2017年01月25日

●「軍制改革で強大化する習近平政権」(EJ第4445号)

 昨日のEJでご紹介した中国の軍制改革の4つの骨子を再現し
ます。「1」については説明済みです。
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   1.軍区制を廃止して、戦区制(戦略区制)にする[済]
 → 2.軍令と軍政を分離し、軍の司法機構を一新する
   3.30万人の兵力を削減し、200万兵力にする
   4.軍の「民間向け商業活動」を全面的に廃止する
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 「2」について考えます。
 軍制改革以前の人民解放軍の実権は、四大総部が握っており、
中央軍事委員会主席の持つ総帥権は飾りでしかなかったのです。
ちなみに中央軍事委員会主席は、国家主席が兼務します。四大総
部とは、次の4つの部署のことです。
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      1.総参謀部     3.総装備部
      2.総政治部     4.総後勤部
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 人民解放軍は四大総部による支配が長年続き、横の人事異動は
ほとんどなく、縦割り行政の弊害が指摘されていたのです。20
16年12月11日までに四大総部は解体され、その機能が15
の専門部局に分散されたのです。
 新しく設けられたのは「連合参謀部」「政治工作部」「訓練管
理部」「国防動員部」などの部局で、これまで四大総部の傘下に
あった部門が独立したのです。どうしてこの体制になったのかと
いうと、組織間の情報交換と連携を強化する狙いであるとの指摘
があるほか、軍内部の権限を細かく分散させることで、中央軍事
委員会主席である習近平主席が軍の全面的な掌握を進める狙いが
あると思われます。
 この組織改編の後で習近平主席は、北京市西部の中央軍事委員
会本部で各部署の責任者に任命された将軍を集め、次のように訓
示しています。
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 共産党中央と中央軍事委員会の指揮に断固として従わなけれ
 ばならない。       ──習近平中央人事委員会主席
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 四大総部の組織改編では、「軍政と軍令の切り離し」を行って
います。ところで、軍政と軍令はどう違うのでしょうか。
 軍事権は、「軍政権」と「軍令権」から成ります。軍政権とい
うのは、軍事行政、装備、兵站などの軍隊建設に関わる政治を意
味します。これに対して軍令権は、軍事力の直接的使用に関わる
権力のことです。つまり、軍令権は作戦用兵に関する統帥権を意
味します。明治憲法下では,日本はドイツを模倣して、軍令権は
内閣の権能外に独立させ、天皇が直接掌握するかたちになってい
たのです。
 軍政権と軍令権の関係について、福島香織氏は、次のように述
べています。
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 平和時、軍令権はあまり存在感がない。むしろ軍政を握るもの
が軍の権力の中枢を握ることになる。逆にいえば、それが平時の
軍の常態である。だが、習近平が軍令権と軍政権を分離し、軍令
権については自らが掌握することにした。これは、平時から戦時
体制に変わる準備ともいえる。軍令権の中には仮想敵国の想定や
戦術戦略研究の方針も含まれるという。
 この改革が進めば、これまで軍の実権を握っていた四大総部は
中央軍事委の決定に従って実務に専念する職能機関に格下げにな
る見通しだ。中でも総政治部の権限は大幅に弱体化する。
          ──福島香織氏 http://nkbp.jp/2jMk1vI
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 今回の軍制改革では、軍の司法機構を一新するとありますが、
実際にどうなったのかについてはわかっていないのです。軍の司
法機関については、中央軍規律委員会が軍の腐敗を摘発すること
になっていますが、これまであまり厳しい裁きが行われてきてい
ないのです。
 これは長らく軍政を握ってきた徐才厚が身内意識を優先して甘
い裁きをやってきているからです。徐才厚は既に死亡しています
が、その残党は多く残っており、その一掃のために司法機関の改
革が打ち出されたものと思われます。おそらく中央軍規律委員会
を独立させて、新たに軍事政法委員会を作るなどの改革が行われ
るものと考えられます。
 そもそも習近平主席が仕掛けた軍制改革──とくに7大軍区の
改変の真の目的は、徐才厚派の多くいる瀋陽軍区と、郭伯雄派の
多くいる蘭州軍区の解体にあるのではないかといわれるのです。
これをやらないと、本当の意味での軍制改革はできないといわれ
ます。しかし、この軍制改革によって軍は動揺しており、不満が
渦巻いているのです。
 なぜ習近平主席は、このタイミングで軍制改革をやろうとした
のでしょうか。それは「2つの100年」の目標実現のためとい
われています。「2つの100年」とは次の2つです。
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   1.  中国共産党成立100年(2021年)
   2.中華人民共和国成立100年(2049年)
─────────────────────────────
 第1の100年は、2021年に訪れる中国共産党成立100
年に小康社会を樹立することです。小康社会とは、全面的なゆと
りある社会のことです。
 第2の100年は、2049年までに中国を社会主義現代国家
にするという目標です。そのための4つの全面──全面的小康社
会の建設、全面的改革の深化、全面的法治国家の推進、全面的統
治の厳格化の協調的推進に必要なのが軍制改革による強軍興軍化
であるというのです。   ──[米中戦争の可能性/015]

≪画像および関連情報≫
 ●人民解放軍を骨抜きにする習近平の軍事制度改革
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   「政治権力は銃口から生まれる」。毛沢東が語ったこのき
  わめて明快な権力観は、習近平の中国でも生きている。習近
  平は、2012年11月に中国共産党総書記に就いて以来、
  歴代の指導者と同様に、繰り返し人民解放軍に対して「党の
  軍に対する絶対的な指導」を守るよう繰り返し確認してきた
  のである。これを制度的に保障するために、やはり歴代の指
  導者と同様に、習近平は中国共産党のトップである中国共産
  党中央委員会総書記であり、国家のトップである国家主席で
  あり、中国共産党の軍事に関わる意思決定のトップである中
  国共産党中央軍事委員会主席であり、国家の軍事に関わる意
  思決定のトップである国家中央軍事委員会主席を兼ねている
  のである。
   実は、中国共産党総書記はこれまで、その就任直後から、
  国家、そして軍の三権を一度に掌握してきたわけではない。
  現代中国政治において政治指導者たちは、権力を継承すると
  き、軍に関する権力の継承については極めて慎重におこなっ
  てきた。天安門事件の責任を負って失脚した趙紫陽の後任と
  して中国共産党総書記に就いた江沢民は、中国共産党中央軍
  事委員会主席の地位を、総書記就任から5ヶ月経ってから、
  ケ小平から継いだ。江沢民の後継である胡錦濤は2002年
  11月に総書記に就任したが、中央軍事委員会主席となった
  のは2年後のことであった。    http://bit.ly/2kfWAvP
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軍人を激励する習国家主席.jpg
軍人を激励する習国家主席
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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