2017年01月05日

●「ミアシャイマー教授の3つの仮定」(EJ第4432号)

 なぜ、既存の覇権国家と新興国家の間では、なぜ戦争が起きる
のでしょうか。
 これについて、シカゴ大学のミアシャイマー教授は、有名な次
の自著のなかで、説得力のある理論を展開しています。
─────────────────────────────
       ジョン・J・ミアシャイマー著/奥山真司訳
  『大国政治の悲劇/米中は必ず衝突する!』/五月書房
─────────────────────────────
 ミアシャイマー教授は、覇権国家と新興国家の間で戦争が起き
る理由について、次の3つの仮定を立てています。
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   1.世界には国家を取り締まる組織は存在しない
   2.すべての国家は戦争のための兵器を増強する
   3.他国の真意を知るのはほとんど不可能である
─────────────────────────────
 「1」の仮定について考えます。
 国内で不当に誰かから攻撃を受ければ、国家権力の組織である
警察が出動します。そうであるからこそ、多くの場合は、その抑
止力で攻撃を受けないで済んでいるともいえます。
 しかし、国家がどこか別の国家から不当に攻撃された場合には
基本的にはその持っていきどころがないのです。国連があるじゃ
ないかという人もいますが、5つの常任理事国がその理念にもか
かわらず、それぞれ国益で動くので、国家を取り締まる「世界の
警察」として機能していないのです。つまり、無政府状態である
といえます。米国は世界の警察であるといいますが、米国も自ら
の国益で動くので、世界の警察であるはずがなく、当然のことな
がら、米国はそのような義務も負っていないのです。
 「2」の仮定について考えます。
 「1」で述べたように、世界体制は無政府状態なので、すべて
の国家は、武装──戦争のための兵器を増強します。基本的には
自衛のためです。しかし、ときとして、危険な拡大スパイラルが
起きるのです。いわゆる軍拡競争です。ミアシャイマー教授は、
これを「安全保障のジレンマ」と呼んでいます。それは、次のよ
うな意味です。
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 安全保障のジレンマとは、他国に対する脅威を感じた結果とし
て行われる軍拡ないし同盟強化の対応が、その当該他国の自国へ
の脅威認識を高め、結果としてさらに当該他国の軍拡ないし同盟
の強化をもたらす。防衛のための軍拡ないし同盟強化は他国への
脅威になることから、負の連鎖として軍拡競争や同盟強化競争が
続くこと。              http://bit.ly/2i1jRwB
─────────────────────────────
 「3」の仮定について考えます。
 現在、中国は驚くべきペースで軍備を拡張しています。かつて
の驚異的経済成長で得た富を軍事費に注ぎ込んでいるのです。ま
るでどこかの国との戦争を急いでいるようです。その意図は世界
の誰にもわからないのです。これについて、ミアシャイマー教授
は次のように述べています。
─────────────────────────────
 米中の今後の行動を正しく予測するためには、「取り締まる者
のいない世界には、できる限り強大な国になりたいという強い動
機が存在するのだ」と理解することが必要だ。その理由は、台頭
する他国が自国に悪意を持っていないかどうか、どの国も決して
確信が持てないからだ。だから、近隣に非常に強大で敵意を持っ
た国があれば(ドイツ帝国やナチス・ドイツや大日本帝国などを
想像してみるといい)、各国はそれよりも遥かに強大なカを貯え
て安心したいと思うようになる。相手が荒っばい振る舞いに出て
も、国家以上の権威を持った存在が助けに来てくれるわけではな
いのだから。したがって、取り締まる者のいない世界体制の中で
安全を保障する最良の方法は、その地域の覇権国家になり優位に
立つことで、どこからも攻撃されないようにすることなのだ。
       ──ジョン・J・ミアシャイマー著/奥山真司訳
    『大国政治の悲劇/米中は必ず衝突する!』/五月書房
           ──ピーター・ナヴァロ著/赤根洋子訳
        『米中もし戦わば/戦争の地政学』/文藝春秋
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 中国はアジアの覇権国家になることを目指し、軍事大国になろ
うとしています。なぜ、そうするのかといえば、アジアで軍事大
国になれば、どこからも攻撃を加えられることはないからです。
また、その軍事大国になる仮定において、少々荒っぽいことをし
ても、その軍事力を恐れて、正面切って中国を非難できないと考
えているようです。それは、南シナ海の人工島の建設や、わが国
の固有の領土である尖閣諸島への度重なる傍若無人な領海侵犯に
よくあらわれています。
 しかし、戦争というものは、為政者の判断ミスや偶発的な事件
によって起こされるのです。中国の軍事力拡大や他国への領海侵
犯、仲裁裁判所の裁定に反する人工島の建設などによって関係国
間に緊張が高まるなかにおいて、ちょっとした偶発事件によって
戦争に発展するのです。ちょうど、オーストリア皇太子フランツ
・フェルディナントの暗殺事件がきっかけになって、第1次世界
大戦が起きたようにです。したがって、戦争はいつ起きても不思
議ではないのです。
 中国の意図を知るには、現在の中国のことをわれわれはもっと
知る必要があります。習近平国家主席という人物はどのような政
治家なのか、中国共産党内部の権力闘争はどうなっているのか、
中国の経済の状況は本当のところ、どのような状態なのか、知る
べきことはたくさんあります。
 これらについては、連載を進めながら、専門家の情報も参考に
しながら、丁寧に探っていきたいと考えています。
             ──[米中戦争の可能性/002]

≪画像および関連情報≫
 ●e─論壇/百花斉放
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   ジョン・ミアシャイマー・シカゴ大学教授は12月11日
  来日し、日本国際フォーラム、明治大学、西シドニー大学お
  よび、グローバル・フォーラム共催の日・アジア太平洋対話
  「パワー・トランジションの中のアジア太平洋:何極の時代
  なのか」を皮切りに、同志社大学、NSC、外務省、防衛省
  東京財団フォーラムでの討論後、日本国際フォーラムの「外
  交円卓懇談会」で活発な意見交換後、12月20日に離日し
  た。その強烈な個性と「攻撃的現実主義」と呼ばれるリアリ
  ズムで日本を揺さぶったが、国際摩擦を強める中国に対し、
  理論面から日米同盟の強化を主張する点で、極めて有意義だ
  った。伊藤剛明治大学教授と共に、教授の招聘を主導した小
  生としては、大きな満足であった。
   ミアシャイマー教授の理論は、国際システムの基本につい
  て(1)国際政治システムは、国家を構成要素とするアナキ
  ーである、(2)全ての国家は攻撃的軍事力を持つ、(3)
  国家は他国の意図(特に将来の意図)を知ることができない
  (4)国家は生存のため覇権を目指すの4点を指摘する。だ
  が、国家にとって直ちに世界覇権を獲得することは無理なの
  で、とりあえずは地域覇権の獲得を目指す。地域覇権を獲得
  すると、国家は、その地域での行動の自由を確保し、他の地
  域にも干渉し、そこでの覇権国の出現を防ぐものとされる。
                   http://bit.ly/2iYSGqa
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ミアシャイマー/シカゴ大学教授.jpg
ミアシャイマー/シカゴ大学教授
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 米中戦争の可能性 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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