で、米国のオバマ大統領と中国の習近平国家主席の間で米中首脳
会談が行われたのです。そのとき、習国家主席は終始悠然と勝者
としての笑みを浮かべていたのに対し、オバマ大統領の表情は極
めて厳しかったといいます。
本来APECは、米国がアジア太平洋の盟主として振る舞う外
交舞台であったはずです。これまでオバマ大統領は、経済のTP
Pと軍事の米軍アジア・リバランスという、二重の中国包囲網を
敷いて、中国をおさえてきたのですが、次の大統領の座を反TT
Pを唱えるトランプ氏に奪われ、意気消沈していたようにみえた
というのです。
おそらく習国家主席は、意気消沈しているように見えるオバマ
大統領を見て、中国の偉大な復興を果たす以前に国家主席が交代
するようなことがあるとその目的を果たすことは困難になる──
そのためには、終身でも国家主席を続けられる制度の改正が必要
であるという確信を抱いたものと思われます。
中国では、国家主席ポストに「3選禁止」の規定があります。
それからもうひとつ「69歳定年」の規定もあるのです。つまり
中国の国家主席ポストは5年ごとの2期10年までしかできない
ことになっているのです。
習近平氏は、2017年の党大会で2期目に入り、2022年
にその任務は終了します。そのとき習近平氏は、69歳になるの
で、定年に達することになります。習主席は、この「3選禁止」
と「69歳定年」の両方の規定を改正し、終身国家主席のボスト
にい続けるという野望を抱いているのです。
そのため、習近平氏は、2016年1月から自らを「核心」と
する運動を起こし、10月の党第18期中央委員会第6回全体会
議(六中全会)のコミュニケのなかで「核心」の呼称が確認され
ています。この「核心」とは、任期のない「党の最高指導者」の
ことを意味しています。
しかし、習近平氏の野望の実現は極めて困難です。なぜなら、
中国には、数々のチャイナ・リスクがあるからです。本来中国共
産党は、農民や労働者の党であったはずなのに、いつの間にか資
本家・プチブル層の利権組合になってしまっています。これには
政治改革を断行するしかないのです。
それに、いつクラッシュしても不思議ではない深刻な経済リス
クもあります。経済崩壊を避けるために、習政権も2014年に
は「新常態/ニューノーマル/低成長経済の容認」を打ち出し、
「痛みに耐えて改革を進める」ことを宣言したはずなのに、結局
は7%成長路線にこだわり、無謀きわまる大型公共投資と財政出
を現在も続けている始末です。
もうひとつ習政権には巷で噂されている懸念もあるのです。そ
れは「五輪9年ジンクス」です。専制国家(軍事政権を含む)が
オリンピックを開催すると、その9年前後に体制崩壊が起きると
いう、いわゆる一種の都市伝説です。例を3つ上げます。
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1.1936年/ベルリン五輪
2.1980年/モスクワ五輪
3.1988年/ ソウル五輪
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「1」は1936年の「ベルリン五輪」です。
これは、いわゆるヒットラーのドイツが開催したオリンピック
です。当初ヒットラーはオリンピックはユダヤの祭典であるとし
反対していたのですが、プロパガンダとして使えると判断し、ド
イツが国の総力を挙げて取り組んだオリンピックです。
しかし、その9年後の1945年、ヒットラー率いるナチス・
ドイツは崩壊しています。
「2」は1980年の「モスクワ五輪」です。
これは、冷戦下において、ソ連の首都モスクワで行われたオリ
ンピックです。しかし、1979年12月に起きたソ連によるア
フガニスタン侵攻の影響を受けて、集団ボイコットが起きたオリ
ンピックでもあったのです。
しかし、その9年後の1989年に東西冷戦構造が崩壊し、そ
の2年後の1991年に旧ソ連が解体されています。
「3」は1988年の「ソウル五輪」です。
これは、韓国最後の軍人出身大統領の盧泰愚政権下で、韓国の
首都ソウル特別市で開催されたオリンピックです。前回のロサン
ゼルス五輪では東側陣営が、前々回のモスクワ五輪では西側陣営
がボイコットしたので、ソウル五輪は、12年ぶりにアメリカと
ソ連の二大大国の揃ったオリンピックになったのです。
しかし、その9年後の1997年に元民主化運動家の金大中政
権という純然たる民主主義政権が誕生しています。さらに同年、
タイを中心にアジア通貨危機が起こり、韓国はそれに巻き込まれ
て、国家存亡の危機を経験しています。
どうして、オリンピック後に体制崩壊が起きるのかについて、
福島香織氏は、自著で次のように述べています。
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五輪という平和と自由、民主を象徴するような国際的スポーツ
大イベントが開催されると、多くの海外観光客が専制国家を訪れ
ることになり、その民間交流の結果、大衆が民主主義的な普遍的
価値観に目覚めはじめる。その一方で、五輪運営にかかった莫大
な費用のツケによって財政が悪化し、政権の弱体化が起きてしま
い、体制の転換が起こりやすい、という理屈らしい。
──福島香織著/『赤い帝国・中国が滅びる日
/経済崩壊・習近平暗殺・戦争勃発』/KKベストセラーズ
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今年は、奇しくも北京オリンピックからちょうど9年目に当た
ります。多くの制度的矛盾を抱える中国には、何が起きても不思
議ではないのです。果たして習近平政権は無事に2期目に入るこ
とができるでしょうか。 ──[米中戦争の可能性/007]
≪画像および関連情報≫
●習近平氏は「中国共産党の核心」/THE HUFFINGTON POST
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中国共産党の重要会議「第18期中央委員会第6回全体会
議(6中全会)」が4日間の日程を終えて、2016年10
月27日に閉幕した。会議で採択されたコミュニケでは、習
近平国家主席を「党中央の核心」と位置付けた。コミュニケ
は、人民日報系のニュースサイトである「人民網」などで発
表された。
コミュニケでは、習氏が「率先して党の管理強化を全面的
に推し進め、党内政治を浄化し、民心を獲得した」として、
厳しい汚職摘発が「民心を勝ち取った」と評価。習氏の指導
力をアピールするものとなった。これまで中国共産党におい
て、最高指導者を「核心」と呼ぶ表現は毛沢東、ケ小平、江
沢民の3氏にしか用いられていない。前国家主席の胡錦濤氏
の時代は集団指導体制を重んじていたこともあり、「核心」
という表現は使われなかった。
党中央機関の決定を経て「核心」となったことで、習氏へ
の権力集中がさらに進んだことになる。2017年秋には指
導部メンバーの大幅な交代が予想される党大会を控えており
人事でも強い主導権を握ることになるとみられる。
http://huff.to/2j1WDXZ
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APEC(リマ)/米中首脳会談