2017年01月30日

●「空自のスクランブルの厳しい現状」(EJ第4448号)

 日本の新聞では大きく報道されませんが、尖閣諸島周辺空域で
は、間断なく飛来する中国戦闘機に対して、航空自衛隊のスクラ
ンブルが厳しさを増しています。
 2016年12月10日のことです。中国国防部は次の発表を
行ったのです。昨年暮れのことですから、覚えておられる人もい
ると思います。
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 2016年12月10日(土)、中国国防部は「中国空軍航空
機が、宮古海峡空域を経て西太平洋における定例の遠海訓練に赴
いたところ、日本自衛隊が2機のF─15戦闘機を出動させ、中
国側航空機に対し、近距離での妨害を行うとともに妨害弾を発射
し、中国側航空機と人員の安全を脅かした」(防衛省報道資料よ
り)と発表しました。        ──中国国防部の言い分
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 これに対して日本の防衛省は次の反論を行ったのです。「妨害
弾」などもってのほかというわけです。
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 これに対して防衛省は、翌12月11日(日)、空自F─15
戦闘機は中国軍用機に対し、状況の確認と行動の監視を、国際法
および自衛隊法に基づく厳格な手続きに従って行ったものであり
「中国軍用機に対し、近距離で妨害を行った事実はなく、妨害弾
を発射し、中国軍用機とその人員の安全を脅かしたという事実も
一切ありません」との見解を表明しました。 ──防衛省の反論
                   http://bit.ly/2jDHAnj
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 ところで、中国国防部のいう「妨害弾」というのは「フレア」
のことです。戦闘機が搭載しているミサイルは、敵のエンジンか
ら発射される赤外線を追尾して撃墜する赤外線追尾型ミサイルが
多いのです。フレアというのは、赤外線追尾型ミサイルを欺瞞す
る、いわばおとり弾のことです。
 敵機が近づいてきて、ロックオンされた場合、戦闘機はフレア
を射出してミサイルの追尾をフレアに引き寄せ、その間に現場か
ら離脱することになります。
 ということは、この場合、中国の戦闘機2機が、スクランブル
で接近してきた空自のF─15戦闘機2機に対し、ロックオンし
たので、2機のF─15戦闘機は、フレアを発出して離脱したと
いうことが想定されます。しかし、防衛省はそのどちらも否定し
ています。どうやら、ことを大きくしたくないようです。
 なぜかというと、このようなことはこれまでにも起きているか
らです。実は、これとそっくりの事例が2016年6月17日に
起きているのです。しかし、このときはなぜかメディアが取り上
げていないのです。官邸が特定秘密保護法の対象項目として公表
しなかったからです。
 福島香織氏は自著でこの事実を取り上げていますが、それは、
航空自衛隊の戦闘機パイロットで、元空将の織田邦男氏が、JB
プレスという有料サイトに掲載した主張に基づいています。福島
香織氏はこれについて次のように述べいます。
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 織田記事では、「(中国軍機から)攻撃動作を仕掛けられた空
自戦闘機は、いったんは防御機動でこれを回避したが、このまま
ではドッグファイト(格闘戦)に巻き込まれ、不測の状態が生じ
かねないと判断し、自己防御装置を使用しながら、中国軍機によ
るミサイル攻撃を回避しつつ戦域から離脱したという」とある。
素直に読めば、中国軍機がミサイル攻撃体制をとったので、フレ
ア(赤外線センサーを欺瞞するデコイ装置)を発射して、これを
回避し離脱した、と受け取れる。
 これを受けて、萩生田光一副官房長官が29日の記者会見で、
「近距離でのやり取りは当然あったのだと思う」としながらも、
「攻撃動作をかけられたという事実はない」と言明した。
        ──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
  /経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
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 これは、12月10日に起きたこととまったく同じです。なぜ
そのとき政府はこのことを公表しなかったのでしょうか。
 それは、スクランブルをかける空自の戦闘機が厳しい状況に置
かれている現状と関係があります。福島氏によると、2016年
4月〜6月の中国戦闘機へのスクランブルは、前年同期比1・7
倍に増加しており、予備パイロットまでスクランブルに駆り出さ
れる事態になっているからです。そのため、中国戦闘機に押され
ているのです。そのため、織田氏は心ある日本人に対して警鐘を
鳴らす目的で、あえて有料サイトに論文をアップし、事実を公表
したものと思われます。福島氏は、次のように述べています。
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 織田記事が懸命に警鐘を鳴らしているように、いま日本の対中
国防衛の最前線はきわめて厳しい状況にあることを、もっと多く
の日本人が知るべきだろう。だが日本政府はこれを特定機密保護
法の対象として、公表を見送ったうえ、自衛隊OBが危機感から
問題提起したことをむしろ問題視して、情報漏えいの犯人探しに
躍起になっている。これは、中国国防部がおおむねの内容を公表
した今になっては、東シナ海防衛の最前線にいる人たちの士気を
下げ、日本の防衛体制の穴を中国に知らしめる利敵行為以外の何
ものでもない。         ──福島香織著の前掲書より
─────────────────────────────
 習近平主席の意思を受けて、中国戦闘機は本気で東シナ海の制
空権を取ろうとして尖閣周辺上空に飛来してくるのです。そのた
め、スクランブルをかけた空自の戦闘機が、中国機にドッグファ
イト(バックをとられること)されたからこそ、自衛隊機はフレ
アを射出して離脱したのです。バックをとられてロックオンされ
れば、フレアで離脱するしかないからです。
             ──[米中戦争の可能性/018]

≪画像および関連情報≫
 ●空自機、対領空侵犯措置にて「妨害弾」射出か
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   防衛省は「近距離で妨害を行った」ことと「妨害弾(フレ
  ア)によって安全を脅かした」ことは否定しましたが、「フ
  レアの投下自体」は否定していません。よって、実際のとこ
  ろどのような状況であったのかは不明ですが、少なくとも中
  国国防部が主張する「フレアの射出によって安全が脅かされ
  た」という点は、フレアの特性上発生しようがないことは明
  白であると断定でき、中国国防部の発表は矛盾しています。
   もし仮に、本当に航空自衛隊のF─15戦闘機からフレア
  が射出されていたとしたならば、それはF─15のパイロッ
  トが何らかの脅威を認識したからであると推測されます。今
  回の中国空軍機の編隊には戦闘機が2機(防衛省はSu30
  戦闘機と発表)、確認されています。おそらくこの中国軍の
  戦闘機が、F─15に対してレーダー追尾(ロックオン)を
  仕掛けたのではないでしょうか。F─15には国産の自己防
  御システムが搭載されており、レーダー電波を逆探知するこ
  とでパイロットはロックオン、すなわち攻撃される寸前の状
  態であることを認知できます。もし、「レーダー誘導ミサイ
  ル」が発射された場合、F─15はやはりレーダー電波を逆
  探知し、パイロットはミサイル接近中であることを認知でき
  ます。ただし「赤外線誘導ミサイル」は電波を出さないので
  ミサイル接近警報装置を搭載していないF─15には、同ミ
  サイルで攻撃されているかどうかを知ることはできません。
                   http://bit.ly/2kA2pjw
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スクランブル戦闘機によるフレア射出.jpg
スクランブル戦闘機によるフレア射出
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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