生まれで、米国の政治コメンテーターであり、78歳で現在も健
在です。かつてはリチャード・ニクソン大統領のスピーチ・ライ
ターであり、さらにジェラルド・フォード、ロナルド・レーガン
各大統領のシニア・アドバイザーも務めています。
ブキャナン氏は、1992年と1996年の2回の大統領選に
出馬していますが、1992年のときの主張が今回のトランプ氏
のそれに酷似しているのです。既出の会田弘継氏は、ブキャナン
氏の主張について次のように述べています。
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ブキャナンの主張を確認しておこう。それは「アメリカ・ファ
ースト(アメリカを第一に)」、貿易保護主義、移民排斥、日本
やドイツの核武装容認、NATO不要論、日米同盟廃棄!──。
どれをとっても、驚くほどトランプの主張と一致している。ブ
キャナンはニクソンのスピーチライターを務めた論客でカトリッ
クである。事業家のトランプと、出自の点で通底するものは特段
ない。ならばおよそ20年のときを隔てて、ふたりの主張がこう
も似通うのは何ゆえなのか。
ブキャナンは大統領選で、冷戦が終結したいま、アメリカがな
ぜ世界の安全保障の何もかも負わなければならないのか。世界の
警察官たらねばならない必要はどこにあるのか。いま、アメリカ
は故郷に帰るべきときである。そう主張をした。中南米系(ヒス
パニック)を対象にした排外的な移民政策と保護主義的貿易政策
を訴え、アメリカにはこれ以上他国から安い製品を入れさせない
し、外国に展開する軍隊も引き揚げさせる、と。──会田弘継著
『トランプ現象とアメリカ保守思想/崩れ落ちる理想国家』
左右社刊
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トランプ氏の政策がブキャナン氏のそれとそっくりなのは、2
人には接点があったからです。2000年にブキャナン氏は共和
党を離れ、第三政党である改革党に加わっていますが、そのとき
トランプ氏は大統領への野心を胸に改革党からの出馬も考えて、
ブキャナン氏に会っています。米国では、共和党と民主党を二大
政党、それ以外の政党を第三政党と呼んでいるのです。
改革党は実業家のロス・ペロー氏が創設した政党で、1996
年にはペロー氏自ら大統領選を戦うものの敗退し、2000年に
はブキャナン氏を擁立しています。
いわゆる「トランプ現象」と呼ばれる社会現象には、次の2人
の思想家の考え方が深く関わっている──会田弘継氏はこのよう
に分析しています。
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1. ドナルド・ウォレン
2.サミュエル・フランシス
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「1」のドナルド・ウォレンについて述べます。
ドナルド・ウォレンは社会学者であり、70年代に学生を動員
して当時の白人中間層に属する何百人もの人々に長時間のインタ
ビュー調査を行い、その調査結果を「ラディカル・センター」と
いう調査報告書にまとめたのです。
調査の対象になった彼らは、どこにでもいるごく普通のアメリ
カ人であり、右でもなければ左でもなく、金持ちでもなければ貧
乏でもなく、ごく普通の中間層です。しかし、彼らは不当に政府
から無視されており、どこにも持って行きようのない強い怒りを
秘めているのです。
ウォレンは彼らをミドル・アメリカン・ラディカルズ(MAR
S)と名づけ、彼らこそ米国政治を根底から揺さぶる「ラディカ
ル・センター」であると考えたのです。
グローバル化が進む最近の米国でMARSは、実質所得が減少
しつつあり、経済不安を抱えているのに、政府は金持ちと貧乏人
ばかりを大切にして、そのツケを払っているのは自分たちである
として、政治に大きな不満を持っているのです。
続いて「2」のサミュエル・フランシスについて述べます。
サミュエル・フランシスは米国の保守派の論客であり、かねて
から、白人中産階級を「疎外」する米国システムに疑問を持って
いたのです。フランシスは、ウォレンの調査に注目し、MARS
に働きかけるべきであるとブキャナン氏に提言したのです。
ブキャナン氏はそれを実行に移して行くのですが、そのときの
スローガンが次のフレーズです。
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アメリカ・ファースト(I'm 'America First.')
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これでわかるように、トランプ氏の主張は明らかにこのブキャ
ナン氏のそれをコピーしています。政治専門誌の「ナショナル・
ジャーナル」のベテラン記者のジョン・ジュディス氏はMARS
について次のように述べています。
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政府は金持ち階級と貧困階級だけを相手にし、「(下層)中産
階級は無視されている」という強い不信感を持つ。大企業は力を
持ち過ぎている、と感じ、政府には福祉政策や年金制度を、さら
には物価統制や就労・教育支援までやってほしいと思っている。
政府が嫌いなのか好きなのか、ないまぜの心理だ。
この中産階級ラディカルこそが、民主党の人種隔離廃止政策に
反対し、党を割って「アメリカ独立党」から1968年大統領選
に出馬したウォレス元アラバマ州知事を、また1992年や19
96年大統領選で共和党あるいは無所属(第3党)候補として旋
風を巻き起こしたブキャナンや富豪実業家ロス・ペローの支持母
体となった。そして今、トランプ旋風の原動力となっているのも
彼らだ、とジュディスは見る。 http://huff.to/2c2YhsO
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──[孤立主義化する米国/046]
≪画像および関連情報≫
●書評/パット・ブキャナン「超大国の自殺」/宮崎正弘著
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悪党どもの最後の砦、それは「愛国」と「民族」カードで
ある。尖閣を煽る共産党は自らの支配が最後のステージにあ
ることを自覚している。
パット・ブキャナン著「河内隆弥訳『超大国の自殺』」/幻
冬舎刊
「アメリカはもう死んでいる」とのっけから衝撃的発言が
連発される。アメリカの「緩慢な後退には、国益と、国民の
意思の不一致がみられる」(464p)。
ブキャナンといえば、ニクソンのスピーチ・ライターをつ
とめ、レーガン革命では保守思想の旗手として大活躍した。
しかもブッシュの弱腰中道路線をこっぴどく批判していたば
かりか、それでも収まらず1992年と96年には自ら大統
領選挙に出馬し、その予備選ではいくつかの州でトップか二
位をかざり、本命ブッシュが青ざめる。ともかく共和党主流
派を大いに脅かす存在となった。
その後も保守系雑誌で健筆をふるい、テレビのコメンテー
ターとしても大活躍、根強いファンがある。そのファンは日
本にも及んでおり、彼の論理的根拠は、その民族的アイデン
ティティの確立と歴史主義の尊重という立場、日本で言えば
石原慎太郎的であり、西尾幹二的であり、過激な傾向を帯び
ている点では中川八洋的でもある。かれはグローバリズムに
反対する国益最優先主義者でもある。
http://bit.ly/2cuJFmi
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パット・ブキャナン氏