2016年09月27日

●「テポドン2改はミサイルではない」(EJ第4368号)

 拉致問題があるので当然ですが、日本人は北朝鮮という国に対
して好意を持っていません。そのせいか「北朝鮮は経済が深刻で
そのうち崩壊するだろう」という希望的な予測をしている向きも
少なくありません。
 そして北朝鮮のミサイル・核技術についても、「たいしたこと
はない。核の小型化などはまだできていないだろう」と、北朝鮮
の核技術を低く見て、きわめて楽観的な観測をしている人はたく
さんいます。
 これらは、いずれも正しくないのです。そのうち崩壊するだろ
うと予測している北朝鮮の経済は一向に崩壊しそうにないし、少
なくとも平壌では、以前に比べると比較にならないほど、生活水
準は向上しているようにみえます。北朝鮮の経済は中国との一体
化が進み、国内では人民元が流通しているといわれます。
 北朝鮮のミサイルや核技術は実は高度に発達しているのです。
もちろん核の小型化も進んでおり、核ミサイルを発射する能力は
十分あるといえます。実は米国は早くからそれらの情報を正確に
掴んでいるのですが、その報道はきわめて控え目です。したがっ
て、本当のことは日本のメディアは気づかないでいます。
 北朝鮮の核ミサイル技術のレベルを知るには、ロケットや核兵
器について正確な知識が必要です。昨日のEJでテポドン2を取
り上げ、射程1万キロメートルのテポドン2が成功すると、ハワ
イにある米軍基地も核攻撃の対象になると書きました。
 このこと自体は正しいのですが、テポドン2は液体燃料を使う
ので、高さ67メートルの塔を2週間以上かけて、衆人環視のな
かで組み立て、2016年2月4日に液体燃料の注入を開始し、
3日後の7日に発射しています。そんなことをしていたら、塔を
組み立てる段階で敵の航空攻撃で破壊されてしまいます。
 そんなことは北朝鮮は百も承知です。だからこそ北朝鮮は「人
工衛星の打ち上げである」といっているのです。ところが日本で
はそのように受け止めず、あくまで弾道ミサイルの飛翔実験であ
ると考えています。
 これについて、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が「ダイヤモ
ンド・オンライン」で解説しているので、以下、田岡氏の主張を
要約して述べます。田岡氏の主張の結論は次の通りです。
─────────────────────────────
 北朝鮮が発射したテポドン2はその改良型であるが、ミサイ
 ルではない。    ──軍事ジャーナリスト/田岡俊次氏
─────────────────────────────
 北朝鮮は、2016年2月7日、午前9時30分、北朝鮮黄海
岸、東倉里(トンチャンリ)付近の「西海衛星発射場」から、テ
ポドン2改良型のロケットを発射し、地球観測用の人工衛星「光
明星4号」の打ち上げに成功したと発表しています。
 ところが、日本のメディアは、次の表現を使って、このことを
伝えています。
─────────────────────────────
     衛星打ち上げと称する長距離ミサイル発射
─────────────────────────────
 田岡氏は、これは文字通りテポドン2改良型というロケットに
よる衛星の打ち上げ実験であって、ミサイルの発射ではないと主
張しています。実際に、地球周回軌道に2つの物体が乗っている
のです。そうであるとすると、日本のメディアの論法でいうと、
「衛星打ち上げと称する長距離ミサイル発射で人工衛星打ち上げ
に成功」という複雑な表現になってしまいます。田岡俊次氏はこ
の表現について次のように反論しています。
─────────────────────────────
 「弾道ミサイルと衛星打ち上げロケットは技術的には同一」と
の報道もよくあるが、これは、「旅客機と爆撃機は基本的には同
一」と言うレベルの話だ。ICBM(大陸間弾道ミサイル)が登
場して60年近くの間にロケット、ミサイル技術が進歩し、分化
が進んだ今日では「即時発射」を必要とする軍用のミサイルと、
準備に時間が掛かっても大推力で大型の衛星を上げたい衛星用ロ
ケットでは大きなちがいがある。    http://bit.ly/2dsRvNb
─────────────────────────────
 つまり、現在のミサイルの技術は、どこまで飛翔するかではな
く、いかに相手に悟られずに即時発射できるかどうかが問題なの
です。つまり、燃料の問題に移っているのです。燃料をタンクに
填めたまま待機でき、即時発射が可能な「貯蔵可能液体燃料」の
開発やさらに維持が容易でキーを回せば発射できる「固体燃料」
の長距離ロケットの開発の問題なのです。
 もっとも、北朝鮮の場合は、人工衛星打ち上げ用のロケットで
あっても、核実験と交互にやるなど、あくまで核ミサイルの発射
実験とみられ、「弾道ミサイル技術を使用したいかなる発射、核
実験をこれ以上実施してはならない」とする国連安保理決議20
87などの何回もの決議に違反することになるので、非難されて
しかるべきですが、北朝鮮がきちんと国際的な手続きを踏んでい
れば本来は問題はないのです。
 日本のマスコミは、北朝鮮を非難しようとして、人工衛星用ロ
ケットをあえて「ミサイル」と強調していますが、それは正しく
はないと田岡氏はいっているのです。核弾頭を運ぶ弾道ミサイル
には次の2つの大きなカベがあります。
─────────────────────────────
     1.固体燃料による3段ロケットの開発
     2.再突入時に弾頭を熱から守る耐熱性
─────────────────────────────
 これら2つのうち、北朝鮮は「1」についての研究は相当進ん
でいるとみられています。「2」についても最近はほぼ垂直に向
けてロケットを発射する実験を繰り返しており、2つのカベの克
服は着実に進んでいると見られます。北朝鮮のミサイルと核技術
は、われわれが想像以上に進んでいるのです。
            ──[孤立主義化する米国/053]

≪画像および関連情報≫
 ●中国とロシアが北朝鮮にミサイル技術供与している
  ───────────────────────────
   ロシアと中国は、表向き北朝鮮の核とミサイル開発を非難
  しているが、その実、開発技術を供与している。旧ソ連つま
  りロシアの技術者が北朝鮮にスカウトされ、最初のミサイル
  開発が始まったのは分かっている。
   スカッドミサイルや初期のノドンがこれにあたり、中東で
  イラクがイスラエルに使用したのと同じタイプです。その後
  「テポドン」という大型弾道ミサイルが開発されて、大陸間
  弾道弾や人工衛星打ち上げに使用されている。この技術もや
  はり旧ソ連のロケット技術者をスカウトして開発させたと見
  られている。いずれも共産体制が崩壊して軍縮が進み、失業
  した技術者を北朝鮮が雇ったので、ロシアは積極的には協力
  しなかった。
   だが最近、北朝鮮のロケット技術が急速に進歩し、とうて
  い自国だけの独自開発では不可能と思われている。2016
  年6月以降だけで移動式の中距離弾道ミサイル「ムスダン」
  水中発射可能な潜水艦搭載ミサイル、さらに精密誘導された
  新型「ノドン」の発射に成功している。特に奇妙なのが水中
  から発射された潜水艦ミサイルで、北朝鮮は潜水艦を一隻も
  持っていないのに、発射に成功している。
   1990年代から2000年代にかけて、北朝鮮は旧ソ連
  のスクラップ潜水艦を数十隻購入したのが分かっている。動
  作せず潜水もできないものだったが、このスクラップを解体
  して1隻のまともな潜水艦を完成させたという説がある。
                   http://bit.ly/2cWraIJ
  ───────────────────────────

田岡俊次氏.jpg
田岡 俊次氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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