2016年09月15日

●「アメリカ・ファースト思想の原点」(EJ第4362号)

 2016年3月27日付のニューヨーク・タイムズで、マギー
・ヘイバーマンは、トランプ氏に外交政策に関してインタビュー
しています。
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ヘイバーマン:もし、日本と韓国が著しく負担額を増加しなけ
       れば、そのような国から米軍を撤退させても構
       わないか?
  トランプ:はい、撤退させる。喜んでしようとは思わない
       が、撤退させても構わない。我々はこういうこ
       とに何10億ドルもの莫大なお金を失う余裕は
       ない。もうそんなことをすることはできない。
       そういうことができた時代もあったが、今はも
       はやできない。彼らはますます図に乗って要求
       水準をぐっと上げてくる感じがする。上げてく
       ると思う。彼らがもっと負担する額を増やさな
       ければ、米軍撤退に対してイエスと言わざるを
       得ない。          ──間高一希著
     『アメリカはなぜトランプを選んだか』/文藝春秋
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 トランプ氏は、日本だけでなく、ドイツについても、サウジア
ラビアについても軍隊を置くことに反対しています。とくに日米
安保条約については「興味深い」と皮肉をいい、その片務条約性
を批判しています。
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  我々が日本と結んでいる条約は興味深い。誰かが我々を攻
 撃したら日本は助ける必要がない。誰かが日本を攻撃したら
 我々は日本を助けなければならない。そういう条約が我々が
 結ぶ条約だ。 ──2015年9月3日号「エコノミスト」
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 この考え方はどこからきているかというと、「アメリカ第一委
員会」America First Committee にたどりつくのです。1940
年代の話です。この委員会を作ったのは、あのチャールズ・リン
ドバーグです。
 リンドバーグといえば、大西洋単独無着陸飛行の成功の偉業で
あまりにも有名です。飛行機の安全性が現代のように万全ではな
く、いつ墜落するかわからない時代に成功させていることで、リ
ンドバークは一躍英雄になったのです。
 1927年5月20日5時52分にリンドバーグは、スピリッ
トオブセントルイス号で、ニューヨーク・ロングアイランドのル
ーズベルト飛行場を飛び立ち、5月21日22時21分、パリの
ル・ブルジェ空港に着陸し、大西洋単独無着陸飛行に初めて成功
しています。
 そのリンドバーグが、なぜ、米国孤立主義者の団体、アメリカ
第一委員会を作ったのでしょうか。
 リンドバーグは共和党員だったのです。第2次世界大戦のさい
時の大統領ルーズベルトは英国のチャーチル首相の勧めもあって
参戦のチャンスを窺っていたのです。しかし、この委員会は参戦
に一貫して反対です。副島隆彦氏は、この間の事情について、次
のように述べています。
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 この「アメリカ・ファースト!」という言葉を初めて使ったの
は、空の英雄″チャールズ・リンドバーグである。リンドバー
グは飛行機乗りの花形で、当時の英雄だった。いつ墜落死するか
わからないものを恐れず乗り回したからだ。
 リンドバーグ(1902〜1974年)は、アメリカの第2次
世界大戦への参戦に反対した。このときに「外国のことに関わる
な」「アメリカ人の息子たちを外国の戦争で死なせるな」と言っ
て、この言葉を発した。彼が作った運動や団体と共に使われるよ
うになった。                ──副島隆彦著
      『トランプ大統領とアメリカの真実』/日本文芸社
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 トランプ氏のいう「アメリカ・ファースト!」、すなわち、外
国のことに関わるな、国内問題を優先せよという主張の根拠はこ
こにあります。1941年、ヨーロッパでは既に戦火が上がり、
英国も空襲を受けてその命運は風前の灯になっていたのです。そ
のため、英国のチャーチル首相は、米国の参戦をルーズベルト大
統領に働きかけたのです。
 リンドバーグは、アメリカ第一委員会として、各地で演説をし
て、絶対に参戦反対を主張します。第一次世界大戦では、米国は
ヨーロッパの無謀な戦争に参加して、多くの米国の若者が大勢命
を落としたではないか、なぜ再びヨーロッパの戦争に参加しなけ
ればならないのかと訴えたのです。1941年9月11日にリン
ドバーグは、アイオワ州デモインでの演説では、英国人とユダヤ
人がアメリカに連合国側への参戦を働きかけていると述べ、参戦
への反対を表明しています。「ヨーロッパの紛争に巻き込まれて
はならない」というジェファーソン初代米大統領の孤立主義の考
え方と同じです。
 この発言に対してユダヤ系の米国人は反発し、フランクリン・
ルーズベルト大統領は、リンドバーグのアメリカ陸軍航空隊での
委任を解除して、不快感を表明します。そして、1941年12
月8日未明の日本軍のハワイ真珠湾攻撃を受けて、米国は第2次
世界大戦に参戦したのです。
 ドナルド・トランプ氏の主張は、せんじつめると、このリンド
バーグの主張「アメリカ・ファースト!」に行きつきます。この
主張は、米国が世界に出て行って、世界中をカネと軍事力で支配
するグローバリズムに断固として反対しています。したがって、
反ユダヤ主義なのです。米国は世界中から引き揚げるべきである
という主張であり、それはイスラエル支援からの撤退、中東から
の撤退も意味しているからです。
            ──[孤立主義化する米国/047]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ「大統領」の外交・金融政策が日本を直撃
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   トランプの外交思想は、グリーンらが属するアメリカの主
  流派の外交サークルとは違う「アメリカ・ファースト」(米
  国国内問題優先主義、米国第一主義)と呼ばれる派閥に属す
  る。アメリカ・ファーストはアイソレーショニズム(孤立主
  義)とも訳されるが、さきのタイムズ紙のインタビューによ
  ると、これはトランプの好む表現ではないらしく、彼は積極
  的にのちの外交演説でも「アメリカ・ファースト」を使って
  いる。
   「アメリカ・ファースト」という言葉にはアメリカ政治文
  化に根付く古い歴史がある。これはもともとナチスが台頭し
  第二次世界大戦が欧州で勃発した後の1940年に、アメリ
  カが欧州の解放に参戦すべきだとする国際主義者の掛け声に
  たいして、「アメリカは欧州の事情に関わっている余裕がな
  い。大恐慌からの復興が先決で国内問題を優先すべきだ」と
  する立場の人々の集まりとして設立された「アメリカ第一委
  員会」に由来する。
   その代表格が飛行機乗りのチャールズ・リンドバーグだっ
  た。彼らはアメリカを欧州の戦争に巻き込まれないようにす
  るための平和主義者だった。同時にユダヤ人からはヒトラー
  に融和的な反ユダヤ主義を背景にしていると批判されたが、
  メンバーの中には確かにヘンリー・フォードのような反ユダ
  ヤ主義の疑いを持たれる人物もいたのは事実だ。
                   http://bit.ly/2cF2SPF
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チャールズ・リンドバーク.jpg
チャールズ・リンドバーク
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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