょう。しかし、それは甘かったようです。
これに対して軍事基地というのは、固定されていて移動しない
ターゲットです。したがって、中国のミサイルによって、繰り返
し攻撃されると大きなダメージを受けます。中国のミサイルは、
その命中精度よりも、繰り返し攻撃の方が、防御することが困難
になります。
アメリカの海軍大学校のトシ・ヨシハラ教授は、軍事基地の脆
弱性について、次のように述べています。
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基地の多くはグーグルアースではっきり見ることができる。基
地は、上空から丸見えの、固定されたソフトターゲットだ。だか
ら、中国軍は座標を打ち込んでミサイルを一斉に発射すれば、ア
メリカ軍の弾薬庫や燃料タンクやその他の兵站支援施設を一気に
破壊することができる。そうなれば当然、第1列島線上のアメリ
カ軍の作戦継続能カは著しく弱体化する。
──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
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これら米軍事基地の脆弱性に対して、米国はどのように対応す
るべきでしょうか。現時点で意見が一致しているのは、次の3つ
の対策です。
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1.既存軍事基地を強化する戦略
2.軍事基地の提供国内の分散化
3.非対称武器による軍備再編化
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第1は「既存軍事基地を強化する戦略」です。
米軍基地は、軍事資産──燃料タンクや兵器などを野ざらしに
しておく傾向があります。これではミサイルの攻撃を受けると兵
站のすべてを失う恐れがあります。なぜ、そんなに無防備かとい
うと、米軍はこれまで圧倒的に強力なので、他国から徹底的に基
地に攻め込まれた経験がないからです。
そこで、基地の燃料タンクや兵器庫を地下の深部に置き、膨大
な量のコンクリートと鉄筋で基地を固め、要塞化することです。
ミサイルの一撃を食っても大丈夫なようにガードするのです。
第2は「軍事基地の提供国内の分散化」です。
米軍の駐留を受け入れている国、例えば日本国内で基地を分散
化することです。そうすれば、中国はマトが絞れなくなり、攻撃
しにくくなります。日本はまだ対中戦争の危機を肌で感じていな
いので、当初は反対するでしょうが、危機を認識すれば、絶対に
できない問題ではないと思います。そうすれば、沖縄の負担の軽
減にもつながるのです。
第3は「非対称武器による軍備再編化」です。
中国からのミサイルの標的にならないように、これまでの空母
戦闘群の主力艦重視を改め、非対象戦争を中国に仕掛けるために
空母艦隊を縮小し、機雷や攻撃型潜水艦を中心とする軍備再編戦
略を展開します。そして中国の最も嫌がる海上のチョークポイン
トがすぐに封鎖できる体制を作るのです。この場合、とくに攻撃
型潜水艦が重要になります。といっても空母戦闘群が不要になる
ということではなく、今までとは違う役割をさせるのです。
──[米中戦争の可能性/038]
≪画像および関連情報≫
●米海軍が主張/空母の重要性は不変
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米海軍の空母や空母航空戦力は、精密誘導兵器の発達によ
り、今後ますます脆弱になると指摘され、さらに、次期空母
フォード級の価格が従来の2倍(約1兆6千億円)に跳ね上
がっていることから、米議会や専門家等から将来性について
疑問や批判を受けています。
具体的に米議会は、米海軍に対し「空母の価格低減策」や
「空母の代替」の検討を命じ、米海軍は1年を掛け「嫌々な
がら」検討を進めていますす。
そんな中、2015年8月11日、米海軍の航空戦力軍司
令官であるマイク・シューメイカー海軍中将が、空母及び搭
載航空機が提供する戦力は、現在も将来も柔軟性のある戦力
オプションとして、重要であり続けるとの文書を発表しまし
た。また翌12日には、CSISと米海軍協会が主催の「海
軍航空戦力」のパネル討論会に登場し、上記文書の主張を発
信しています。
11日付シューメイカー海軍中将の文書によれば、今日、
米国の安全保障環境は、今まで以上に、空母戦闘群を求めて
いる。空母戦闘群は、多様な脅威や自然災害にまで迅速に対
応し、国家指導者にオプションやプレゼンスやアクセスを提
供している。 http://bit.ly/2lC9GBb
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ニミッツ級米航空母艦