2017年02月21日

●「DF21D索敵メカニズムを探る」(EJ第4464号)

 ピーター・ナヴァロ氏は、中国の対艦弾道ミサイル「東風21
D」は、米原子力空母にとって脅威であると述べています。しか
し、中国側からの公式な情報公開はなく、その性能についての詳
細はまだ不明です。そこでネットを中心にDF21Dについて、
できるだけ情報を集め、その構造や性能について検証してみるこ
とにします。
 DF21Dは「ASBM」とも呼ばれますが、これは次の英語
の頭文字をとったものです。
─────────────────────────────
     ASBM/Anti-Ship Ballistic Missile
                対艦弾道ミサイル
─────────────────────────────
 まず、ミサイルの本体ですが、その構造については、添付ファ
イルを見ていただきたいと思います。全長は12・3メートル、
直径1・4メートル、発射重量は15トンを超えます。温度、湿
度、汚れからミサイルを保護するため、キャニスターという円筒
形の密閉容器に収納されており、自走式発射機に搭載されるよう
になっています。最大射程は2000キロメートルです。
 DF21Dは、再突入体とロケットモーターで構成されます。
ロケットモーターは、固体推進剤を使用する2段式です。固体推
進剤は、事前に装填しておくことができ、即応性に優れ、長期間
の保管にも耐えることができます。発射台は、移動可能な車両に
なっており、どこからでも発射することができます。
 再突入体の先端部分は「レドーム」になっており、アクティブ
・レーダー・シーカー(探知機)を内蔵しています。レドームと
いうのは次の通りです。
─────────────────────────────
 Radome
 レーダーとドームを掛け合わせた造語であり、レーダーアン
 テナを保護するための覆いのことである。
─────────────────────────────
 レドームの後方は弾頭部分です。ここは単一弾頭、複数の子弾
頭の搭載も可能になっています。その後ろは誘導制御部分であり
INS(慣性航法装置)、GPS(全地球測位システム)、軌道
制御装置を内蔵しています。なお、外側には4枚の操舵翼が取り
付けられています。以上がDF21Dの基本構造です。
 問題は、どこにいるかわからない米空母をどのようにして捉え
るかです。これについては、中国は次の2つによって探知すると
しています。
─────────────────────────────
     1.宇宙に配備されている各種偵察衛星
     2.地上に配備しているOTHレーダー
─────────────────────────────
 「1」は、中国の地球観測衛星の「遥感シリーズ」が利用され
ていると思われます。遥感シリーズの衛星は、地球観測を目的と
するもので、科学的な試験や資源調査、農作物の管理といった用
途で活用されているとしているものの、軍事目的ではないかとい
う警戒の声も出ています。なお、遥感シリーズの衛星には次の3
つがあります。説明は省略します。
─────────────────────────────
      1.電子工学センサーを搭載するもの
      2.合成開口レーダーを搭載するもの
      3.編隊で飛行し、艦艇の電波を傍受
─────────────────────────────
 「2」のOTHレーダーとは何でしょうか。OTHレーダーと
は、超水平線レーダーのことで、非常に広い範囲から目的物を発
見できる性能を有しています。
 OTHレーダーについて、元陸上自衛隊東部方面総監で、ハー
バード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部悦和氏は次の
ように述べています。
─────────────────────────────
 OTHレーダーは、2007年に配備され、中国の海岸線から
2000キロメートルまでの目標を発見し、大まかな(精密では
ない)目標位置情報の把握が可能になった。(中略)中国による
OTHレーダーによるターゲティング(目標標準)は、現時点で
は開発途上だが、明らかにこの分野に重点的な投資を行っており
将来的には警戒が必要である。        ──渡部悦和著
    『米中戦争そのとき日本は』/講談社現代新書2400
─────────────────────────────
 DF21Dがどのように発射され、艦艇を攻撃するのについて
検証します。DF21Dは、発射指令を受けると、キャニスター
を起立させ、発射準備をします。キャニスター下部には高圧ガス
発生装置が内蔵されており、ガスの圧力により、ミサイルを上方
に噴出させます。
 射出されたミサイルは、次の段階でロケット・モーターが点火
され、上昇し、加速します。そして、第1段、第2段部分を燃焼
後に分離し、再突入体が大気圏外に出て、慣性で飛翔します。地
上司令部のコントロールで所定の高度に乗り、目標の艦艇の近く
に来ると、大気圏に再突入し、レーダー・シーカーを作動させて
軌道修正を行い、艦艇を探索し、攻撃するのです。
 しかし、DF21Dは現時点で額面通りに効果を発揮できるか
どうかは不明です。米国の空母艦隊は常時移動しています。その
ように移動する艦艇の位置を正確に捉えることは非常に難しいこ
とであり、中国の発表を額面通りに受け取れないのです。
 それに、米軍もDF21Dの対応策を考えているはずです。O
THレーダーは大規模な固定式の装置であり、地上に置かれてい
るので、戦争がはじまれば、真っ先に破壊される対象になるとい
う脆弱性を持っています。既に固定目標で、DF21Dの実験を
行っていますが、海上の移動艦艇への実験はまだ行われていない
レベルです。       ──[米中戦争の可能性/034]

≪画像および関連情報≫
 ●中国がDF21Dを地上固定目標に試射?
  ───────────────────────────
   「空母キラー」だとか「ゲーム・チェンジャー」と呼ばれ
  ながら、空母リャオニンに比べて情報が出てこないのが、対
  艦弾道ミサイル(ASBM)のDF21D(東風21D)で
  す。そのDF21Dの試射が、中国西部のゴビ砂漠において
  行われたという情報がありました。試験では、米空母の飛行
  甲板を模した全長200メートルほどの施設を砂漠に建設し
  それを標的としてDF21Dが発射され、着弾しています。
   今回の情報はアルゼンチンの画像掲示板に投稿されたこと
  を発端に、中国のメディアにも報じられていますが、なにぶ
  ん実験の詳細などは一切わかりません。誤報の疑いも強いも
  のです。外交誌『The Diplomat』でも取り上げられています
  が、やはり確定的なことは書かれていません。
   『The Diplomat』の記事中でランド研究所のロジャー・ク
  リフ氏も言及していますが、仮に今回のDF21Dの試射が
  所期目標をクリアしているとすれば、次のステップは洋上の
  移動目標への試射となります。これは、地上の固定目標を攻
  撃するのに比べて難度が飛躍的に高くなります。まず、広い
  洋上で目標の抽出をしなければなりません。敵味方判定はも
  ちろん、米海軍の空母と駆逐艦では大きさが違いすぎます。
  そして、発射した後の中間誘導において、正確な情報のアッ
  プデートとリンクが求められますよね。1時間前の衛星情報
  などは役に立ちません。発射から着弾まで5分だとしても、
  その間に空母は数キロメートルも移動してしまっています。
                   http://bit.ly/2kArRtO
  ───────────────────────────

東風21D略図.jpg
東風21D略図
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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