2017年02月14日

●「ニカラグア運河/中国は諦めない」(EJ第4459号)

 ニカラグア運河についてネットで調べると、計画は大幅に遅れ
ているが、今後進められるであろうとする情報と、計画倒れで中
止になる公算が強いという相反する情報が溢れています。一体ど
ちらが正しいのでしょうか。
 東京財団研究員で、元駐中国防駐在官の小原凡司氏の論文の表
題(ウェッジ・インフィニティ/日本をもっと考える所載)は次
のようになっています。
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     小原凡司(東京財団研究員・元駐中国防駐在官)著
 中国が「ニカラグア運河」いよいよ建設へ「パナマ運河無力
 化の先に見据えるもの」   ──2016年6月27日付
                  http://bit.ly/2lDYKCD
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 現在、ニカラグア運河の建設は、HKNDによる調査などは行
われているものの、全然着手されていない状況です。その原因は
資金不足と地元民の反対にあるとみられます。しかし、小原氏の
論文を読む限り、運河にはさまざまな困難はあるものの、中国の
手で進められ、いずれは完成される可能性は高いと考えていると
読み取れます。
 なぜなら、もし、ニカラグア運河が完成すると、この運河建設
の主導権を握っている中国は、対米軍事戦略上、きわめて有利な
ポジションを占めることになるからです。小原凡司氏は、その中
国の優位性について、次のように述べています。
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 ニカラグア政府は運河の東西両端(太平洋口と大西洋口)の港
湾や自由貿易区の浚渫や建設、さらにはリゾート開発の権益をも
HKNDに与えている。これにより運河沿岸地域すべてが中国系
企業の管轄となり、この広大な地域が事実上100年間、中国の
租借地となるとみられている。
 中国は、運河沿岸全域を管理することによって、米国に知られ
ることなく、何でも大西洋に送り込むことができるようになる。
パナマ運河で行われている積荷の検査を自国で行うことができる
からだ。
 例えば、中国は現在でもベネズエラに対して、Z─9型対潜ヘ
リコプターやSM─4型81ミリ装輪自走速射迫撃砲、SR─5
自走ロケット砲などを輸出しているが、さらに、中南米諸国に反
米姿勢を強めるように働きかけ、実際に武器を供給することも容
易になるのだ。(中略)
 中国はニカラグア運河を通航する搭載物資に関する情報をすべ
て得ることにもなる。安全保障上も、ビジネス上も極めて重要な
情報である。しかし、中国が太平洋と大西洋を行き来する物資に
関する情報をより多く得たいと思えば、ニカラグア運河がパナマ
運河よりも商業的に魅力的になる必要がある。
                   http://bit.ly/2lBPjTC
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 しかし、ニカラグア政府もHKNDもこの運河工事をいまさら
中止できなくなっている事情があります。運河を作る以上、その
ルートに当たる土地や住宅を政府が買い上げる必要があります。
その買収すべき土地の総面積は、2900平方メートルに及び、
対象者は3万人〜12万人になるといわれています。
 問題なのはその土地や家屋の買い上げ価格の低さです。ニカラ
グア政府は、「840条第12項」に基づき、運河開発に必要に
なる土地を政府の土地鑑定評価額で買い上げるが、それに対して
所有者からの不服は一切受け付けず、立ち退かなければならない
としています。こういう強引な手法がとれるのは、現在のダニエ
・オルテガ大統領は独裁者であるからです。
 もちろん住民はこれに対して大反発し、何回もデモが行われて
います。住民としては住み慣れた土地を強引に奪われ、しかもそ
の代償として受け取るお金は非常にわずかなのですから、住民の
反発は当然のことです。
 現在のオルテガ政権は、親米の長期政権であるアナスタシオ・
ソモサ・デバイレ政権を倒して成立した政権であり、社会主義を
目指しています。中国はそのような国に接近し、投資を行い、米
国の喉元に多くの拠点を構えようとしているのです。
 ニカラグアだけではないのです。中国はベネズエラをはじめと
し、エクアドル、アルゼンチンなど、いずれも社会主義路線を進
める準独裁国家を対象に、1000億ドルを超える巨額の投資を
行っているのです。エクアドルには銅山開発、アルゼンチンでも
鉱山開発に加えて、鉄道事業への投資も行われています。しかし
そのいずれも進出している中国企業とトラブルを起こし、うまく
いっていないのです。
 以下は、国家通貨研究所経済調査部森川央上席研究員によるニ
カラグア運河の現状のコメントです。
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 当初の計画では工事が始まっているはずだが、ニカラグア政府
は全く情報を開示しておらず、進捗状況は不明である。だが企業
関係者の声を総合すると、本格的に工事が始まった形跡は見られ
ない。(中略)計画が具体性を欠いているだけでなく、ニカラグ
アを支援する友好国に陰りがみられることも計画への不安材料と
なっている。ニカラグアの与党は左派のサンディニスタ民族解放
戦線(FSLN)である。FSLN政権下で、同国は米州ボリバ
ル同盟(ALBA)という左翼政権の同盟に参加している。友好
国はキューバ、ベネズエラ、エクアドル、ボリビアなどで、イラ
ンやロシアとも武器購入などで関係が密である。特にベネズエラ
からは破格の条件で石油の提供を受けていた。しかし、ベネズエ
ラ経済は現在、危機的状況を迎えている。ニカラグア経済はこれ
までのところ好調であるが、今後はベネズエラからの援助は期待
できず、先行きへの懸念材料となっている。
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             ──[米中戦争の可能性/029]

≪画像および関連情報≫
 ●ニカラグア運河計画、実現に疑問も/WSJ
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  【オメテペ(ニカラグア)】中米ニカラグアのサンディニス
  タ民族解放戦線(FSLN)が率いる現政権は、1980年
  代に吹き荒れた革命運動のさなかに国土の大半を接収した。
  政府はここにきて再び地方の土地を確保しようとして国を混
  乱させている。だが、今回は資本主義に基づく事業、つまり
  中国資本の助けを借りて太平洋と大西洋を結ぶ全長172マ
  イル(約277キロ)の運河を建設することが目的だ。
   ニカラグアが計画しているこの運河は、完成すればフット
  ボール場4つ分より長い船舶の航行が可能となる。大きすぎ
  て新たに拡張されたパナマ運河でさえ航行できない船舶も利
  用できるようになる。ニカラグアの運河で建設・運営に関す
  る50年の権利を有する香港ニカラグア運河開発投資(HK
  ND)によると、このプロジェクトは人類史上最大規模の土
  木工事になるという。
   HKNDによると、水路や通関施設、道路、自由貿易圏を
  整えるためには642平方マイル(1663平方キロ)の土
  地が必要になる。ニカラグア政府関係者は懸案事項である土
  地の収用を正当化する理由として、運河が完成すれば貧しい
  ニカラグアに5万人分の雇用が創出され、経済規模が2倍に
  拡大する見通しだと説明している。だが、土地が収用されれ
  ば、2万7000人の住民が移住を余儀なくされることにな
  る。             http://on.wsj.com/2kyBKEi
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ニカラグア運河反対運動.jpg
ニカラグア運河反対運動
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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