2007年06月13日

●見えない、聞こえない不況(EJ第2100号)

 「バランスシート不況」――これはリチャード・クー氏の造語
です。経済学の教科書にはいっさい載っていないまったく新しい
考え方です。
 経済学に限りませんが、新しい考え方というものはなかなか受
れ入れられないものです。もし、それを安易に受け入れると、自
分が拠って立つ基盤が崩れてしまうからです。まして学者はそう
いう基盤の上に立って学説を組み立てているので、拠って立つ基
盤が崩壊すると学説も意味を失ってしまうからです。
 実はこれまでのマクロ経済理論は次のことを前提として組み立
てられており、バランスシートは盲点だったのです。
―――――――――――――――――――――――――――――
     企業のバランスシートには問題がない
―――――――――――――――――――――――――――――
 マクロ経済学者が企業のバランスシートを見ていないとすれば
誰が企業のバランスシートを見ているのでしょうか。
 通常企業のバランスシートを見ている人は、アナリストと呼ば
れるミクロの企業経営分析をする人たちです。また、企業に融資
をするための審査をする金融機関の人たちも企業のバランスシー
トを分析します。
 しかし、エコノミストは企業のバランスシートを検討して、そ
の企業の株が買いなのか売りなのかを分析しており、金融機関は
要するに貸すお金が果たして戻ってくるかどうかを分析している
だけであって、それ以上のものではないのです。
 これらはいずれもミクロの世界の話なのです。「木を見て森を
見ず」という言葉がありますが、木はよく見るが全体の森のこと
など考えてみないのです。
 そうすると、森を含めて経済全体を見るのは、マクロ経済学者
ということになりますが、肝心のマクロ経済学者は「企業のバラ
ンスシートには問題がない」という前提に立っているから最初か
ら企業のバランスシートを見ていないのです。これについて、リ
チャード・クー氏は次のようにいっています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 バランスシートの問題を抱えた企業が債務の最小化に走り出す
 と、総需要が減少して不況になる。ところが、企業が前向きで
 あることを前提とした経済学だけを何十年も勉強してきた人た
 ちは企業が後ろ向きになる可能性を最初から考えたこともない
 ので、何とか従来の経済学にある視点や分析手法でこの不況を
 理解しようとする。その結果、バランスシートの問題は完全に
 見落とされてしまうのである。   ――リチャード・クー著
     『「陰」と「陽」の経済学/我々はどのような不況と
     戦ってきたか』       ――東洋経済新報社刊
―――――――――――――――――――――――――――――
 要するに企業のバランシートは盲点であり、誰も見ていなかっ
たということです。それに加えて、借金返済を始めた企業経営者
は、そのことを絶対に秘密にするので、外部の人には一層わから
ないということです。このことは外部の人にはもちろんのこと、
企業内部でもごく一部の人にしか漏らさないよう、細心の注意を
払うはずです。
 なぜなら、もしこのことが外に漏れると、「あの企業は債務超
過だ」という噂を立てられ、銀行から取引停止を受けたり、取引
先から現金決済を通告される恐れもあるからです。そして表面上
は平静を装うのです。
 一方資金を返されている金融機関もこの話を秘密にしようとし
ます。もし、お金を貸している企業が債務超過になっていると、
それらは不良債権としてみなされ、融資を停止して資金の回収を
しなければならなくなるからです。銀行としても、企業にキャッ
シュフローさえあれば、この問題は時期が解決することはわかっ
ているので、黙って返済を受けようとするのです。
 つまり、銀行としては問題の所在がよくわかっている企業経営
者がそういう行動――つまり、借金返済をとってきている場合は
絶対に外にそれを漏らさないようにして、企業が返済を終えるの
をひたすら待ったのです。
 しかし、小泉政権ではちょうどそういう時期に構造問題として
銀行問題を取り上げ、不良債権の削減を強行しています。そのた
め、銀行側としては時期が解決するとわかっている企業――つま
り、潰れなくてもよい企業がその時期にいくつも倒産しているの
です。この不況が何によって起こされているかを知らないために
そういう間違った処置を取ってしまったといえます。
 このようなわけで、この不況をクー氏は「見えない、聞こえな
い不況」と呼んでいるのです。
 実際に過去10数年間にわたって企業がバランスシートを綺麗
にするために借金返済に走った実態を検証してみましょう。添付
ファイルを見ていただきたいと思います。
 棒グラフの部分は、銀行の企業向け貸出残高を示しています。
1985年頃から急速に増えはじめ、10年後の1995年には
ピークに達しています。1987年にバブルが発生しているので
時期的に一致しています。
 1995年の頂点から棒グラフは減りはじめ、2006年の時
点で1985年の水準まで圧縮されているのです。つまり、銀行
の企業向け貸出残高は、バブルの発生前の時点のレベルまで圧縮
されたことになります。
 なお、折れ線グラフは、銀行の企業向け貸出の対GDP比を示
していますが、この指標はバブル期には85%まで上昇していた
のですが、現在では52%まで減少しています。これは1956
年以来の低水準なのです。
 このグラフを見ると、クー氏のいうように、企業の借金返済は
本当に行われたことがわかるし、そしてそれが遂に終わったこと
を確認できます。だからこそ、景気が回復したのです。これは日
本経済にとって大変良いことである――リチャード・クー氏はそ
ういっています。      −―[日本経済回復の謎/09]


≪画像および関連情報≫
 ・マクロ経済学とは何か
  ―――――――――――――――――――――――――――
  マクロ経済学とは、個別の経済活動を集計した一国経済全体
  を扱う経済学である。マクロ経済変数の決定と変動に注目し
  適切な経済指標とは何か、望ましい経済政策とは何かという
  考察を行なう。その主要な対象としては国民所得・失業率・
  インフレーション・投資・貿易収支などの集計量がある。対
  語は経済を構成する個々の主体を問題にするミクロ経済学。
  ―――――――――――――――――――――――――――

soc.jpg
posted by 平野 浩 at 04:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。