2017年02月07日

●「真珠の首飾りとダイヤネックレス」(EJ第4454号)

 昨日のEJで述べたように、中国はかなり以前から、いわゆる
「真珠の首飾り」の構築に精力的に取り組んできており、既にし
かるべき手を着実に打ってきています。本来その基本的な考え方
は「マラッカ・ジレンマ」を回避する──すなわち、もし台湾有
事などが起こってマラッカ海峡が封鎖されても、中国が原油を確
保できるようにすること、それが目的なのです。
 しかし、港湾を建設する以上、中国はそれを軍事基地化しよう
とするのです。その典型的な例をわれわれはミャンマーに見るこ
とができます。ミャンマーの場合、中国が近づいたのは軍事政権
のときであり、軍事政権が一番欲しい武器輸出を行い、港湾建設
などを積極的に引き受けることによって、各所に海軍部隊を配置
することで、同地域における軍事的な優位を獲得することに成功
しているのです。
 中国は、その見返りとして、アンダマン海にある大ココ島に海
洋偵察・電子情報ステーションを建設し、小ココ島には軍事基地
を建設しています。カネにものをいわせてやりたい放題です。そ
の目的は、マラッカ海峡近くのインド領アンダマン、ニコバルに
あるインド軍事基地や艦艇の動向を監視することです。
 さらに中国は、ミャンマーの7つある港のすべてにおいて、大
型艦艇が入れるように改造しています。ミャンマー海軍は、そう
いう大型船舶を保有していないので、明らかに中国の艦艇が寄港
できるようにしたのです。とくにシットウェ港は、深海港として
建設し、潜水艦も入れるようにしています。
 シットウェ港は、ベンガル湾をはさんで、インドの大都市カル
カッタまで約500キロのところにあり、中国軍はここに新設し
た信号傍受施設によって、インド当局のさまざまな動向を探れる
ようになったのです。
 さて、その中国の脅威に対してインドは、どのようにして対応
してきたのでしょうか。インドといえば、非同盟中立の立場をと
る国として知られています。インドについて三井物産戦略研究所
は、次のようにレポートしています。
─────────────────────────────
 インドは、長く非同盟中立政策を採ってきた。しかし、冷戦後
期には、対中戦略から、事実上の同盟といわれるほどにソ連と接
近し、非同盟中立は名目になった。逆に、欧米と距離を置いたこ
とで、経済的繁栄が犠牲になったとの認識もインド国内に生まれ
たのである。
 2000年代に入ると、繁栄と大国への願望から、米国との協
調を望んだ。2000年3月のクリントン米大統領の訪印は、関
係改善の契機になった。しかし、パートナーシップに対する認識
の違いと戦略的自立願望ゆえに長続きせず、インド国内に過度な
対米接近を否定する意見が出始めた。
 非同盟中立は、底流に流れる思想だが、戦後の英国支配から脱
するための、弱い大国としての非同盟中立と、近年の中国の圧力
に抗しつつ軍事力を背景にしての戦略的自立には大きな違いがあ
る。米国との距離感も、この微妙な対中バランスから生まれてい
る。                 http://bit.ly/2l21xVY
─────────────────────────────
 この中国の真珠の首飾り戦略は、インドから見れば、対インド
包囲網以外の何ものでもありません。このため、インドは、海外
拠点の取得によってこの包囲網を突破することを考えています。
つまり、中国の「真珠」に対抗して、インド洋から南シナ海の沿
岸に、港湾のネットワークを整備しようとしているのです。そし
てこれらの拠点を「ダイヤモンド」とし、作戦を「ダイヤのネッ
クレス」と呼称しています。このなかで、真珠とダイヤが一番ぶ
つかるのがミャンマーということになります。
 今やインドの対東アジア貿易が占める割合は50%を超えつつ
あり、インドにとって東アジアへの海上交通路の重要性はますま
す増しています。そのうえでインドも90%のエネルギーを湾岸
地域から輸入しています。そのため、ホルムズ海峡の通航に影響
を及ぼしているイランやパキスタンが中国との関係を深めている
ことに脅威に感じています。つまり、インドは「ホルムズ・ジレ
ンマ」を抱えているということがいえます。
 一方で米国はこの地域に対して考え抜かれた手を打とうとして
います。2011年のことですが、米国とオーストラリア両国は
オーストラリア北部のダーウィンに、新たに米海兵隊2500名
を駐留させる計画を発表しています。この計画には、オーストラ
リア北部の空軍施設を共同で使用することや、オーストラリア西
部への潜水艦を含む米艦船の寄港の活発化が盛られています。さ
らに、ココス諸島にも米豪共同運用のための空・海軍施設の拡大
計画もあるといわれています。ココス諸島というのは、インド洋
の南キーリング諸島と北キーリング諸島の2つの環礁と27のサ
ンゴ島から成るオーストラリア領の島々です。
 世界地図を広げて確認するとわかるように、中東地域からディ
エゴガルシア島〜ココス諸島〜クリスマス島〜ダーウィン〜パプ
ア・ニューギニア〜グアム〜日本列島にはすべて米軍が駐留して
おり、中国の真珠の首飾りの外側を取り巻く大きなリングができ
ています。
 軍事戦略家によると、中国の真珠の首飾りは軍事戦略にはなり
得ないといいます。なぜなら、中国がインド洋において空軍力を
欠いているからです。確かに中国は既に遼寧という空母を保有し
ていますが、これは訓練用の空母であって、実戦には使えないの
です。現在、さらに2隻を建造中ですが、それが完成し、兵士を
訓練して実戦で使えるようにするには最低でも5年以上かかると
考えられます。これまでは経済力をテコとしてやって来たのです
が、その経済力にも明らかに陰りが見えてきているのです。
 それに一番軍事基地化の進んでいるミャンマーは、軍事政権で
はなく、これから民主化に向うものと思われます。そういう状況
において、中国の軍事利用が進むとは考えられないのです。
             ──[米中戦争の可能性/024]

≪画像および関連情報≫
 ●民主化が胎動するミャンマーで思いを馳せた中国の現状
  ───────────────────────────
   2014年8月初旬に、私は初めてミャンマーを訪れた。
  ちょうど、同国が“民主化”へのプロセスに舵を切る頃のこ
  とである。首都ヤンゴンの中心地、日系企業も支社を置くオ
  フィスビル・サクラタワー付近を拠点に動いていたが、昼夜
  を問わず、街は活気であふれていた。見るからに“若さ”と
  いうパワーを感じさせた。ベトナムのホーチミンの街を歩く
  ようなイメージを彷彿とさせた。日本車が8割ほどを占めて
  いたように見受けられた道路上の渋滞は、バンコクやジャカ
  ルタほど深刻ではなかったと記憶している。
   8月10日には、首都ネピドーで東南アジア諸国連合地域
  フォーラム(ASEAN Regional Forum、ARF) が開催される直
  前であったため、道端にはそれを宣伝するポスターが掲げら
  れていた。ミャンマーが国際社会の一員として地域の発展と
  協力プロセスにエンゲージし、場合によってはイニシアティ
  ブを発揮していこうとする、国民国家としての意思が感じら
  れた。それを象徴するかのように、看板にはASEAN10
  ヵ国の国旗の脇に「ミャンマーがこの地域の平和や発展に貢
  献する時期が来たのだと思います。祖国がこのような盛大な
  国際会議を主催できるのを誇りに感じています」。
                   http://bit.ly/2kwIpSC
  ───────────────────────────

中国の首飾りと米国の首飾り.jpg
中国の首飾りと米国の首飾り
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック