2017年02月20日

●「中国は多くの非対称兵器を有する」(EJ第4463号)

 中国軍の実力はどの程度のものでしょうか。
 軍事専門家によって意見が割れています。いま米中が戦えば、
もちろん米軍が圧倒的に強いですが、ピーター・ナヴァロ氏は米
軍が脅威に感じていることは少なくないといっています。ナヴァ
ロ氏は、次の問題を出しています。
─────────────────────────────
【問題】1600キロ離れた場所から発射したミサイルを、時速
55キロで航行中の空母に命中させるのは、どのくらい難しいか
選べ。
  「1」困難
  「2」非常に困難
  「3」ほぼ不可能
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
─────────────────────────────
 この答えは「2」の「非常に困難」です。しかし、それを中国
が可能にしたと思われるからです。その名前は「対艦弾道ミサイ
ル」です。これは「空母キラー」といわれているのです。
 ミサイルについて知る必要があります。次の2つのミサイルの
違いがわかるでしようか。
─────────────────────────────
          1.巡航ミサイル
          2.弾道ミサイル
─────────────────────────────
 これら2つのミサイルは、推進力が違います。巡航ミサイルの
推進力は小型ジェットエンジンであり、弾道ミサイルの推進力は
ロケットです。なぜ、ロケットなのかというと、弾道ミサイルは
大気圏外に出るからです。これに対して、巡航ミサイルは、大気
圏から出ることはなく、大気圏のなかをジェットエンジンから推
進力を得て目標に向って飛行します。
 しかし、弾道ミサイルはロケットから推進力を得て大気圏外に
出て、ほとんど燃料を使わず、長距離を飛行できるのです。これ
について、ナヴァロ氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 弾道ミサイルは、通常はロケットによって打ち上げられ、大気
園外で準軌道飛行に入る。この希薄大気の中を、弾道ミサイルは
ほとんど燃料を使わず、長距離を飛ぶことができる。これが弾道
ミサイルの大きな利点である(価格はふつう巡航ミサイルのほう
がずっと安い)。目標付近に到達すると、弾道ミサイルは自由落
下して大気圏に再突入し、その過程で致死的な高速を獲得する。
           ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 中国のこの対艦弾道ミサイルの画期的な点は、司令部と衛星経
由で連絡をとりながら、目標を追尾できることです。しかも、再
び大気圏に突入した後も、大海原の小さな目標をロックオンし、
目標に達することができる点です。驚くべき性能の弾道ミサイル
といえます。
 この手の対艦弾道ミサイルは射程1500キロメートル以上と
いわれています。もし、本当であれば、このミサイルを中国沿岸
部から発射すれば、遥か遠くの太平洋上を航行する米国の空母を
撃沈することが可能になります。そうであれば、米国の空母艦隊
は中国に近づくことができなくなります。つまり、これを中国か
ら見ると、「接近阻止」になります。
 この対艦弾道ミサイルは、中国の「接近阻止/領域拒否」戦略
の一環で開発されたミサイルなのです。「接近阻止」とは、文字
通り中国本土(というより第一列島線と第二列島線)に近付かせ
ないという意味であり、「領域拒否」とは米海軍のアジア海域か
らの駆逐を意味します。この「接近阻止/領域拒否」戦略は、公
海の航行の自由という国際法の原則からすると、とくに米国は絶
対に譲れない一線ということになります。
 中国の対艦弾道ミサイルについて、ピーター・ナヴァロ氏は、
フィリップ・カーバージョージタウン大学教授の言葉を紹介して
います。
─────────────────────────────
 アメリカは世界最強の海軍を保有している。現在、アメリカ海
軍はおそらく、中国軍やロシア軍を含め、世界中ビこの海軍と通
常戦争を戦っても勝利することができるだろう。だが、中国は抜
け目なく行動し、対艦弾導ミサイルなどのいわゆる非対称兵器を
開発してきた。対艦弾遭ミサイルは、アメリカ海軍の艦隊を人質
に取る能カを持っているかもしれない。これは、アメリカのアジ
ア地域への海軍力展開能カが次第に小さくなっていくことを意味
している。      ──ピーター・ナヴァロ著の前掲書より
─────────────────────────────
 この記述で注目すべきは「対艦弾導ミサイルなどのいわゆる非
対称兵器」という部分です。ここでいう「非対象兵器」とは何で
しょうか。
 米国の軍事力と中国の軍事力は非対称です。現在でも圧倒的に
米軍の方が優勢です。この場合、劣勢側はそれを覆すために開発
する兵器が「非対称兵器」です。
 例えば、対艦弾道ミサイルは一発せいぜい数百万ドルですが、
米国の空母は一隻100億ドルもします。非対称です。しかし、
このミサイルで、空母を撃墜することができるのです。こういう
兵器を「非対称兵器」といいます。中国は、「接近阻止/領域拒
否」戦略を実現するために、こういう非対称兵器を多数開発保有
しているのです。
 この対艦弾道ミサイルに該当する兵器に「東風/DF21D」
があります。移動車両に搭載してどこからでも発射でき、米空母
をターゲット化して追尾し、撃沈できます。そのため、「空母キ
ラー」と呼ばれているのです。これについては、明日のEJで述
べます。         ──[米中戦争の可能性/033]

≪画像および関連情報≫
 ●テロリストが軍隊よりも優位に立つ「非対称の戦争」
  ───────────────────────────
   パリで発生したISによる連続テロでは120名を超える
  市民が命を落とし、フランスのオランド大統領は「今回のテ
  ロは戦争行為」だと強く非難した。事件が起きる前から、同
  国を代表する日刊紙「ル・モンド」は、テロの危機が目前に
  あると警鐘を鳴らす記事を繰り返し掲載してきた。弊誌4月
  号の特集「これからの『戦争』と『世界』」に転載した「ル
  ・モンド」紙の記事をウェブでも公開する。
   1989年のベルリンの壁の崩壊は、人々の期待を裏切っ
  て、世界を不安定な新しい時代に引きずり込んだ。かつて冷
  戦時代、核戦争の危険は、敵でもありパートナーでもあった
  米国とソ連の2大国によって慎重に管理されており、世界は
  きわめて平和で、喜びに満ちていた。敵対するイデオロギー
  を背景にした紛争は、居心地の良いフランスと欧州大陸から
  遠く離れたところで行われ、燦々と輝く陽の光のもとで、美
  しいとさえ思えた。平和は「核の抑止力」という氷のカーテ
  ンに守られて、脅かされることすらなかった。
  21世紀に入ると、圧倒的な力を誇る米国の一国支配は20
  01年9月11日の同時多発テロ事件によって終止符を打た
  れてしまった。この事件は、永遠に平和で幸せだと信じられ
  ていた世界を大きく揺るがした。
   9・11を機に生まれてしまったのが「非対称的な戦略」
  である。これは、「ネズミのほうが猫よりも強い」、つまり
  弱者が強者に対して優位に立つという考えかただ。「非対称
  的な戦略」の誕生によって、嫌悪感と恐怖心と苦痛が支配す
  る、新しい国際社会が幕を開けた。 http://bit.ly/2m6N7nh
  ───────────────────────────

中国の対艦弾道ミサイル/DF21D.jpg
中国の対艦弾道ミサイル/DF21D
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック