目的で、「外敵と戦って勝利」の実績を作るため、そのターゲッ
トとして日本を想定していることがわかってきています。
そのため、何年もかけて計画的に尖閣諸島周辺海域と空域に船
舶(海警)と戦闘機を送り込み、現地において何らかの「局地海
戦」を仕掛けようとしているのです。しかし、あくまで米軍が参
戦できないかたちでの局地戦を狙っています。
現在、習近平国家主席が最も信頼していると見られる軍幹部は
次の3人です。
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1.呉勝利海軍上将/海軍司令
2.孫建国海軍上将
3.馬暁天空軍上将/空軍司令
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12月25日、中国は空母「遼寧」を中心に複数の艦艇を従え
て沖縄県の宮古海峡を通過し、初めて西太平洋に進出。その後、
バシー海峡を経て南シナ海に入り、海南島の海軍基地に寄港。南
シナ海で艦載機の発着艦訓練を実施しています。
このとき、遼寧には呉勝利海軍司令が乗っており、指揮を執っ
ています。おそらくこれは、呉海軍司令の習主席への進言によっ
て実施された行動であると思われます。明らかに、トランプ氏の
「一つの中国」をめぐる発言を受けて米国を牽制したのです。そ
の証拠に遼寧は、母港の青島に戻るさい、台湾海峡を通過してい
るからです。つまり、往復の行程で台湾本島を一周したことにな
ります。露骨な台湾に対する威嚇です。
呉勝利氏は、2006年から海軍司令を務めていますが、20
06年5月に、キーティング米太平洋軍司令官と会談したさい、
米国に次の提案をしています。
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われわれはまだ空母を持っていないが、空母を保有した場合、
ハワイを起点として、東を米国、西を中国が管理することにして
はどうか。 ──呉勝利海軍司令
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実に自国中心で、思い上がりで、野心的な提案です。何しろそ
のとき中国は、まだ空母を持っていなかったからです。「どうせ
アジアは中国のものになる」という過剰な自信に裏打ちされてい
るからです。
呉海軍司令のこの「太平洋分割管理」が、後に習近平主席が訪
米のさい、オバマ大統領に呼びかけた「新しい大国関係」につな
がるのです。この提案の狙いは、要するに「アメリカはアジアか
ら出て行け!」ということなのです。このふてぶてしい中国の野
心に対して、オバマ大統領は「アジア回帰」あるいは「アジアへ
のリバランス」と呼ばれるような、アジア太平洋地域を明確に重
視する方向性を打ち出したのです。
中国はなぜこのような提案をしたのかというと、アジアにおい
て米国は、中国にとって目の上のタンコブ的存在であり、邪魔そ
のものであるからです。戦略的にも米国のアジアへの影響力を落
とすことが中国の発展につながると考えているからです。
それは中国の通商路に深く関係とます。これについてピーター
・ナヴァロ氏の本には、次の問題が出ています。
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【問題】中国が急速に軍事力を増強しているのは、堅調な経済成
長の維持に欠かせない通商路及び国際投資を防衛するためか。
「1」イエス
「2」 ノー
──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
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この答えはもちろん「イエス」です。1949年の建国から約
30年間、中国(中国人民共和国)は、海とはほとんど縁のない
後進的な農業国家だったのです。石油はかなりの量が国内で産出
されたので、石油を輸入する必要はなかったのです。
しかし、1978年にケ小平副主席の主導する経済革命によっ
て、きわめて中国的な特徴を持つ独特の国家資本主義が確立され
中国は大変貌を遂げることになるのです。それからさらに30年
が経過した時点で、中国は「世界の工場」と呼ばれるようになり
世界最大の工業生産国になったのです。しかし、その一方で中国
は世界最大の石油輸入国になり、その海上輸送路に大きく依存す
ることになったのです。
現在、中国が輸入する石油の約40%は中東産、約30%はア
フリカ産です。問題はその海上輸送路です。産地から中国までの
シーレーンは約1万キロメートル以上に及ぶのです。そしてその
70%は、世界で最も悪名の高い海のチョークポイント、マラッ
カ海峡を通ることになります。
しかし、マラッカ海峡は、水深が25メートルしかないため、
このマラッカ・マックスを超える大型タンカーは、迂回路を通ら
なければならないのです。その迂回路は次の2つです。
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1. スンダ海峡
2.ロンボク海峡
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マラッカ海峡に近いスンダ海峡は、水深は30メートルあるの
ですが、不規則な海底地形と、激しい潮の流れがあり、喫水18
メートル以上の大型船は通過できないのです。
そうすると、結局はロンボク海峡ということになります。ロン
ボク海峡は水深が100メートルを超えており、どのような大型
船でも通行できるからです。しかし、距離は離れています。これ
ら3つの海峡はいずれも米国の制海権下にあり、中国にとっては
大きな不安要素になっています。
──[米中戦争の可能性/021]
≪画像および関連情報≫
●中国は地政学の優等生/シリーズ地政学
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中国の歴史を振り返ると、ランドパワー(華北政権)とシ
ーパワー(華南政権)とが互いに覇権を争い、興亡を繰り返
しました。例えば、南宋時代にはシーパワーの特徴である市
場や流通が発達して、華北の金朝と盛んに交易を行いますが
モンゴルの騎馬民族が樹立した元朝は泣く子も黙るランドパ
ワーでした。そして、明代には鄭和がケニアまで航海したほ
どのシーパワーでしたが、清朝は台湾と外モンゴル、チベッ
トを征服した大ランドパワーです。
現在の中国共産党政権は北京を拠点とする華北政権ですが
本能はランドパワーで、理性がシーパワーなのだと私は理解
しています。中共中国の本来の姿がシーパワーでないことは
その海洋戦略からも垣間見えます。常に本能としてのランド
パワーが持つ領土的野心が、見え隠れしてしまってますから
ね。中国は地理的に見てリムランドに位置しており、こうし
た両生類的な性格を有することも地政学の理論上不思議では
ないのですが、現在の中共政権による両生類的活動はそうい
う形而上の理由ではなく、現実的な問題――エネルギー問題
――が動機となっています。
中国は、1979年の改革開放以来、年平均9%を超える
経済成長を続けてきた結果、いまや米国に次いで世界第2の
エネルギー消費国になりました。原油需要量もまた世界第2
位で、産油国としては世界第4位ながらも、国内生産分だけ
では到底需要をまかないきれず、現在は石油純輸入国となっ
ています。 http://bit.ly/2kU6fEk
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中国シーレーンと主なチョークポイント