2016年10月13日

●「米国の独立戦争には特殊性がある」(EJ第4379号)

 今回の米大統領選挙の結果、民主党のトランプ候補が勝つにせ
よ、トランプ候補が勝つにせよ、日本にとっては同盟国である米
国にどのように向き合うべきかが問われることになります。
 日本人はそういうことを今まであまり真剣に考えてこなかった
と思うのです。しょせんは他国の選挙であり、どちらが勝っても
アメリカには変わりがないと思ってきたからです。
 しかし、今回の選挙では、ドナルド・トランプ氏という異色の
候補が出てきて、「日米安保条約には不満がある」と明言し、そ
の見直しを示唆するなど、もしトランプ候補が大統領になると、
日本の安全保障に重大な影響が出る可能性が現実のものになりつ
つあります。つまり、今までのように、他国の選挙として傍観視
できないのが今回の米国の大統領選挙なのです。
 仮に大統領に選ばれるのがクリントン氏であったとしても、ト
ランプ氏のような候補が共和党の大統領候補に選ばれるというこ
と自体が、米国民のなかにはトランプ氏の主張を幅広く支持する
世論があることを意味しており、日本としてはそれに真剣に向き
合う必要があるからです。そのためには、米国の建国の歴史を少
し振り返ってみる必要があると思います。EJがこの時期に米国
を取り上げているのは、そういう理由からです。
 米国の独立戦争後から民主党が結成される1828年頃まで存
在していた政党は次の2つです。
─────────────────────────────
          1.フェデラリスト
          2. リパブリカン
─────────────────────────────
 米国の初代大統領は、ジョージ・ワシントンです。記録による
と、ワシントンの所属政党は「無所属」になっています。これに
対して、2代大統領のジョン・アダムズの政党は「フェデラリス
ト」です。フェデラリストとは何でしょうか。
 フェデラリストは「連邦派」と呼ばれており、アメリカ合衆国
憲法の制定過程で、連邦政府の権限を強いものにして、統一をは
かることを主張した人びとのことで、その後もアメリカ合衆国の
有力な党派として続いたのです。そういう意味では、初代大統領
のワシントンは無所属となっていますが、基本的には連邦派であ
るといえます。
 連邦政府の権限を強化する憲法の制定は、ワシントン政権のと
きのハミルトン財務長官らが中心となって進められたのです。そ
れは、強力な政府に指導される統一的な国家の形成をめざすもの
であり、その財政基盤としての商工業の発達を促そうというもの
であったので、商工業者の支持が強かったといいます。
 しかし、アンチ・フェデラリスト(反連邦派)といってこの連
邦政府の強大化に反対する勢力が出現したのです。3代大統領の
トーマス・ジェファーソンはアンチ・フェデラリストです。そし
て憲法の草案が発表されると、それこそ嵐のごとき大論議が巻き
起こったの起こったのです。
 この議論に対して、アレクザンダー・ハミルトン、ジョン・ジ
ェイ、ジェイムズ・マディスンらは、87年10月から88年5
月の間に85本の論文を書き、ニューヨークの新聞に発表し、そ
れは他邦の新聞にも転載され、88年春には『フェデラリスト』
として刊行される一大労作になっています。
 このアンチ・フェデラリストは、「リパブリカン」ないし「民
主共和党」と称され、実質的には、現在の民主党の先駆けとなっ
たのです。ウィキペディアの「歴代アメリカ大統領一覧」には、
民主共和党と記載されています。
 この党は、どちらかというと、フェデラリストが主張する強力
な中央政府よりも、州政府の権利を重視したのです。農業的利益
をはかること、王制を廃し共和制を樹立したフランス革命の正当
性を支持することを基本理念にしていたのです。
 ここで考えるべきことがあります。それは米国の英国の植民地
からの独立戦争は、通常の独立戦争とは異なるということです。
ある独立国が侵略国家に征服され、その国の植民地になったとし
ます。その植民地にされた国が独立する場合、過去の国家の正当
性を主張して、昔の国家の再現を図ろうとするケースが多いので
す。これは新しい国家の建設というよりも、あくまで独立の回復
なのです。
 しかし、米国の場合は征服された国家の再現ではないのです。
これについて、冷泉彰彦氏は、次のように米国の独立の特殊性に
ついて述べています。
─────────────────────────────
 これに対して、アメリカの独立戦争の場合は、国家の正統性を
証明する「過去」が全くなかった。ここにユニークな点がある。
独立以前のアメリカは宗主国英国の植民地であったが、その英国
が「侵略」する以前に、この地に住んでいたのはアメリカ先住民
なのであって、独立を考え始めた植民地人ではなかった。そして
英国からの入植者とその子孫からなる植民地人としては、先住民
国家の正統性を継承するという考えは皆無であったから、独立と
いっても過去の国家の復元という意味合いを持たなかったのであ
る。           ──冷泉彰彦著/日本経済新聞社刊
          『民主党のアメリカ/共和党のアメリカ』
─────────────────────────────
 アメリカ大陸には、ヨーロッパ人はいなかったのです。先住民
としてインディアンが住んでいただけです。そこで、大航海時代
になって、ヨーロッパの国々がこぞってアメリカへと渡っていく
ことになります。スペイン、フランス、オランダ、スウェーデン
もアメリカに進出して、植民地をつくったのです。
 そして、最後に英国が進出したのです。そして、18世紀の幾
度にもわたる戦争の結果、その地をほぼ手中に収めたのが、英国
だったのです。しかし、英国はフランスとも戦争をしており、国
家財政は破綻の一歩手前に来ていたのです。そこで植民地は英国
の重税に喘ぐことになります。[孤立主義化する米国/064]

≪画像および関連情報≫
 ●アメリカは最初からイギリスのものだったわけではない
  ───────────────────────────
   アメリカ合衆国が元々イギリスの植民地から始まった国で
  あるということ(もともとは先住民の大地であること)は皆
  さんご存知の通りですが、実はその前にはいろいろな国が取
  り合いをしていた地域でした。これはお隣のカナダも同じで
  すね。最終的に戦争に勝って利権を獲得したのはもちろんイ
  ギリスですけども、その頃には新たな問題が発生してしまい
  ます。
   当時イギリスは北米大陸だけでなく、インドを植民地化す
  るための戦争やスペインとのすったもんだなど、いくつかの
  ドンパチを立て続け・並行して行っていた時期でした。その
  ため、あっちでもこっちでも多額の費用が必要になり、その
  穴埋めに新たな課税をするハメになってしまったのです。国
  内はもちろん、新たに加わったアメリカ13州(以下13植
  民地)もその例外ではありません。
   ここで、13植民地特有の事情が絡んできます。13植民
  地が他の植民地と決定的に違うのは、現地住民を征服したの
  ではなく、新たに移り住んだ人々の土地であったということ
  です。簡単に言えば白人がたくさんいたということになりま
  すね。そのためか、他の植民地と比べて税金が低く、イギリ
  ス本国内と比べてもかなり優遇されていました。
                   http://bit.ly/2dTtOxd
  ───────────────────────────

アレクサンダー・ハミルトン.jpg
アレクサンダー・ハミルトン
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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