阻止/領域拒否」戦略をとろうとしています。これについて、既
出のハーバード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部悦和
氏は次のように述べています。
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DF21Dなど中国の対艦弾道ミサイルは、米海軍にとって新
たな脅威となっているが、米軍は対抗手段の開発を進めている。
例えば、DF21Dは空母キラーとして有名になったが、メディ
アで言われるような、ミサイル1発で米空母を一撃できるという
万能の兵器ではない。DF21Dの脅威を誇張することにより、
米軍に心理的効果を与えている側面がある。DF21D以上に、
中国の対艦巡航ミサイルを搭載する潜水艦や、航空戦力の方が、
米軍の空母打撃部隊にとっては脅威となる。 ──渡部悦和著
『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
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DF21Dには、いろいろな問題点があります。仮に空母の位
置が特定できたとしても、発射から着弾まで空母は数キロメート
ル移動します。そのため、赤外線レーダーによる終末誘導が不可
欠になります。
しかし、DF21Dの再突入体が大気圏に再突入するときの速
度は秒速3〜4キロメートルになり、音速の10倍以上に達する
のです。そうなったときの再突入体の先端部分の温度は700度
を超えるのです。この高温では、赤外線センサーは機能しないの
で、終末誘導は不可能になります。中国は、この問題をまだ解決
できていないのです。
しかし、中国にこの対艦弾道ミサイルと対艦巡航ミサイルを同
時に発射されると、守ることが困難になります。なぜなら、イー
ジス艦の防空能力が弾道ミサイル防衛に奪われ、艦隊の防空能力
が低下するからです。この場合、弾道ミサイルの方は命中する可
能性は極めて低いものの、巡航ミサイルの命中精度はきわめて高
いので脅威です。もしかすると、DF21D開発の目的は、そこ
にあるのではないかともいわれているのです。
中国のミサイルの脅威について論ずるとき、どうしても、DF
21Dのような対艦弾道ミサイルの脅威を考えてしまうものです
が、むしろ巡航ミサイルの方が危険であると主張する軍事専門家
が多くなっています。
たとえば、アメリカ海軍大学校教授、ライル・ゴールドスタイ
ン氏は、東シナ海の日本の尖閣諸島の現状について、次のように
警告しています。
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たとえば東シナ海の戦略的均衡が兵器の種類によってどのよう
に変わるかを見てみると、日本の海上部隊は地上発射ミサイルの
深刻な脅威にさらされているように思われる。たとえば、中国沿
海部から発射される巡航ミサイルは尖閣諸島付近の海上保安庁の
船舶を射程内に収めているし、これをおそらく決定的に打ち負か
すこともできると思われる。したがって、巡航ミサイルの脅威は
非常に大きい。対艦弾道ミサイルにばかり気を取られていると、
巡航ミサイルの脅威から目を逸らすことになりかねない。
──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
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ピーター・ナヴァロ氏は、上記の問題に関連して、次の問題を
読者に尋ねています。
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【問題】保有している通常型(非核)ミサイルの種類と総数が最
も多い国を選べ。
「1」中国
「2」ロシア
「3」アメリカ
──ピーター・ナヴァロ著ノ前掲書より
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正解は「1」の中国なのです。中国は、おそらくミサイルの種
類と数では世界を圧倒していると考えられます。改革開放経済路
線で経済力のついた中国は、膨大な軍事費を投入して、米国に追
いつこうとしてきたのです。
しかし、力と力の対決では、中国は現在も、またこれから先も
米国に勝利することはできないと悟るのです。それは、過去の2
つの「戦い」を経験したからです。
1つは、第一次湾岸戦争の「砂漠の嵐」作戦であり、もう1つ
は、1996年、中国の侵略行為を阻止するために米軍の空母戦
闘群2群が台湾近海に向った第三次台湾海峡危機のことです。そ
のとき、米国軍の火力の凄さをまざまざと見せつけられ、もはや
マンパワーに頼る防衛の時代ではないことを中国は痛感させられ
たのです。そのときから、中国はミサイル保有数の増加とその性
能の向上に力を入れるようになったのです。これが、中国の誇る
「非対称兵器重視戦略」です。
この中国の非対称兵器重視戦略によるミサイル開発技術はさら
に高度化され、遂に防衛不能といわれるミサイルを生み出したの
です。それは次のミサイルです。
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極超音速滑空飛翔体/WU─14
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このミサイルは、1014年に最初の実験が行われていますが
この最高速度はマッハ10、音速の10倍(時速1万2000キ
ロ)に達するというのです。このミサイルが危険なのは、大気圏
突入後に機体を引き起こすことができ、ほぼ水平に近い角度で滑
空して目標に到達できる性能を持っていることです。そのため、
迎撃が非常に困難化するのです。この技術レベルは、明らかに米
国を上回っており、米軍は現在その対処に苦慮しているといわれ
ます。 ──[米中戦争の可能性/035]
≪画像および関連情報≫
●「米国が恐れる中共の極超音速滑空体」
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中共は、2016年10月19日、有人宇宙船「神舟11
号」と、無人宇宙実験室「天宮2号」のドッキングに成功し
た。「宇宙強国」を目指す中共は天宮2号で宇宙ステーショ
ン運営に向けた様々な実験を行い、2022年頃の完成を目
指す本格的な宇宙ステーションに繋げる計画だという。産経
新聞が「宇宙強国/中国の野望」(上・21日付、下・22
日付)と題した特集記事で伝えている。
この記事の中で特に注目したのは、中共が開発中の「極超
音速滑空体」についての以下の記述だ。
[2014年1月、中国上空を最高でマッハ10に達する
高速で飛行する物体が米軍に探知された。米国のほぼ全土を
射程に入れる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の技術を手に
した中国が、次世代の戦略兵器として開発を進める「極超音
速滑空飛翔体」だ。完成すれば、国際社会の戦略バランスを
大きく変える可能性が指摘されている。
極超音速滑空飛翔体は放物線を描いて落下するのではなく
超音速で、自由に運動しながら滑空し、高い命中精度を有す
る。米国の現在のミサイル防衛(MD)では撃墜が不可能と
される。中国による14年1月の実験成功後、米議会の諮問
機関である「米中経済安全保障調査委員会」は、中国が20
年までの開発を目指していると警告した](23日付)
http://bit.ly/2kLLKt7
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●画像出典/http://bit.ly/2lj6cU4
中国最新ミサイル/WU−14