2007年06月11日

●テレビから姿を消したリチャード・クー(EJ第2098号)

 2006年11月16日に亡くなった米国のノーベル経済学賞
受賞学者、ミルトン・フリードマン氏は、2002年1月に、日
本経済復活への処方箋として、次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 景気刺激のために財政政策を発動すべきではない。この10年
 間、日本は金融政策より財政政策に頼りすぎた。要らない橋を
 建設し、開通しても誰も喜ばない道路作りに邁進してきた。
                ――ミルトン・フリードマン
 2002.1.14日号『日経ビジネス』コラム「時流超流」
―――――――――――――――――――――――――――――
 こういう趣旨の発言を小泉政権のとき、多くのエコノミストや
コメンテーターがテレビでさかんにいっていたのです。この種の
発言をいつも聞かされていると、確かに無駄は良くないし、財政
赤字の規模も巨大化して、いつ破綻が起きてもおかしくない――
常識的には誰でもそう考えるものです。
 したがって、小泉首相が国債発行額を毎年30兆円以下に抑え
るという公約を打ち出したとき、まさにその通りだと多くの人は
賛同したのです。そういうなかにあって、リチャード・クー氏は
どのようにしたら日本経済は回復するかとの問いに対して、一貫
して財政出動の重要性とペイオフの延期を説いたのです。
 世の中全体が財政赤字を気にしているときに、さらに財政支出
を増やせといっているのですから、この人少しおかしいんじゃな
いのと思う人が増えて当然です。世の中全体が長いものに巻かれ
てしまったのです。
 そうなると、テレビ局はクー氏を経済のコメンテーターとして
使わなくなったのです。そして小泉政権が発足して数年経つと、
前政権と前々政権のときは経済番組には解説役やコメンテーター
として必ずといってよいほど登場していたクー氏は、ほぼ完全に
テレビから姿を消してしまったのです。しかし、クー氏の主張は
本当に間違っていたのでしょうか。
 クー氏が経済回復の方法として、「財政出動」と「ペイオフ延
期」を主張した根拠は、70年前の米国の経済事情と違っている
ことがその2つだったからといっていっているのです。
 日本は不況の入り口において小渕政権から森政権にかけて大き
な財政出動をやっているのに対し、1930年代の米国の場合、
フーバー大統領は株が暴落しているのにまったく財政出動をやら
なかったので、傷口を大きく広げてしまったのです。
 株の暴落で損をしている人がいるからといって、何で国が財政
出動をしなければならないのかというのがそのやらない理由だと
いうのです。フーバーは立派な人物だったようですが、これでは
経済のことがまったくわかっていないといっても過言ではないと
思います。彼は今でいう構造改革論者なのです。
 しかし、日本はその財政出動をやっていたために、デフレギャ
ップが問題化するのを回避できたのだとクー氏はいうのです。数
字の例でいうと、所得1000円の10%の100円――つまり
貯蓄に回る分が問題化するのを防いだということです。
 これに対して1930年代の米国では、財政出動をしなかった
ために、所得1000円が全部使われずに900円になり、それ
が810円、730円と、経済の縮小化が進行し、わずか4年で
米国のGNPは半分になってしまったのです。
 もうひとつクー氏が主張した「ペイオフ延期」――1930年
代の米国には預金保険機構という制度はなかったのです。ですか
ら、銀行が倒産したら預金はまったく保護されなかったのです。
1929年から1933年の間に約1万の米国の銀行が倒産した
のです。当時銀行は2万5000あったので、3分の1以上の銀
行が倒産し、預金者保護ができなかったのです。
 ですから、クー氏としては不況の傷口を広げないためにもペイ
オフをあわててやる必要はないと説いたのです。日本の場合、銀
行問題が表面化したのは1997年の橋本内閣のときです。後年
橋本首相は米国のフーバー大統領と並び称されますが、そのとき
橋本政府はペイオフを延期し、預金の全額保護を明言しているの
です。これが結果として日本を救ったことになります。
 日本の場合、GDP3年分の資産価値が失われ、そのかなりの
部分が銀行に集中したので、1930年代の米国の銀行が被った
被害よりもはるかに大きかったのです。しかし、政府の「預金全
額保護宣言」によって、極端な預金異動が起こらずに済んだので
す。その結果、日本は数100兆円単位の危機を回避できたとい
えるのです。もし、米国のように3分の1の銀行が潰れていたら
国民や政府は、それこそ数100億円以上の損失と支出を強いら
れた可能性が高いからです。
 「顕在化した危機に取り組み、危機から脱出させた人は英雄に
なれるが、危機を事前に察知し、危機が起こらないようにした人
は英雄になれない」という言葉があります。
 危機が実際に発生して多くの人が被害を受けてから、それに取
り組んで破滅から救う――そういう人は英雄になれます。現在で
は、小泉――竹中コンビがそれを行ったようにとられる向きがあ
りますが、これは間違っています。彼らは状況が改善されること
を遅らせただけであり、むしろ状況を悪化させています。
 しかし、事前に危機が来ることを察知し、危機が起こらないよ
うにした人は英雄になれないのです。危機が起こってしまうより
も回避した方がいいに決まっていますが、それをやった人は英雄
になれないのです。
 首相自身が承知してやったかどうかはともかく、橋本内閣は財
政再建を目指して構造改革を行おうとしたのですが、銀行問題で
はペイオフを延期し、「預金全額保護」を約束しています。そし
て次の小渕内閣では巨額の財政出動をして、その後に起こる可能
性のあった大きな危機を結果として救ったのです。
 いずれにしても、ミクロの世界ではマイナスと思えることが、
マクロ経済ではプラスであることが少なくないのです。これにつ
いては明日考えましょう。  −―[日本経済回復の謎/07]


≪画像および関連情報≫
 ・ミルトン・フリードマン
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  ミルトン・フリードマン(Milton Friedman) は、ニューヨ
  ーク生まれの経済学者。20世紀後半の主要な保守派経済学
  者の代表的存在で、戦後、貨幣数量説であるマネタリズムを
  蘇らせ反ケイジアンの宗主として今日の経済に多大な影響を
  与えた経済学会の巨匠。       ――ウィキペディア
  ―――――――――――――――――――――――――――

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posted by 平野 浩 at 04:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本経済回復の謎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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