2017年02月24日

●「軍事作戦上における距離の重要性」(EJ第4467号)

 中国人民解放軍の「接近阻止/領域拒否」(A2/AD)戦略
の前提というべきものが「第1列島線」と「第2列島線」です。
この定義は、米国防省と中国でその解釈は異なるのです。
─────────────────────────────
 ≪米国防省定義≫
 ・第1列島線
  九州南部から南西諸島、台湾、フィリピン、大スンダ列島
  を結ぶ線である。
 ・第2列島線
  伊豆諸島、小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニュー
  ギニアに至る線である。
 ≪中国の定義≫
 ・第1列島線
  カムチャッカ半島、千島列島、日本列島、南西諸島、台湾
  フィリピン、大スンダ列島を結ぶ線である。
 ・第2列島線
  カムチャッカ半島、千島列島、日本列島の一部、伊豆諸島
  小笠原諸島、グアム・サイパン、パプアニューギニアに至
  る線である
                     ──渡部悦和著
   『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
─────────────────────────────
 ハーバード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部悦和氏
は、日本としては2つの定義では、日本列島が含まれていること
から、「中国の定義」をベースにものごとを考えるべきであると
主張します。中国の定義による第1列島線/第2列島線は、添付
ファイルを参照してください。
 中国は第1列島線内を「近海」、第1列島線外を「遠海」と呼
んでいます。当初中国は「近海防御戦略」を策定していたのです
が、1985年に劉華清海軍司令はそれを見直し、空母3隻体制
の導入により、中国本土から離れた場所で敵を迎撃する「積極防
御戦略」を採用することになります。
 この「積極防衛」という言葉は、あまりにも一方的に中国サイ
ドに立ったものの見方です。南シナ海のある国々を自国領化する
ことは、中国にとって米国をはじめとする強大国から自国を守る
「積極的防衛」であっても、その国には「侵略」なのです。国際
法を無視して南シナ海の人工島を埋め立て、軍事基地化すること
も中国にとっては「積極的防衛」の一環であるというのです。
 戦略・国際研究センターのシニアアドバイザーであるボニー・
グレーザー氏は、中国について次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国は他国の身になって考えないから、中国という国とその行
動を他国がどう見ているかを理解しない。これこそ、中国が抱え
ている問題だと思う。私が中国をよく自閉症国家と呼ぶのはその
ためだ。自分の行動が近隣諸国をどれほど恐がらせているか、中
国には理解できないように思われる。
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 軍事において「距離の過酷さ」という言葉があります。元来こ
の言葉は、オーストラリアの歴史家、ジェフリー・ブレイニー氏
の著書に出てくるのです。
─────────────────────────────
            ジェフリー・ブレイニー著
    『距離の暴虐』/The Tyranny of Distance
─────────────────────────────
 この本は、現在のオーストラリアはどのようにして形成された
かについて書かれているのですが、オーストラリアの歴史や独自
性は、欧州からの地理的な遠さと密接に関係があるということを
主張しています。それを米海軍大学のジェームズ・ホームズ教授
が軍事作戦上の「距離の過酷さ」と表現して使ったのです。
 確かにそれはいえることです。ハワイから台湾までは8270
キロメートル、南沙諸島までは9190キロメートルあります。
しかし、グアムの米軍基地から台湾までは2740キロメートル
南沙諸島までは3080キロメートルであり、B−1、B−2爆
撃機での攻撃が可能になります。まして、在日米軍基地やフィリ
ピンの米軍基地は対中国の米軍の前方展開基地であり、これは中
国にとって大きな脅威になります。
 既出の渡部悦和氏は、軍事上の「脅威」を自著で次の式であら
わしています。
─────────────────────────────
      「脅威」=「能力」×「意思」÷距離
          ──渡部悦和著の前掲書より
─────────────────────────────
 ここで「能力」とは他国を侵略できる能力であり、「意思」は
他国を侵略する意思のことです。現在の中国は、そのどちらも有
していると考えられます。多くの軍事の専門家は、その積を「脅
威」としています。確かに日本は、中国の脅威をモロに受けてい
るといえます。
 しかし、渡部悦和氏は対象国の間の距離を変数として挿入すべ
きであると主張しています。この場合、「能力」と「意思」が同
じ場合、中国から受ける「脅威」は、中国に隣接する日本と、中
国からはるかに距離的に遠い米国では異なるのです。距離が近く
なればなるほど脅威は高くなり、距離が遠くなればなるほど「脅
威」は低くなるのです。
 冷戦時に米軍は、距離を克服するため、前方展開戦略をとって
きたのです。欧州には主として西ドイツに、アジアでは日本と韓
国に前方展開のための基地を確保してきたのですが、冷戦終了後
は一部の基地は維持しているものの、全体としては米国は軍を大
きく引いています。    ──[米中戦争の可能性/037]

≪画像および関連情報≫
 ●東シナ海で日本版「A2AD」戦略、中国進出封じ込め
  ───────────────────────────
  [東京:2015年12月18日/ロイター]──中国が南
  シナ海の支配を強める中、南西方面に軸足を移す日本の防衛
  政策が、地域の軍事バランスにとって、重要性を増しつつあ
  る。中国本土から西太平洋への出口をふさぐように連なる南
  西諸島を軍事拠点化し、東シナ海に壁を築く日本の戦略は、
  中国軍の膨張を食い止めたい米国の思惑とも合致する。
   南西諸島に監視部隊やミサイルを置いて抑止力を高め、有
  事には戦闘機や潜水艦などと連携しながら相手の動きを封じ
  込める戦略を、日本政府は「海上優勢」、「航空優勢」と表
  現している。しかし、安全保障政策に携わる関係者は、米軍
  の活動を制限しようとする中国の軍事戦略「接近阻止・領域
  拒否(A2/AD)」の日本版だと説明する。
           ──関連コラム/http://bit.ly/2lrzhP1
                   http://bit.ly/2m9KHbD
  ───────────────────────────
 ●図出典/渡部悦和著の前掲書より

第1列島線/第2列島線.jpg
第1列島線/第2列島線
 
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック