れは「7大軍区制」という制度だったのです。この制度は、旧ソ
連の「軍管区制度」にならったものといわれています。
中国は広大な地域を持つ国ですから、その国境線は広大です。
したがって、いつ国境から敵が侵入してくるかわからないので、
陸軍を7つの軍事組織である「軍区」に分けて、敵の侵入に備え
ていたのです。軍区制は1949年に導入されています。
この場合、軍区の司令はその地域の作戦を遂行するうえで、い
ちいち上層部の指揮を仰がなくでも、作戦を実行できる強固な指
揮権を有しています。その7つの軍区とその主たる対応国を以下
に示します。
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1.瀋陽軍区 ・・・ 北朝鮮
2.成都軍区 ・・・ インド(チベット独立派)
3.北京軍区 ・・・ モンゴル
4.南京軍区 ・・・ 台湾(日本)
5.蘭州軍区 ・・・ ロシア・ウイグル独立派
6.広州軍区 ・・・ ベトナム
7.済南軍区 ・・・ 予備軍区
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これら7つのそれぞれの軍区には、陸軍だけでなく、海軍、空
軍、第二砲兵(ミサイル部隊)も配置されており、兵站や兵力の
配置なども軍区の司令が担うのです。なお、軍区には政治委員も
設置され、軍政権もある。つまり、軍区の司令は軍事のことは自
らの判断で実行できるのです。しかし、この軍区制には次の2つ
の問題点があります。
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1.軍区が軍閥化しやすいこと
2.中央にとっては脅威になる
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軍区は地域に密着しており、政治性の強い組織です。当然、地
域から人を登用し、軍人に育てるということも当然行われます。
また、利権の温床になりやすいのです。したがって、どうしても
派閥が形成されやすくなります。司令の権限は軍事限定ですが、
小さな国のようなまとまりを持つ可能性もあります。これが問題
点「1」です。
この7大軍区制は、国境からの敵の侵入を防ぐのには有効だっ
たのですが、現在の中国に国境線からの侵入のリスクはほとんど
ないのです。最大の脅威であったロシアとの国境線の問題も既に
解決しているからです。
中国が現在想定する戦争は、南シナ海や東シナ海での外敵との
空海軍やミサイル部隊による戦闘と、テロや内乱などの非対象戦
闘です。これには軍区制ではほとんど対応できず、軍区の強い政
治性は、軍隊を一本化するとき、スムーズにいかない原因になり
ブレーキになります。
それに軍区が導入されてから70年近くになるので、中央のコ
ントロールが効かなくなりつつあります。これは中央にとって、
大きなリスクになるといえます。これが「2」の問題点です。
江沢民元主席は、これらの7大軍区をうまくまとめ、その上に
君臨した国家主席です。そのため、胡錦濤氏が国家主席になって
も、江沢民主席は、軍をコントロールする権限は手放さなかった
のです。しかし、胡錦濤主席は、軍区制は時代遅れであるとして
その改革に取り組んだのですが、軍区は陸軍の利権であって、強
い抵抗に遭い、改革は失敗に終わっています。
その軍制改革を習近平主席は、胡錦濤時代から、周到な計画の
下に実施したのです。その軍制改革の骨子は、次の4つです。
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1.軍区制を廃止して、戦区制(戦略区制)にする
2.軍令と軍政を分離し、軍の司法機構を一新する
3.30万人の兵力を削減し、200万兵力にする
4.軍の「民間向け商業活動」を全面的に廃止する
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「1」について考えます。
戦区制とは、米軍の統合軍がモデルです。戦略・作戦目的ごと
に、陸、海、空軍の統合軍が設置され、指揮系統も統合作戦指揮
系統が置かれるのです。具体的には、かつての7大軍区を次の5
戦区に編成されたのです。
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1.東 部戦区 ・・・ 本部は南京。日本や台湾方面での紛
争発生に対して対応する戦力
2.南 部戦区 ・・・ 本部は広州。南シナ海やシーレーン
の安全の確保を想定した戦力
3.北 部戦区 ・・・ 本部は瀋陽。ロシアと北朝鮮方面で
軍事衝突などに対応する戦力
4.西 部戦区 ・・・ 本部は蘭州。中央アジアのイスラム
過激派テロ活動に備える戦力
5.中央部戦区 ・・・ 本部は北京。首都である北京とその
周辺地を警護するための戦力
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中国は2016年から「ロケット軍」や、サイバー攻撃・宇宙
空間の軍事利用を担う「戦略支援部隊」を創設しています。そし
て、陸軍を海軍・空軍と同列の扱いとし、中国共産党が直接作戦
指揮を行えるようにしたのです。これにより、習近平政権の統制
力はさらに高まったといえます。
習主席は「各戦区には平和を維持し、戦争に勝つ使命がある」
といっていますが、まるで戦争に勝てる強軍があってこそ平和が
実現できると考えているようです。このように、習主席は、いつ
でも戦争ができるよう、軍制を改革し、着々と権力を自分に集中
させつつあります。「2」から「4」については明日のEJで述
べます。 ──[米中戦争の可能性/014]
≪画像および関連情報≫
●習近平と中国軍の対立/国家主席に従わない人民解放軍
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習近平主席と中国軍は外から見ると強固な関係で、習の独
裁あるいは軍と一体化しているようにも見える。だが実際に
は、中国人民解放軍には習近平への不満が渦巻いており、機
会があれば失脚させようと狙っている。
まず中国人民解放軍について理解する必要があるが、この
軍隊は中国という国家に所属してない。法律では中国共産党
に所属する私兵なので、国家主席だろうと最高指導者だろう
と、軍に命令する事はできない。これは、清国が辛亥革命に
よって倒れたあと、国民党が政権を握り後で共産党が誕生し
た経緯に原因が求められる。
「一つの中国」の中で国民党軍と共産党軍が内戦をしてい
るのだから、国家に所属する軍隊など敵に寝返りかねない。
中国に近代国家としての正規軍が存在せず、共産党に所属す
る私兵だという事は、党内の派閥や軍閥が強い力を持ってい
る。習近平が人民解放軍を動かせるのは、「共産党中央軍事
委員会主席」という地位に就いているからで、中国の国家主
席だからではない。1982年に重要な憲法改正が行われ、
「軍事委員会主席が軍を統率する」から「軍事委員会が軍を
領導する」に変わっている。比較すると以前は、主席(毛沢
東)個人に指揮権があったのに、現在は委員会が統率して指
導するとなっていて、権限が縮小されている。これは恐らく
毛沢東時代の独裁が経済や軍事に悪影響を与えた事から、最
高指導者の権限を縮小したのでしょう。
http://bit.ly/2jLUHps
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中国の軍制改革/5大戦区