2016年09月05日

●「トランプ氏とメキシコ大統領会談」(EJ第4354号)

 8月31日のことです。共和党の大統領候補のドナルド・トラ
ンプ氏は突如メキシコを訪れ、メキシコのペニャニエト大統領と
会談したのです。会談後の共同記者会見でトランプ氏は持論であ
るメキシコの壁に言及し、次のように述べています。
─────────────────────────────
 不法移民や武器の流入を防ぐため、両国国境間に壁を建設する
必要がある。これに関連して、北米自由貿易協定(NAFTA)
の見直しが必要である。      ──ドナルド・トランプ氏
─────────────────────────────
 この会議は、メキシコ大統領がプライベートにトランプ氏を招
待するかたちで行われたのです。会談でトランプ氏は、ペニャニ
エト大統領に次の趣旨のことを述べたとされています。
─────────────────────────────
 大統領の招待は光栄である。あなたを友と呼びたい。世紀の手
続きで米国に入国してきているメキシコ人はとても真面目であり
尊敬できる。しかし、不法移民の流入を防ぐ目的でメキシコとの
国境に壁を建設する必要がある。  ──ドナルド・トランプ氏
─────────────────────────────
 トランプ氏がいっていることには一理あります。メキシコ人を
目の敵にしているのではなく、メキシコからもぐり込んでくる不
法移民──イーガル・アライブが問題であり、それを何とかしな
ければならないからです。これらの不法移民は、メキシコ人以外
も含めて3500万人もいて、米国人の職を奪っていることは事
実だからです。
 しかし、トランプ氏はメキシコ大統領の前では、言葉を選んで
発言していますが、大統領選の演説では非常にストレートな表現
で次のように述べています。
─────────────────────────────
◎メキシコが自国民を送り込むとき彼らはベストな国民を送って
 こない。多くの問題を抱えている国民を送ってくる。彼らはそ
 の問題を持ち込んでくる。ドラックを持ち込んでくる。彼らは
 強姦魔だ。中には善良な人もいると思うが。
◎多くの人間が職につけない。仕事がないからだ。中国が我々の
 仕事を持っているからだ。メキシコが我々の仕事を持っている
 からだ。彼らはみんな我々の仕事を持っている。実際の失業率
 は18%から19%の問だ。ひょっとして21%にもなってい
 るかもしれない。誰もそのことを口にしない。ナンセンスに満
 ちあふれた統計だからだ。我々の敵国は日に日に強くなってい
 るが、我が国は弱くなっている。      ──間高一希著
      『アメリカはなぜトランプを選んだか』/文藝春秋
─────────────────────────────
 トランプ氏は、メキシコとの国境に壁を建設することについて
メキシコ大統領と議論したが、その費用を「誰が負担するかにつ
いては協議していない」と発言しています。
 トランプ氏のこの発言を知ったペニャニエト大統領は、早速ツ
イッターで、次のように反論したのです。
─────────────────────────────
 私はトランプ氏との会談の冒頭で、壁の建設費用は支払わない
と明確に伝えている。    ──ペニャニエトメキシコ大統領
─────────────────────────────
 このメキシコ大統領のツイッターをめぐってメディアは、トラ
ンプ氏を批判しています。トランプ氏は、国内ではいいたい放題
のことをいうが、その当事国に行くと、はっきり主張できないで
いる。だから、「内弁慶である」と書いています。実際にメキシ
コから帰りに直行したアリゾナ州フェニックスの集会でトランプ
氏は、演説で次のようにいっています。
─────────────────────────────
 私が大統領に選ばれたら、その初日に犯罪歴のあるメキシコの
不法移民の強制送還を実施する。  ──ドナルド・トランプ氏
─────────────────────────────
 トランプ氏は、壁の建設費用をメキシコに請求するのではなく
関税をかけて取り戻すといっています。だから、メキシコ政府が
支払わないといっても平気なのです。
 また、トランプ氏は、賃金の安いメキシコに米国企業の工場が
進出し、米国の雇用が奪われていることに苛立っています。しか
し、これは先進国であれば、どこの国でもあることで、仕方がな
いことなのですが、彼はそんなことはとんでもないことであり、
そういう企業をメキシコから呼び戻すとまでいっています。
 これに関してメキシコのペニャニエト大統領は、会談で強く反
論したといわれます。「北米自由貿易協定(NAFTA)の改定
が必要だ」とするトランプ氏に対し、ペニャニエト大統領は「仕
事が両国で失われることがないよう協力する必要があるが、NA
FTAが両国に利益にならないということにはならない。貿易は
ゼロサムゲームではない」と反論したのです。
 トランプ氏は予備選のときと何も変わっていないのです。本選
になれば、発言を修正してくると期待されていたトランプ氏です
が、ほとんど変化はないようです。トランプ氏はこれに関連して
次のように主張しています。
─────────────────────────────
 フォードは数週間前に25億ドルの自動車工場をメキシコに建
設すると発表した。世界最大の工場の一つになるそうだ。私が大
統領なら、時間を無駄にせず、すぐに親しいフォードのトップに
電話して言う。
 「おめでとう!」メキシコに25億ドルの工場を作って、そこ
で作った車をアメリカに売るということだけどそれはよいニュー
スだ。悪いニュースをお知らせしよう。その工場で作った、国境
を越えてくるどの自動車にも、どのトラックにも35%の関税を
かける。            ──間高一希著の前掲書より
─────────────────────────────
            ──[孤立主義化する米国/039]

≪画像および関連情報≫
 ●トランプ氏「壁は権利」/メキシコ大統領と会談
  ───────────────────────────
  【ワシントン=青木伸行】米大統領選の共和党候補、ドナル
  ド・トランプ氏は8月31日、メキシコを訪問しペニャニエ
  ト大統領と会談、メキシコとの国境に「壁」を築く正当性を
  主張するとともに、現行の北米自由貿易協定(NAFTA)
  はメキシコに有利だとし、再交渉するとの立場を改めて強調
  した。
   会談後の共同記者会見で、トランプ氏は「国境の安全を確
  保することは、主権国家の権利であり、相互の利益だ」と指
  摘。「壁を建設し違法な人、麻薬、武器の移動を止めること
  は、いかなる国にも認められている」と述べた。
   ただ、これまでトランプ氏が主張してきた、「壁」の建設
  費をメキシコに負担させることについては、「(会談では)
  論議しなかった。今後の話だ」と説明した。だが、記者会見
  の数時間後、大統領はツイッターで「会談の冒頭に、私はメ
  キシコが(建設費を)支払わないことを明確にした」と明か
  した。
   このためAP通信は「トランプ氏は真実を語らなかった」
  と報じた。記者会見で大統領は、良好な両国関係の重要性を
  強調しつつ、「すべてのことに合意できないに違いない」と
  指摘した。「メキシコ国民は(トランプ氏に)感情を害され
  た」とも述べた。         http://bit.ly/2c9Hyl9
  ───────────────────────────

ペニャニエトメキシコ大統領とトランプ氏.jpg
ペニャニエトメキシコ大統領とトランプ氏
posted by 平野 浩 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 孤立主義化する米国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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