2017年02月09日

●「中国海軍戦略の方程式を解読する」(EJ第4456号)

 中国海軍の建設は、次の式であらわすことができるとされてい
ます。中国の海軍戦略のいわば方程式です。これは、海上自衛官
の経験を持ち、元防衛大学校海上防衛学教授を務めた作家の山内
敏秀氏の論文に出ていたものです。
─────────────────────────────
  中国海軍の戦略=
  革命の完成+海の長城+海洋管轄権の擁護+局部戦争+
  海上交通路の保護+非戦闘軍事行動
                 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 中華人民共和国(現在の中国)が海軍の必要性に目覚めたのは
蒋介石の率いる国民党軍が台湾本島にこもり、そこを大陸反攻の
拠点としたことがきっかけであるといわれます。
 それまでの中国は、軍隊の強化といえば、陸軍の強化であり、
海軍にはあまり関心がなかったのです。しかし、国民党軍が島に
立てこもったので、それを取り戻すには海軍が必要であると考え
たというわけです。つまり、台湾を取り戻すまでは、革命は完成
していないという考え方に立ったのです。
 「海の長城」とは何でしょうか。
 「海の長城」とは、毛沢東主席が1949年に中国人民政治協
商会議第1回全体会議の開幕演説で使っています。
─────────────────────────────
 我が国の海岸線は長大であり、帝国主義は中国に海軍がないこ
とを侮り、百年以上にわたり我が国を侵略してきた。その多くは
海上から来たものである。中国の海岸に「海の長城」を築く必要
がある。  ──毛沢東主席演説    http://bit.ly/2l9SD97
─────────────────────────────
 この場合、「海の長城」はあくまで沿岸警備であり、国として
当然の防衛であるといえます。添付ファイルの上の図がそれに該
当します。
 しかし、この海洋防衛ラインが本土の沿岸部から離れる契機と
なったのは、1978年に採用された改革開放路線です。国防の
対象となるエリアが、従来の内陸の奥深くから沿岸部に設置され
た経済特区へと移り、さらには海洋そのものが経済発展の舞台と
して認識されるようになったのです。これを仕掛けたのは「中国
海軍の父」といわれる劉華清です。添付ファイルの下の左の図が
それに該当します。「85戦略転換」と書いてあるのは1985
年にそれが行われたからです。ところで、劉華清は次のような名
言を遺しています。
─────────────────────────────
 海軍は商船の存在によって生じ、商船の消滅によって消える
 ものである。            ──劉華清海軍司令
─────────────────────────────
 つまり、劉華清海軍司令は、海洋事業は国民経済の重要な構成
部分であり、その発展には強大な海軍による支援がなければなら
ないと主張します。この85戦略転換が「海洋管轄権の擁護」へ
と変わり、第1列島線と第2列島線という現在の中国の海軍戦略
の考え方が出てくるのです。南シナ海については、国際法を無視
した勝手な論理で「九段戦」なる線を引き、そこは中国の領海で
あるとしてその管轄権を主張しています。この中国の海軍戦略の
変化について、山内敏秀氏は次のように述べています。
─────────────────────────────
 中国の海軍戦略が変化する契機となったのは「改革・開放」路
線を決定した1978年の11期3中全会です。「改革・開放」
路線の決定によって、海洋が経済発展の場と認識され、さらにい
わゆる85戦略転換を受けて、中国海軍は戦略を再検討し、国家
の経済建設に貢献するため、300万平方キロメートルの海洋管
轄権を維持することを目的とした近海防御戦略を策定しました。
 (中略)新しい近海防御戦略における脅威認識は概ね渤海から
南シナ海にいたる300万平方キロメートルの海域における中国
の海洋開発を阻害する他国の活動を主たる脅威とするものでした
が、近海防御戦略は、「革命の完成」や「海の長城」に取って代
わったのではなく、それらに付加され、重心が移行したに過ぎな
いのです。      ──山内敏秀氏 http://bit.ly/2kAVwlH
─────────────────────────────
 それでは、冒頭の中国海軍戦略の式にある「局部戦争」とは何
でしょうか。
 山内敏秀氏は、「局部戦争」は局地戦争ではなく、特定の政治
目標を達成させるための限定的な戦争であると述べています。海
洋管轄権を擁護しようとすると、どうしてもその目的達成のため
に関係国との間に衝突が起きる可能性がありますが、それが局部
戦争です。そういう海上における局部戦争に勝利するため、海軍
力の増強と近代化が急務であるとしているのです。
 中国は、こうした局部戦争において、投送兵力、海上封鎖、対
地攻撃、陸上作戦支援、水上艦艇攻撃、海上輸送、武力誇示、軍
事恫喝などを行うため、海軍を運用しようとしています。現在、
既に起きている南シナ海での各種の紛争、中国の人工島をめぐる
争い、東シナ海の尖閣諸島を巡る各種の衝突は、やがて局部戦争
に発展する恐れが十分あります。
 それでは、海軍戦略の式の最後に書かれている「非戦闘軍事行
動」とは何でしょうか。
 これは現在の呉勝利海軍司令がいっているのですが、90年代
の米軍が目指した「MOOTW」のことをいっているのではない
かと思われます。
─────────────────────────────
   MOOTW=Military Operations Other Than War
─────────────────────────────
 海軍力を高めて行くと、それだけで戦闘を防ぎ、政治目標を達
成できるという意味にもとれます。「戦わずして勝つ」という孫
子の兵法です。      ──[米中戦争の可能性/026]

≪画像および関連情報≫
 ●「中国海軍は縮小する」/文谷数重氏
  ───────────────────────────
   日本にとって中国の脅威は海軍力にある。日本人は中国が
  どれほど陸軍をもっていても気にはならない。だが90年代
  後半以降、日本の海軍力の優越が失われると、途端に不安と
  なった。その海軍力はこの10年間で特に急成長した。空母
  実用化や中華イージス登場の背後で、外洋型軍艦と潜水艦を
  併せた主力艦を55隻を完成させている。中国海軍力は、今
  後も急成長をつづけるのだろうか?
   答えはノーである。質的な向上はあるが、数的成長は望め
  ない。今後10年間、2026年までは微増にとどまり、2
  027年以降は減少に転ずる。なぜなら、経済成長の停滞、
  装備の高級化、既存艦の大量退役のためだ。中国海軍の成長
  は止まる。その第一の理由は経済成長の停滞により軍事費の
  成長が止まるためだ。海軍増強は経済成長に伴う軍事費増額
  に支えられていた。ここ10年間、2006年から15年ま
  で中国軍事費は合計6億元である。これは96年からの10
  年間の3倍の額である。中国はその軍事費を傾斜配分して、
  海軍の急成長を実現した。だが、今後は軍事費の増額は見込
  めない。その大元となる経済成長が停滞するためだ。強気の
  政府発表でも年率5%とされており、さらに統計の信憑性か
  らすれば実質はそれ以下となる。 http://huff.to/2laHzYk
  ───────────────────────────

中国の海軍戦略の変遷.jpg
中国の海軍戦略の変遷
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。