得できたのでしょうか。
これには、アメリカという国の人口構造の変化が影響している
ことは確かですが、それにしても、長年米国の大統領選を取材し
てきているベテランのジャーナリストたちがなぜ、誰一人として
トランプ氏が激しい予備選を勝ち抜き、共和党の大統領候補の指
名を受けることを予測できなかったのでしょうか。
しかし、トランプ氏はちゃんとした戦略をもって選挙戦に臨ん
でいるのです。トランプ氏がどのようにして選挙戦を戦ったかに
ついて振り返ってみます。
2015年6月16日にトランプ氏が大統領選への出馬宣言を
したとき、誰も驚くことはなかったといいます。単なる泡沫候補
が一人増えただけであるとしか考えなかったからです。なぜなら
トランプ氏は、これまでにも複数回、出馬をほのめかしたり、第
三党で予備選に出馬したりしましたが、いずれも早々に敗退して
いたからです。
しかし、出馬宣言後、トランプ氏の支持は予想に反して大きく
伸びるのです。それでもその時点では、支持率でトップに立って
いたのは、やはりジェブ・ブッシュ候補であり、トランプ氏の支
持率はブッシュ氏の半分以下であったのです。
ところが、2015年7月になると、トランプ氏の支持は大き
く伸び、支持率のトップに立ったのです。サフォーク大学とUS
Aトゥデイ紙の世論調査です。回答者の3分の1が投票先を決め
ていないとするなかで、トランプ氏17%、ジェブ・ブッシュ氏
14%、他の候補は一桁の支持だったのです。
そのとき、多くの人はトランプ氏の躍進に驚きはしたものの、
大方の予想は「あくまで一時的なもの」であろうと思っていたの
です。しかし、今になって考えると、そのときすでに風向きは変
わっていたのです。
トランプ氏の支持急伸は、今では有名になっている出馬会見の
発言に原因があると思います。トランプ氏は、冒頭に次のスロー
ガンを打ち出したのです。
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Make America Great Again! アメリカを再び偉大にする!
─────────────────────────────
このフレーズを最初に打ち出したのは、ロナルド・レーガン元
大統領です。そのときの表現は正しくは次の通りです。
─────────────────────────────
Let's Make American Great Again.
─────────────────────────────
実はトランプ氏はこのフレーズを商標登録しているのです。し
かし、申請したところ、そのフレーズの登録をラジオ番組のパー
ソナリティであるボビー・ボーンズ氏が先に取得していることが
わかったので、トランプ氏は10万ドルを支払って、権利を譲渡
してもらったのです。それほどの投資をしたうえで、トランプ氏
はこのフレーズをスローガンとして使っているのです。
その証拠に、大統領選の共和党の候補者の一人であるスコット
・ウォーカー氏が演説でこのフレーズを使ったとき、トランプ氏
はスコット氏に対し、クレームをつけています。2015年5月
12日付のデイリーメール・オンラインは、これについて次のよ
うに報道しています。
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スコット・ウォーカーは、サウスカロライナのフリーダム・サ
ミットでトランプのお気に入りのキャッチフレーズを2回とどろ
かせることで、スピーチを終えた。その2時間後トランプは、デ
イリーメール・オンラインに「ウォーカーが私のキャッチフレー
ズを使ったことでがっかりした。私は実際それを商標登録した。
そのセリフを使うと非常に称賛される」と話した。
──間高一希著/『アメリカはなぜトランプを選んだか』
文藝春秋
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さらにトランプ氏は、このスローガンについて、「エコノミス
ト」誌のデイヴィッド・レニー氏によるインタビューで次のよう
に話しています。
─────────────────────────────
国民は何よりも再び偉大になるのをみたいと思っている、と思
う。私の全テーマは、Make America Great Again! である。これ
はこの国に対する偉大さのコンセプトである。国民は我々とビジ
ネスをするどの国にも、むしり取られていることに嫌気がさして
いる。中国であれ、日本であれ、メキシコであれ、ベトナムであ
れ。日本は自動車をアメリカにもってきてのさばっている。一方
通行だ。国民はアメリカで起きていることをみることに嫌気がさ
している。 ──間高一希著の前掲書より
─────────────────────────────
トランプ氏は、出馬演説でこのフレーズをスローガンとして打
ち出した後、今では既に有名になってしまったメキシコからの移
民の侵入を防ぐために「グレート・ウォールを建てる」という発
言をするのです。
当然のことながら、この発言は「暴言」としてメディアに取り
上げられ、それによって17人の候補者の誰よりも知名度はアッ
プしたのです。トランプ氏は意識して計算のうえ暴言を吐いてお
り、トランプ氏の名前は、米国のみならず全世界に広がっていっ
たのです。
しかし、ここにいたっても、大方の人はトランプの人気上昇は
過激発言によってテレビ露出が増え、それによる一時的なもので
あり、そのうち失速するだろうと考えていたのです。
しかし、そうはならなかったのです。それがはっきりするのは
2015年8月6日の最初の共和党の候補者討論会のときです。
この討論会は、支持率上位10人しか参加できないという足切り
があったのです。 ──[孤立主義化する米国/038]
≪画像および関連情報≫
●いまなぜドナルド・トランプなのか?
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不動産王として有名なアメリカの実業家、ドナルド・トラ
ンプ氏は、2016年の大統領選挙に出馬を表明。オバマ大
統領や移民に対する暴言、失言などが物議を醸しているにも
関わらず、共和党候補者としては一番人気を保っている。全
米に吹き荒れるトランプ旋風の背景には一体何があるのか。
まず、どういった人々がトランプ氏を支持しているのだろ
うか。BBCによると、トランプ氏の支持者は、年配で、よ
り経済的に豊かではなく、より教育を受けていない層だとい
う。政治コンサルタントのフランク・ルンツ氏による調査に
よれば、トランプ支持者は国の将来に悲観的、オバマ大統領
と主流派メディアが嫌いでイスラム教徒にも慎重だという。
調査の回答者の20%は自らを中道的と称しており、65%
が保守的、13%が非常に保守的と答えたという(BBC)
カナダのトロント・スター紙は、トランプ氏を支持する有
権者は、右寄りの白人低所得者層で、現在の政治システムに
裏切られたと感じている人々だと説明。71%のトランプ・
サポーターが懸命に働き成功するという「アメリカンドリー
ム」は消滅したと感じているとする。同紙は、オバマ政権下
で格差が拡大し、ミドルクラスの生活も苦しくなったとする
識者の意見を紹介し、「偉大なアメリカを取り戻す」という
トランプ氏の言葉が、不当に下層市民扱いされていると感じ
ている白人労働階級の支持を集めていると指摘している。
http://bit.ly/2bE9Ukw
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大統領選出馬宣言をするトランプ氏